もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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『純真』の女神は運命の地に再臨す
プロローグ


「フハハ、フハハハハ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 ついにこの日がやってきた。

 

 僕は神だが、常に『ある物』にその権能を束縛されている。

 それは、『時間』

 落とし神モードで6本同時攻略をする等してその束縛は年々緩和されつつあるが、それでも時間の限界という物は存在する。

 しかも! 今年はエルシィが降ってきたせいでただでさえ貴重な時間がどんどんどんどん削れて行った!!

 だがしかし!!! この日を迎えた僕はその束縛から解き放たれる!!!!

 わざわざ学校に行く必要も無くなり、24時間ゲームし続けられる日が一月半ほど続く、この日。

 

 そう、『夏休み』がやってきたのだ!!!!!

 

「フハハ、フハハハハ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 終業式が終わったらまずはゲームショップに直行!! ゲームプレイにはゲームが必要不可欠である!!

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 続けて、保存が効きそうな食料を買い込む。

 どういうわけか食料が無いと途中で力尽きる。現実(リアル)というクソゲーの理不尽な仕様だ。

 

 

 準備を整えたら最高速度で家へ帰る。

 そしてこのまま自室に突入……と行きたいのだが、それをやると母さんが心配して扉をブチ破ってくるので先に挨拶を済ませておく。

 

「母さん。僕は今から40日ほど姿を消すけど心配しないように。それじゃ!」

 

 これで下準備は全て完了だ。後は神聖なるゲームタイムが僕を待って……

 

「コラ、待ちなさい」

「な、何っ、放せ! すぐそこに1000時間が!」

「何を訳の分からない事言ってるの。ほら、お客さんに挨拶しなさい!」

 

 母さんに言われて気付く。

 エルシィでもかのんでもない誰かがそこに座っていた。

 

「ほら、覚えてるでしょ? 昔うちの隣に住んでた鮎川さんよ」

「えー? 桂馬君? うわ~懐かし~」

 

 はて、鮎川とかいう人物に心当たりは全くないが……さっさと挨拶してゲームしよう。

 

「ども。それじゃあ」

 

 最大限譲歩した挨拶をして自室に向かおうとする。

 そして、また阻止された。

 

 

ガシッ、 ドスッドスッドゴォッ!

 

 

「ゴラァ! ちゃんと挨拶しなさい!!」

「ド、ドーボ、ゴンニヂワ……」

 

 おい母よ。顔面を殴られたらまともな挨拶なんてできないぞ。いや、そういう問題じゃないが。

 

「大きくなったね~桂馬君。

 おばさんの事覚えてる? 10年ぶりだけど」

 

 ここで正直に『覚えてない』等と言うと母さんか鉄拳が飛んでくるのは間違いないので適当に頷いておく。

 

「あの桂馬君が17歳かぁ。うちの娘と同い年だもんね。

 ほら、天理! 桂馬君よ!」

 

 よく見てみると鮎川さんとやらの隣には1人の女子が居た。

 前髪がやや長めで俯いているので表情は伺えない。何故か梱包に使うプチプチを手で潰している。

 人の家に挨拶に来ておいて手で何かをいじっているだなんて、常識がなってないな。

 

(ほら桂馬! 小学校の時一緒のクラスだった天理ちゃんよ!)

 

 いや、誰だよ。

 小学校と言っても6年間あるからどこか分からな……いや、10年振りって言ってたから……小学校1年生の頃か。

 ……やっぱり分からんな。その頃攻略してたゲームならハッキリと覚えてるが。

 分からないが、正直に言うと以下略なので適当に頷いておく。

 

「ほら天理! 桂馬君だよ!」

 

 向こうの母親もうちの母親と同じような事を言い始めた。

 そこに居た女子、天理は少しだけ顔を上げ、目線が合うと同時にまた俯いた。

 プチッ、プチッというプチプチを潰す音だけが居間に響き渡る。

 

「ごめんなさい。うちの子、相変わらず無愛想で……」

「うちもすみません、変な子で」

 

 よし、一段落したようだな。さて、ゲームだ!!

 極めて自然な動作で立ち上がろうとし……

 

バタン!

 

「神にーさま! ただいま戻りました!!

 ほら、見てくださいよ! 私、賞を貰っちゃいました!!」

「お前かよ!! 今入ってくるなよ今!!」

「えへへっ! ほらほら! 室長賞ですよ!!

 あ、そう言えばお手紙はちゃんと渡しておきましたよ!!」

「ああ、良くやった。良くやったからサッサと離れろ!!」

 

 エルシィは駆け魂隊の報告会とやらで地獄に旅立っていた。

 旅立つ更に数日前からエルシィが旅行か何かの準備をしている事を察したかのんがエルシィに直接問い質して発覚した事だ。

 かのんのおかげで何とか手紙を用意できたわけだが、そういう事はちゃんと報告してほしかった。バグ魔に何を言っても無駄だろうが。

 

 いや、そんな事はどうでもいいんだ。

 問題は、この自称妹が乱入してきた事で話がややこしくなるという事であって……

 

「あれ? 下のお子さんって居たっけ?」

「ちょっと、色々とありまして……」

「お客さんですか? 初めまして、エルシィです!!」

 

 この状況で立ち上がっても咎められないだろうか? 殴られて強制的に着席させられるのはごめんだぞ?

 仕方ない。一段落した後の行動をイメージトレーニングしておくか。1秒たりとも無駄にはできない。最速でゲームを始める為にっ!!

 

 

ドロドロドロッ

 

「「っ!?」」

 

 今……センサーが鳴った?







 鮎川母の『うちの娘と同い年』という発言がありますが、天理の誕生日は1月3日なので、この時点ではまだ16歳のはず。(桂馬の誕生日は6月6日の17歳)なので厳密には同い年では無いっ!
 まぁ、同年代ではあるんでどうでもいい事ですけどね。
 しかし、桂馬の誕生日をある程度覚えていて17歳だとあっさり言ってのけたのは何気に凄いと思います。

 梱包に使うプチプチの正式名称は『気泡入り緩衝材』だそうです。
 桂馬なら知っててもおかしくない無駄知識ですが、モノローグでは使わずに見た目だけの呼び方をしておきました。
 だって、気泡入り緩衝材ってパッと出てきても伝わらないもん……

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