もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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03 憑依条件

 田舎の朝は早い。

 日の出と共にに起きて日没と共に寝るような生活だ。都会の人間とは合わないな。

 昨日はなるべく頑張って徹夜してゲームして、寝落ちしてたら慌てた様子のエルシィに叩き起こしてもらって、そしてまた寝落ちしてたから凄く眠い。

 

「ほら桂馬、お義母さんが作ってくれたんだからしっかり食べなさい!」

「はいはい」

「ところで桂馬、エルちゃんは何をしてるの?」

「……お化けが怖いそうだ」

「だ、だってだって、見たんですよ! 青白い人影を!!!」

 

 エルシィはさっきから僕の隣で布団を被って振るえている。

 幽霊を見たなどとホザいているが、このバグ魔の事だからどうせ見間違いだろうな。

 

「誰かが散歩でもしてたんじゃないか?」

「あんな時間に散歩してる人が居たらそれだけでも不気味ですよ!!

 と言うか、浮いてたんで絶対違います!!」

「それだったら……駆け魂なんじゃないか? アレも浮いてて青白いぞ?」

「その場合は宿主が居ない事になるので駆け魂ではなくはぐれ魂って呼ばれますけど……

 いや、そうじゃなくて、センサーにも反応してなかったので違います!!」

「……昨日は墓地辺りに居るのが見えたって言ってたよな?

 この家からだとどう考えてもセンサーの有効範囲外だと思うが?」

「…………あっ!!」

 

 テキトーに言ってみたが、仮に駆け魂だとしたらそれはそれで面倒だな。

 まぁ、センサーで見つかってないという事は僕達が見つけたという記録は残っていない。現状では僕が攻略する義務は無いな。

 

 

 ん? 待てよ?

 ここは田舎で高齢者が人口の大半を占めている。

 『駆け魂を放置すると育ってゆき、やがて隠れた女の子供として転生する。だから女子に取り憑く』

 子供が産めるか否かという事が駆け魂にとって重要なのであり、心のスキマや負の感情だけが目的であれば極論だが男子に取り憑いても問題ないわけだ。

 人間の女性でも高齢者の場合、子供が産めると判定されるのか……?

 そういう場合、最初から取り憑こうとしないのか、それとも取り憑いた後で何か問題が発生するのか。

 ……場合によっては本当に攻略の必要性が無いかもしれんな。

 

 

「まぁ、夜になったら一応調べてみるか。一応な」

「そ、そうですね!! 駆け魂だったら大変です!!」

 

 ただの見間違いの可能性も十二分に存在するがな。

 

 

 

 

 

 

「今日はどうしましょうか神様~」

「また散歩でもするかなぁ。しかしなぁ……」

 

 昨日みたいにかのんとバッタリ出くわすのも面倒だ。

 でもまぁ、人が多い所を避けていれば大丈夫……

 

「ようやく見つけたわよ!!!」

 

 よし、昨日は北側を見て回ったから今日は南側に行ってみよう。

 

「って、無視するんじゃないわよ!!」

「んぁ?」

 

 肩を掴まれたので振り返ると昨日かのんと一緒にいた金髪サイドテールが居た。

 名前は確か……

 

「……誰だっけお前」

「ムキィィィイイ! 黒田棗よ!! 今度こそ覚えなさいよね!!」

「そういやそんな名前だったな。で、僕に何の用だ?」

「あ、アンタねぇ……この棗様がわざわざ声をかけてあげているってだけでも幸運だっていうのにその態度は何よ!」

「……用が無いなら行っていいか?」

「無いわけが無いでしょう!! バカじゃないの!?」

「はいはい、で?」

「調子狂うわね……えっと、アンタって特にひいきにしてるアイドルは居ないんでしょ? だったら私のファンになりなさい!!」

「……よしエルシィ、今日はあっちの方行くぞ~」

「りょーかいです神に~さま~」

「コラッ!! 待ちなさいっ!!」

 

 再びガシッと肩を捕まれた。面倒くさいな。

 

「仕方ない。2つ質問だ。

 何でわざわざ僕にファンになってもらいたいんだ?」

「そんなの決まってるわ。

 あの中川かのんですら落とせなかった相手を落とせたら自慢できるじゃないの!」

 

 それは本人に言って良いのか? バカ正直なのか、それともそう言ってのけた上で落とす自信があるのか。

 

(……おいエルシィ、こいつらは仲悪いのか?)

(えっと……姫様と棗さんが一緒に居る所は見たことありませんけど、姫様の話を聞く限りでは仲が悪いという話は聞いたことがありません)

(ふむ……良い意味でライバル的な存在なのかもな)

「何をゴチャゴチャと話してるの。2つ目の質問は?」

「ああ、スマンスマン。

 2つ目は、ただ漠然とファンになれと言われても困る。

 何かアイドルらしい所を見せてくれないとファンになるかならないかなんて判断しようがないわけだが、その辺はどうするんだ?」

「そりゃそうね。勿論ちゃんと考えてあるわよ。付いてきなさい!」

 

 そんないきなり付いてこいと言われてもだな……

 まあいいか。どうせ散歩するだけの予定だったし。







 棗さんが某とある小説のビリビリ中学生に見えてきた件について。
 いやまぁ、完全に作者である自分のせいなんですけどね。

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