もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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03 5人と1人

  翌日の放課後

 

「桂木センセー! お願いします!」

「チッ、忘れてなかったか」

「そりゃそうだよ。宜しくね!」

 

 忌々しい事に授業が終わった直後にちひろから声を掛けられた。

 流石に逃げるつもりは無かったが、僕の事を放っといてどこか行くようであれば帰るつもりだった。

 まぁ、あのちひろが僕に誠心誠意頼みごとをするほど本気だったんだ。忘れるはずもないか。

 

「じゃ、人の居なさそうな教室に移動するぞ。他の連中も呼んでくれ」

「呼ぶって言っても別クラスなのは結だけだけどね。

 歩美~、京~、エリー! 行くぞ~!」

 

 バンドメンバーか。

 これに結が加わって5人中3人が元攻略対象者。酷い過密具合だな。

 まあいい。僕は淡々と仕事をこなすだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? 桂木君……どこ行くんだろう?」

 

 授業が終わってすぐだったから誰も教室を出ていない。

 彼女は部活には入っているが、そこまで打ち込んでいるわけでもないから多少遅れても問題ない。

 そんな中、ただでさえ目立つ生徒が多数の女子と一緒にどこかへ行くという更に目立つ行動を取る。

 

 彼女が気になってこっそり尾行する条件は十分に揃っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 適当な空き教室まで移動して、僕はまず黒板の上でチョークを走らせた。

 

「ねぇ桂木、本当に100点取れるようになるんでしょうね?」

「そうだな……」

 

 バンドメンバー達に背を向けながら歩美の質問に答える。

 黒板に何かを書くという行動は簡単には短縮できないからな。最優先で終わらせなければ。

 

「結論から言うと、全員に100点を取らせる自信は無い」

「えっ!? それじゃあどうするのよ!!」

「僕は神だ。だが、神にも不可能というものがある。

 そう……そこのポンコツに100点を取らせる事とかな!」

「ふぇっ!? わ、私ですか!?」

 

 まともな人間相手なら100点を取らせる自信は十分にある。

 だが、色んな意味で『まともな人間』じゃないこいつには……ちょっと厳しいな。

 

「……ちょっと待って、私が相手なら100点を取らせる自信があるって事?」

「そう言ったつもりだが?」

「そんなのどうやってやるのよ!!」

「こうやって。よし、書けたぞ。

 これが、次の英語のテストの試験問題とその模範解答だ」

 

 前にかのんに見せたように、ここに居る連中に見せてやる。

 こんなものが教師に見つかったら即座に問題が差し替えられそうだが……パッと見で次のテスト問題だと判断できるのは児玉本人くらいだし、あの児玉がこんな所に見回りに来る事も無いだろう。

 

「えっ、あの、これ、マジ? カンニング?」

「人聞きの悪い事を言うな。単にあの単純な児玉が出す問題を予測しただけだ」

「な、なんだ。ただの予測なんじゃない」

「……今までのテストで外した事は一度もない予測だぞ?」

「…………マジ?」

「マジだ。これを一通り読み込むだけでも90点は行けるだろうな。

 そうだな……特にそっちの2人は余裕で満点が取れるようになるんじゃないか?」

 

 満点が取れそうな2人、結と京に視線を向けながら尋ねる。

 教室内の会話を聞く限りでは京は普通に点数が高かったはずだし、結には()()母親が居る。点数が低いわけがない。

 

「コレは……凄いね。確かに100点は余裕で取れそうだよ」

「私も大丈夫です。これが本当に正しいなら……ですけど」

「そこは信用してくれと言う他無いな。

 ま、お前たちの場合は余裕があるみたいだからこの予想問題を完璧にした上で個人的に気になる所を自習すればいいさ。

 ……残り3名にそんな余裕は無さそうだがな」

「いやいや、これやった上で他の勉強する余裕くらいあるって」

「そーですよそーですよ!!」

「……確かに、小阪の言う通り余裕が、時間くらいあるだろうが、その時間で効果的な自習なんてできないだろ? できるならもっと余裕そうにしてるはずだ。

 そしてエルシィ、貴様の場合は本当に余裕が無いだろうが!!」

「あれ? そうですかね?」

「お前が相手だと100時間かけても満点が取れない気がするよ。

 っと、そうだ。その辺の事も何とかしないとな」

 

 ちひろの頼みは『全員に100点を取らせる事』だが、あのバグ魔がそんな事できるとは到底思えない。

 だったら、別の所で何とかするだけだ。

 

「小阪、児玉と交渉して何とか条件を変更させられないか?」

「えっ!? あの児玉を説得しろって!? 無茶言わないでよ」

「エルシィに100点を取らせる方がよっぽど無茶だ。

 エルシィの点数に関しては2倍とか3倍にするとか、そんな感じで何とかしてくれ」

「って言うと……何点だっけ?」

「前回の私のテストは18点でした……」

「2倍なら36点、3倍なら54点だな。答えを丸暗記させて写させれば50点くらいは行けるはずだから上手くやってくれ」

「う~ん……とりあえず後でやってみるよ」

「そうしてくれ。

 ……あと残り50分くらいか。高原と小阪をそれぞれ20分ずつほど個別授業をして、残り10分で全体からの質問を受け付けるか」

「えっ、神様? わ、私は?」

「お前は答えを丸暗記する作業だから助けなんざ要らんだろうが」

「そんな! ヒドいですよ神様!!」

「異議は受け付けん。それじゃあ早速始め……ん?」

 

 ふと、視線を感じた。

 教室の中から……ではなく、扉の方からだ。

 

「……ああそうそう。この辺は間違えやすいから全員で一度確認しておこう」

 

 適当なセリフを吐きながら何気ない動作で扉に近づく。

 黒板の端から1歩ほど。これくらいが限界か。

 

「ここの構文だが、上手く使えば様々な表現に使える。

 例えば……こんな風に!!」

 

 一気に扉に駆け寄り、思いっきり開く。

 

「She seems to have been there since a few minutes ago.

 彼女は数分前からそこに居たらしい。とかな。

 で……お前は何でこんな所に居るんだ?」

 

 扉の向こうで尻もちをついていたサイドテールの少女。

 そう、吉野麻美がそこに居た。







久々の麻美さんでした!
郁美さんもまたいつか出したいです。
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