もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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06 スキマを抱えて

 愛梨にPFPを返してもらった後、愛梨のおばあちゃんに家に招待された。

 

「桂木さんの所の方でしたか。うちの愛梨がご迷惑をおかけして失礼しました。

 この子、私の娘の子で夏休みに遊びに来てるんですけど、不気味な事ばっかり言うんで学校じゃあだれも相手にしてくれんそうなんです」

「みんな……愛梨の事怖がる」

 

 そりゃそうだろうな。コレとまともに向き合える小学生が居たらそっちの方がビックリだ。

 

「えっと……すみません、怖がったりして……」

「クビ切るぞ」

「ひぅっ!? やっぱり怖いですぅぅう!!!」

「こら愛梨! そんな事を言うから誰も近付いてくれないんよ!」

 

 挨拶感覚で脅迫めいたセリフを出されたらそりゃそうなるな。

 

「友達はええもんよ。愛梨もいーっぱい友達を作らんと」

「ばあちゃんも友達いっぱい居たか?」

「おったよおったよ。ほれ、見なさい」

 

 愛梨の婆ちゃんが示したのは壁に飾ってある写真だ。

 10人ちょいくらいの人と『結婚おめでとう!』という横断幕が写っている。

 

「おばあちゃんの結婚式、友達いっぱいでしょ!

 友達のおかげでええ人生送らせてもらったよ」

 

 都会だったら10人ちょいの結婚式なんて小規模もいい所だが、田舎ならこんなもんか。

 むしろ繋がりの深い友人だけを厳選している分良いのかもな。

 

 そんな話をしてから、その家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして夜。

 

「さあやりましょう神様!! 今日こそあのお化けもどきの正体を突き止めてやるんです!!」

「あーそーだな」

 

 エルシィが昨日見たと主張するお化けの調査を始める。

 本来僕がやる義務は全く無いんだがな……まあいいか。少し体を動かしてた方が寝落ちしなそうだし。

 

「あっ!! 早速居ました! アイツです!!」

「マジか」

 

 エルシィが指差す方を見ると確かに青白い光が浮いていた。

 あの人影は……愛梨のように見えるな。

 

「うぅぅ……アレは結局何者なんでしょうか?」

「……本当に幽霊だったりしてな」

「ええええっ!? 怖い事言わないでくださいよ!!」

「駆け魂だとしたら……ひとまず愛梨の家に向かうぞ」

「えっ? あの子の家ですか!?」

「あれが駆け魂によるものなのだとしたら、恐らく宿主はそこに居る」

「愛梨ちゃんがですか? 昼間あれだけ遊んであげたのに……」

「いや、愛梨ではなく……まあいい。行けばハッキリするはずだ」

 

 

 

 

 

 暗いせいで道が分かり辛かったが、何とか愛梨の家を見つけ出した。

 

「結界はちゃんと展開できてるな?」

「モチロンです! 透明化も防音も完璧です!」

「じゃ、入るぞ」

「おじゃましまーす!」

 

 愛梨の家に侵入させてもらう。

 不用心な事に玄関に鍵はかかってなかった。かかってたとしても羽衣さんの力で開けていたが。

 

「寝室はどこですかね?」

「多分こっちの方だろう」

 

 寝室はアッサリと見つかった。

 愛梨とその婆ちゃんが仲良く寝ているようだ。

 

ドロドロドロドロ……

 

「あっ、センサーが!」

「やはりな」

「じゃあやっぱり愛梨ちゃんが……あれ? 何か反応がズレてるような……」

「愛梨はスキマを抱えていない。スキマがあるのは、婆ちゃんの方だ。違うか?」

「……確かに、そうみたいです。何でお昼の時は鳴らなかったんだろう?」

「駆け魂が相当弱ってるんじゃないか?

 子供として転生する駆け魂だが、もう子供を作れないような宿主だと力が補充できないんだろう」

「あっ、なるほど!! 学校でもそんな事を言ってたような気がしなくもないです!!」

「……もっと早く思い出してくれよ」

 

 とはいえ、やはり今回は攻略は必要なさそうだな。

 ……外の幽霊はおそらく婆ちゃんの子供時代の姿。

 それが夜に出てくるって事は、その頃の夢でも見てるのかねぇ。

 老人にとっての子供の思い出……か。今の僕にはその心のスキマを理解する事はできないだろう。

 ……こうやって、皆が心のスキマを抱えているのかもな。

 

「ど、どうしましょう神様!」

「まずは中川を呼んで……それから、駆け魂には説得して出てきてもらおう。

 転生できない事が分かれば諦めて出てきてくれるだろうさ」

「分かりました。それでは行ってきます!」

「待て待て、僕を一旦外に出してから……いや、待つのも面倒だから一緒に行くか」

「はいっ、了解です!」

 

 

 

 

 

「うぅぅ……眠いよ桂馬くん……明日も収録あるのに……」

「悪いな。一曲歌ってくれれば後は寝てていいから」

「桂馬くんは悪くないよ。駆け魂が出たならしょうがないもんね。

 頑張って歌うよ」

 

 頑張ってくれてはいるがそれでも眠たそうだな。

 

「エルシィ、手早く終わらせてくれ」

「はい。えっと……駆け魂さん。そこに居る悪魔の魂さん。聞こえてますか?

 そこに隠れていても無駄ですよ。お婆さんは子供を産めませんから。

 あなたが転生するのは……不可能です」

 

 語りかけてしばらくすると、愛梨の婆ちゃんの体から青白くて丸っこい小さな駆け魂が顔を出した。

 どうやら言葉は届いていたようだ。

 

「出てきてくれてありがとうございます。

 せめて苦しまないように送らせてもらいます。

 魂をしっかりと精算してから、生まれ変わってきてください。

 ……姫様、お願いします」

 

 

 

 

 ……こうして、駆け魂は消滅した。

 

「お婆さんが相手でも取り憑けるけど、転生はできない……か」

「姫様? どうなさいました?」

「ううん、ただ……ここの人たちの心のスキマはそう簡単には埋まらないんだろうなって」

「……そうだな。簡単には埋まらない。

 きっと、ここの人たちはスキマを受け入れて生きているんだろうな」

 

 そんな奇妙な状態を理解できる日がいつか来るんだろうか?

 ……そんな事を考えてもしょうがないか。

 

「さ、帰ろうか。お前も早く眠らないといけないんだろ?」

「うん。そうだね……おやすみ……」

「おいっ! ここで寝るなよ!!」

「連れて行ってあげましょうか、神様」

「はぁ、そうだな」

 

 おやすみかのん。また今度会おう。







 幽霊もどきとの会話はカットです。攻略に必要不可欠かと言われたそうでもない気がしたし、原作と大して変わらないので。

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