もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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中編

 避けては通れないだろうとは思っていたが、予想以上に面倒な時にやってきたな。

 

「天理という相手が居ながら、他の女性を2人も家に連れ込んでいる。

 どういう事なのか、説明して頂けるんでしょうね?」

 

 この女神、予想通りに面倒な感じになってるな。

 はてさて、どこまでごまかしが効くものなのやら。

 ……差し当たっては……

 

「何や何や? 修羅場か? 桂木ってモテるんやな~」

「お前は黙ってサッサと帰れ。帰って特訓でもしてろ」

「あ~、せやな。また今度。さいなら!」

 

 地獄だとか女神だとかの事情を全く知らない七香には早々にご退場願った。その辺にいちいち気を遣って話すなんて面倒だからな。

 しかしアッサリ帰ったな。特訓でもしてろという僕のセリフが効いたのか、それともディアナの矛先が自分にも向いている事を察して逃げたのか……

 

「で、ディアナで良いんだよな? 説明するからとりあえず上がってくれ」

「そんな事を言って、逃げたりしないでしょうね?」

「しないしない。サッサと来い」

 

 正直言うと逃げたいが、仮に逃げた所で家は隣り同士だから逃げられないだろう。

 

「私はどうすれば良いかな?」

「一緒に来てくれ」

 

 確かめなきゃならん事もあるからな。

 

 

 

 

 

 

 ひとまず3人で居間まで移動した。

 僕の隣に当然のように座ったかのんをディアナが凄い目つきで睨みつけている。女神がそんな顔して大丈夫なのか?

 睨みつけられているかのんもいつものアイドルスマイルが心なしか引き攣っているようだ。

 

「では、説明して下さい」

「ちょっと待て、あと少しでセーブできる」

「こんな時までゲームですか!? 何を考えているんですか!!」

「……よし、セーブできた。

 んじゃあまずは……これ何本に見える?」

 

 指を3本立ててディアナに突きつけてみる。

 

「バカにしているんですか!?」

「大事な事だ。答えてくれ」

「……3本ですね。それがどうかしたんですか?」

「では次、()()、何色に見える?」

 

 本命の質問として、かのんの髪を指差しながら問いかけた。

 かのんの本来の髪色がピンク系の色なのに対して、『西原まろん』の設定は黒髪ロングだ。錯覚魔法が効いているか否かの判断にはうってつけってわけだ。

 さて、結果は?

 

「黒ですね。何か関係があるんですか?」

「……分かった。変な質問に付き合わせて悪かったな」

 

 女神まで誤魔化してるのかよこの錯覚魔法は。凄い性能だな。

 まあ、そういう事であれば『中川かのん』ではなく『西原まろん』を紹介すれば問題ないな。

 

「まず、先に帰ったあいつ、榛原七香についてだが、アレは将棋仲間だ」

「ショーギ? ショーギとは何ですか?」

「知らないのか? 天理も?」

「ちょっと待ってください……ああ、ありました。名前だけは知っていたようです。

 2人対戦型のボードゲームの一種ですか」

「ああ。毎週のように押しかけて一局対戦して帰ってくだけだ。

 決してやましい関係ではないと断言しておこう」

 

 付け加えて言うのであれば、七香の方も僕の事を恋愛的な意味で意識した事は無いだろう。

 もし恋愛感情がひとかけらでもあるなら修羅場に遭遇して他人事みたいに楽しそうにしたりしないだろうからな。

 

「どうだ、納得したか?」

「一週間に1回のペースで二人きりで将棋をしていると。そういう事ですね」

「ああ。そういう事だ」

「年頃の男女が二人きりで……十分やましい事ではありませんか!!!」

「何故そうなった!?」

「いいですか? 天理以外の女性とは一切会話してはいけません! 肝に銘じておきなさい!!」

「そんな縛りを設けて生活できるか!!

 ……いや、意外とできるか」

「桂馬くん!?」

 

 ゲームやるのに口は要らないからな。日常生活にあまり支障は出なかったりする。

 駆け魂狩りの時はかのんと、ついでにエルシィとも密に連携を取る必要があるから厳しいな。

 ……いや、ボイレコを通じて話せばイケるか?

 

「って、違う違う。

 厳しすぎるだろうが! うちの家族にまで嫉妬するつもりか!?」

「むぅ……確かに家族とも話せないのは困りますね。天理も父親と会話はしていますし。

 仕方ありません、家族との会話は許してさしあげましょう」

 

 家族がセーフとしても十分厳しいがな。

 だが好都合だ。先にもう1人に関してを済ませてしまおう。

 

「……そうかそうか、家族はセーフか。なるほどな。

 じゃ、こっちの従妹はセーフだな」

「ん? イトコ?」

「まろん、自己紹介してくれ」

「うん。初めまして、天理さんとディアナさん。

 桂馬くんの従妹の西原まろんです。

 引っ越していらっしゃった時は挨拶できなくて申し訳ありませんでした。今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます」

「い、イトコ……従妹ですか」

 

 大分動揺しているみたいだな。僕とかのんの事を恋人か何かだと思ってたのか?

 七香はまだしも、平然と家の中まで付いて来てるんだから家族・親戚を疑ってもよさそうなものだけどな。

 ……まぁ、実際には本当に赤の他人なわけだが。

 

「ちょっと待ってください。どうしてただの従妹が私の名前を知っているんですか?」

「私もそっち方面の関係者だからね。ほら」

 

 かのんが自分の首を指し示す。

 そこには僕やエルシィが着けている物と同じ、契約の証である首輪が存在していた。

 

「地獄と契約を結んだ、と言うより結ばされた証だ。

 ドクロウの奴、いつかぶん殴る」

「そ、そうですか」

 

 僕の神聖なるゲームライフを粉砕したドクロウへの恨みは手紙一通程度で晴れる事など有り得ない!

 次に手紙を送る時は爆薬でも仕掛けておくか。読み終えたら自動的に爆発する感じのヤツを。

 

「……そう言えば、その地獄との契約。その辺については前回はあまり話せませんでしたね。

 今の地獄の情勢なども含めて教えていただけないでしょうか?」

 

 ……さて、どこまで誤魔化せるだろうか?







 七香と会う前は天理もディアナも将棋に関してはほぼ知らないとしておきました。プレイヤーが2人必要なゲームを天理が好んでやっていたとは到底思えないので。
 原作の4コマでは天理も結構な実力者になってましたが……学力5(桂馬と同格の評価値)を生かして頑張って覚えたんでしょう。きっと。


 話の途中で七香さんの件がディアナさんの頭からすっぽ抜けています。従妹ショックの影響ですね。
 実は最初はちゃんと追求する展開を考えていたのですが、実際に書いてみたら予想以上に険悪な雰囲気になってしまい、凄く後味が悪そうな展開になりそうだったので断念しました。
 面白い修羅場を書ける能力が欲しいです。切実に。

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