「……どこまで話したっけ?」
「そうですね、封印から解き放たれたヴァイスの魂を新悪魔の人たちが追っているという事ですかね」
「それしか話してなかったか」
「はい。あと、ノーラという人とエルシィという人が新悪魔……ですよね?」
「そうだな」
こんな所で嘘を言ってもしょうがないので肯定しておく。
「じゃあそうだな、僕の立ち位置についても説明しておくか」
「確かに気になっていました。ただの人間が地獄に関わっているなんておかしいですからね」
「ホントおかしな話だよ。
ヴァイスの魂を追う新悪魔……駆け魂隊の悪魔は……人間の協力者と契約をするらしい」
原則1人という事を言おうとしたが、そうなると特例で2人居る現状を説明しなければならなくなり、そこから突っ込んだ質問をされかねないのでボカしておく。
「人間の協力者ですか。それがあなた達というわけですね」
「そういう事だ」
「しかし、どうしてわざわざそんな事をするのでしょう? 悪魔だけでは駆け魂は処理できないのですか?」
「…………そういう事を考える上の連中と直接話したわけじゃないから推論が混ざる。それでも良いか?」
「構いません。お願いします」
「僕が思うに大まかに分けて2つ。
まず、悪魔の暴走を防ぐ為。
ノーラの件を見れば分かるように、僕を、人間を容赦なく殺しにかかるような悪魔も居る。
そういうのの暴走を防ぐ為に必要なんだろう。
駆け魂攻略も悪魔が率先して行うのは『原則禁止』らしいからな」
「……その割にはあのノーラという人は暴走してましたよね?」
「バディーがアホだったんだろう」
ノーラも建前としては『バディーが無能だから』みたいな事を言ってたしな。
まさかとは思うが、上の連中はそれを見越してあのアホバディーをノーラに付けたんじゃないだろうな?
「で、二つ目。こちらが大きな理由だと思うが……
駆け魂を攻略するには人間が向いているから、だな」
「攻略ですか?」
「ああ。前にサラッと言ったが駆け魂というのは人の心のスキマに隠れている。
そのスキマを特定し、そして埋める事で駆け魂はようやく外に出てくる。
人の心を理解するのは悪魔よりも人間の方が遥に向いているだろう?」
「なるほど、そういう事であれば人間に協力を求めるのも納得ですね」
あくまでも推測に過ぎないが、そういう事だろう。
しっかし、そういう理由でこのルールが作られてるって事は昔に暴走して人間を虐殺してまわってたような悪魔が居たんじゃないだろうな?
……考えてもしょうがないか。今はルールがあって僕達は巻き込まれている。これが全てだ。
「ところで一つ、疑問があります。
その駆け魂の攻略。具体的にはどのような事をするのですか?」
ついに来たか。この質問。
この受け答え次第では非常に面倒な事になる。怪しまれない範囲で上手いこと誤魔化す必要がある。
「方法は様々だ。その人の悩みを解消したり願いを叶える事で心のスキマは埋まる。
例えばノーラの場合、『天理が僕を憎んでいる』というあいつの思い込みが仮に正しかったなら僕を痛めつけた時点で恨みが晴れてスキマが埋まる……なんて事になるわけだ」
「有り得ない仮定ですね。何故あそこまで思い込んでいたのでしょうか?」
「どうせ失敗したらその時はその時だとテキトーに考えてたんだろうな」
駆け魂を逆に成長させてしまったとかいう噂もあながち嘘では無いのかもしれない。
その場合、何故あいつがクビにならないのかという新たな疑問が浮上するが。
「で、僕の場合はその時々に応じて様々だ。
親に反抗できなくてスキマができてしまった奴には反抗の為の勇気、きっかけ、手段を与えてやったな。
憧れの人と仲良くなりたがっていた奴はキューピッド役を演じた。
道標になろうとして、孤独と不安で自分を見失ってた奴は……上手いこと励ました。
あとは……西原、一つ頼む」
「えっと……あの人の事だね。
自分が得意な勝負事であっさりと負けちゃってスキマができちゃった人には敗北にもちゃんと価値があるんだって事をじっくりと教えてあげたよ」
大体こんな感じか。恋愛による攻略を除けば。
ちひろの件は心のスキマの原因がかなり違うが、あくまでたとえ話なんだし余計な事は言わないで良いだろう。
「……何というか、割とショボいですね」
「そういう事は実際にやってみてから言ってくれ。抱えてる悩みを吐き出させるだけでも恐ろしく大変なんだぞ?」
「そ、そうですか。申し訳ありません。
攻略については大体分かりましたが……」
「まだ何かあるか?」
「当然です。学校の屋上で天理にキスをしたのはどういう事ですか?」
やっぱり訊かれるよなそこ。
攻略のフリと称してやった事だ。キスを伴う攻略についても当然訊いてくる。
「エルシィ曰く、心のスキマを埋める一番の方法は『恋愛』だそうだ。キスできるレベルまで仲良くなれば上出来らしい。
あの時は切迫してたんで分かりやすい見た目のインパクトが必要だったからああしたまでだ」
「恋愛……そうですか。
桂木さん、つかぬ事を伺いますが……
……天理以外の女子とキスなどしていないでしょうね?」
この質問も来ると思ってた。
勿論、ちゃんと返答も考えてある。
「ハッ、そんなわけが無いだろう。
何で好き好んで3Dの女子とキスせにゃならん」
「そうですか? その割にはずいぶんと手慣れていたように見えましたが?」
「そうか? まあ僕は神だからな。
「…………」
ディアナがじーっとこちらを見つめてくる。
こちらは決して目を逸らさない……などというあからさまな事はせず、飄々と受け流す。
「……まあいいでしょう。
念のため言っておきますが、これからも恋愛などという手法は使ってはいけませんよ。
あなたには天理という相手が居るのですから」
「相手云々はともかく、恋愛に関しては心配するな。
そんな面倒な方法はわざわざ使わんから」
「……そうですか。では、今日はそろそろ帰らせていただきます」
「ああ、じゃあな」
そう言ってディアナは帰って行った。
何とか……乗り切ったようだな。
「ふぅ、疲れた」
「お疲れさま、桂馬くん」
ひとまずは誤魔化せただろう。
七香とかのんが居る所に突然現れた時はどうなるかと思ったがな。
エルシィが居なかったから何とかなったという面もあるかもしれない。あいつが居たら何かしらやらかしてた気がするから。
「……中川、女神についてどう思う?」
「そうだね……駆け魂を封じていた存在なんだから味方になってくれれば心強いと思うよ。
けど、制御するのが凄く大変そうだね。神様だったらああいう性格なのはしょうがないのかな?」
「女神……か。
そう言えば、女神ってあいつの他にも居るのかな?」
「えっ? 確かに……そうだね。
1人居たんだからもう2~3人居てもおかしくないかもね」
「……あんなのが沢山居るとか勘弁してほしいな」
「そ、そうだね」
上手いこと味方になってくれるなら、攻略せずに駆け魂だけを捕えるみたいな芸当ができても不思議ではない。
探してみるか?
……いや、ノーヒントで捜せってのは無茶だ。
しばらくは普通に駆け魂を狩るしかないか。
「……あ、そう言えば」
「どうしたの?」
「天理の奴、結局何しにきたんだ?」
「……あれ?」
『はっ、しまった!
天理を桂木さんと交流させるはずだったのにすっかり忘れてました!!』
(よ、よかった。突然話せって言われても何も話せないもん……)
『何をホッとした顔をしているのですか! 今からまた行きますよ!!』
「い、今から!? 今日はもういいよ!!」
なんて会話があった可能性が無きにしも非ず。
というわけで後日談終了です。
修羅場にするつもりだったんですが、上手いこと修羅場になりませんでした。
う~ん、難しいです。
いつもはボロを出すエルシィが居らず、かのんは恋愛的なアピールを一切しないのでよっぽどの無茶をしないと事件にならないんみたいですね。
駆け魂狩りに関してかなり誤魔化したのでディアナさんの知識量が原作と結構乖離している気がします。
攻略対象が常に女性だという事も知らなければ記憶消去される事も知らないという。
大丈夫かなぁ……? なんとかできるように頑張ります。
では、また次回!!