もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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04 イベント

 多少の不安はあったけど、お仕事の方はエルシィさんに任せて私は桂馬くんと学校へ登校する。

 桂馬くんはPFPをいじりながら歩いている。ホントにいつもやってるんだなぁ……

 

「でも、のんびり学校なんて行ってて良いのかな?」

「どういう意味だ?」

「桂馬くんの事だから、学校なんてサボって何かすると思ってたよ」

「そういう進行もアリと言えばアリだが、せっかく一緒に学校に行けるんだ。最大限利用した方が良い。

 学校ってのは大半のギャルゲーに於いて欠かせない場所であり、イベントの宝庫だ。同じクラスならなおさらな」

「そういうものなの?」

「そういうものだ。

 こうやって一緒に登校するというのもイベントの一つだな」

「え、そうなの? それだったら何かした方が良いの?」

「いやいや、そう身構えるな。

 強いて言うなら、話したい事を話せば良い。

 何かの議論をするわけじゃないんだから」

「あ、そっか」

 

 だけど身構えなくて良いと意識すると逆に緊張してしまう。

 って言うか、そもそもこれってギャルゲーのイベントなんだよね? 男子と女子が、その、恋愛関係になる感じのゲームの。

 さっきまで何ともなかったのに何だか凄く恥ずかしい感じがしてくるよ!

 な、何か、何か話題を!

 って言うか桂馬くんもゲームばっかりやってないで何か……

 

『どこ行ってたのよ!

 私を放っておくなんて、バカじゃないの!?』

 

「あれ? 今の台詞……」

 

 桂馬くんのPFPから聞こえてきた声に凄く聞き覚えがあった。

 これってまさか……

 画面を覗き込んでみて疑惑は確信に変わった。

 

「どうした?」

「このゲーム、私が声を当てたゲームだ」

「何!? ……言われてみれば、確かにお前の声だな」

 

 私が声を当てた作品はいくつかあるけど……今このタイミングで桂馬くんがそのゲームをやってるってどれだけの確率なんだろう?

 ……あ、そうだ。

 

「それじゃあさ、このゲームの話をしてよ」

「このゲームの? 声を当てたお前なら大体知ってるんじゃないのか?」

「それはそうだけど……ほら、プレイヤー視点ではどんな風に感じるのかな~って」

「ふむ、お前にとって面白い話かどうかは分からんが……まあ良かろう」

 

 桂馬くんがPFPの画面を見せながら話し始める。

 

「このゲームのメインヒロインの名前は紫音。属性は分かりやすい『ツンデレ』だな」

 

 ツンデレ、好きな人の前では素直になれずつい冷たい態度を取ってしまう感じの娘。

 その娘が素直になった時のギャップが良いとか何とか……そんな感じだった気がする。

 

「ひとむかし前にツンデレヒロインが結構人気になったおかげか最近ではにわかツンデレのキャラも多いんだが、紫音は珍しく正統派のツンデレだ」

「それは……良い事なのかな?」

「どうだろうな。最近のツンデレが良いという人も居るし、正統派のツンデレが良いっていう人も居るし。ぶっちゃけ好みの問題だな」

「好み……桂馬くんの好みってどんな娘なの?」

「フッ、そこに女子が居るなら、僕はいかなる相手でも攻略する!!」

「そ、そう」

 

 うーん、気になるなぁ……

 

「そもそも、属性だけが一人歩きしてるヒロインなど三流以下だ。

 その女子の性格やバックボーンがしっかりしてないゲームはクソゲーだ!」

「そこまで言うの!?」

「当然だ。例えば、『べ、べつに○○の事なんて○○じゃないんだからね!』と全ての台詞で必ず言ってくるヒロインが居たらどう思う? かなり極端な例だが」

「それは……凄く不自然と言うか何と言うか……」

「そうだろう? 他にも『音楽さえ良ければいい』とか『絵が良ければいい』みたいなテキトーな発想で作られたゲームは大抵はクソゲーになる。

 クリエイターはそんなものを充実させる余裕があるならヒロインへの愛を磨くべきだな」

「な、なるほど……」

 

 つまり、『ゲームを商品として売りつける』のではなく『一人の女の子を世の中に送り出す』気持ちで思いやりを持ってゲームを作れば自然と良い作品に仕上がるって事かな?

 ゲームとクリエイターの関係はアイドルとマネージャーの関係に少し似ているかもしれない。

 岡田さんだって私の体調や要望なんかも考慮しながらスケジュールを組んでくれている……はずだし。

 

「ところで、そのゲームはどれくらいまで進んだの?」

「攻略60%程度だな。そろそろツンデレの『デレ』の部分が出てくるだろう」

 

 凄い。当たってるよ。

 

 

 

 

 

 

 桂馬くんとエルシィさんの席、ついでに私の席もそこそこ離れているので授業中に会話したりといった事は無かった。

 何かの授業で2人組を作る機会とかがあれば良かったんだろうけど、残念ながら今日はそいう授業は無かった。

 そういうわけで、特に語ることもなく下校時刻になった。

 

 

 

 

「さ、帰ろうか」

「うん。これもイベント?」

「よく分かってるじゃないか。

 下校イベントというものは非常に重要なイベントだからな!!」

「登校よりも?」

「そうだな……イベントの価値という意味ではそこまで差は無いが、そもそも一緒に登校できる環境というものが限られているだろう?」

「……それもそうか」

 

 私たちの場合は一緒に住んでるから登下校が完全に一緒になるけど、そんなケースは殆ど無さそうだ。

 

「まあ、電車通学やバス通学の場合には途中で合流して一緒に登校する事も割と良くあるんだが……到着時間が決まっている上に回りに結構人が居るから2人でのんびり会話……という流れにはなりにくい。やはり下校イベントの方が重要だ」

「なるほどね」

「ちなみに、勘違いするにわかゲーマーも多いんだが……下校イベントはデートイベントよりも重要なイベントだ」

「そ、そんなに重要なの!?」

「いや、重要という言い方には語弊があったか。

 正確には『デートに誘う前にまず下校イベント』だ。

  1、下校イベント

  2、連絡先の交換

  3、デート

  4、女子からの下校イベント。

  5、3と4の繰り返し。

 恋愛というものはこうやって高まっていくものなんだ!!」

「そ、そうなんだ」

 

 ホントかなぁ……?

 

「あれ? でも私たちってもう連絡先の交換は済んでるよね?

 それでも下校優先なの?」

「……ま、まあな」

 

 今、間があったよね?

 

「と、とにかく帰るぞ。会話は帰りながらでもできる」

「う~ん、それもそうだね」




アニメでかのんちゃんがギャルゲーのアフレコをやってる場面があったので入れてみましたが……実際のアイドルはここまで手を広げているものなのか? 声優の仕事のような……
まぁ、事務所とかにもよるんでしょうけど。

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