もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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04 交友

「それで今現在ボロボロになってる……と」

 

 攻略が始まってる事に私が気付いたのは桂馬くんがボロボロの状態で帰ってきた時だった。

 攻略対象の気を引く為に凄い泳ぎを演出して無茶したらしい。

 

「うぐぐ……僕だってあそこまでの勢いで引っ張られるとは思わなかったよ」

「ご、ごめんなさい神様」

「中途半端な泳ぎよりはずっと良い。ずっと良い……はずだ」

 

 エルシィさん、どれだけ強く引っ張ったんだろう?

 

「水泳……水泳かぁ……」

「どうした中川。水泳に何か嫌な思い出でもあるのか?」

「嫌な思い出って言うか……私、昔からカナヅチなんだよね」

「へぇ、意外だな。お前なら個人メドレーくらいなら余裕でこなしそうなイメージがあったが」

「どんなイメージなのそれ!? 私なんて膝の高さの水に浸かるだけでアウトだよ!!」

「それは流石に盛りすぎじゃないのか!?」

「それくらい苦手って事だよ」

 

 流石に膝の高さの水に溺れる事は無いけど、なんかこう凄いストレスになる。

 この事情は岡田さんも知っているのでプールとか海とかに関わる仕事は極力取らないようにしてくれている。

 そのせいでと言うべきかそのおかげでと言うべきか、そういう理由で私がカナヅチだっていうイメージが広まらないんだろうね。

 

 

「ところで桂馬くん、どうして攻略してた事を私に言わなかったの?」

「あれ? 言ってなかったっけか」

「聞いてないよ!?」

「それは済まんかったな。確か……ああそうだ、この攻略は延期も視野に入ってたんでその辺が決まるまで言わなかったんだった」

「延期って……大丈夫なのそれ?」

「家に引きこもられていたらどうしようもなかったんだが、まあ何とかなりそうだと判断して攻略開始に踏み切った。大丈夫だ問題ない」

「なら良いけど、この後はどうするの?」

「この後か……基本的には、何もしない」

「何も?」

「今回の攻略では僕はみなみの『先輩』という立場を最大限利用する。

 これはアイドルキャラにも言える事なんだが、高嶺の花である存在とポンポン遭遇したらレアリティが薄れるだろう?」

「あ~、何となく分かるかも」

「だから、僕自身が積極的に動くのは逆効果と言える。理想としてはみなみの方から僕の事を探してくる展開だな」

「一回会っただけの人をそんな探すかな?」

「そこはみなみの交友関係の広さによるな。どうせ部活引退後の夏休みでヒマしてるんだし、放っといても探し始める公算は十分にある。

 放置で無理なようなら……少し後押ししてやるとしよう」

「ふ~ん……」

 

 状況は大体把握できた。私の出番はまだまだ先になりそうだ。

 

 ……そう言えば桂馬くん、私に分かりやすいように登場頻度とレアリティの話をしてくれたけど、その理屈で行くと私のレアリティは一体どうなってるんだろうか?

 今度ちょっと問い詰めてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ……翌日 舞島市内某所にて……

 

 今日の私は水泳には行かず、友達を遊んでいる。私にだって水泳以外にできる事があるのです。

 

「お~みなみ、噂は聞いてるぞ~。水泳ばっかやってるボサボサ頭の奴が居るって」

「3年頑張ってそんなボサ頭になったってのに、お前さんはまだ満足しとらんのか。ハハハッ」

 

 友達……という事にしておこう。今は。

 確かに私の毛先はハネてるけど、それしかネタは無いのだろうか?

 

「ああ可哀想に、そんな頭じゃ男もできないだろうになぁ」

「いやいや、爆発に巻き込まれた~とか言えば納得して貰えるかもしれんぞ」

 

 ……こいつら、いつかシバく。

 

「と言うか、そっちこそ男と一緒に祭りに行くとか言っておいて結局居なかったじゃん」

「何だとコラー!」

「言って良い事と悪い事があるだろ!!」

 

 夏休みの前に近くの神社でちょっとしたお祭りがあったのだが、友人Aことあっこが『一緒に行く人が居る』などと見栄を張り、友人Bこと斎藤も便乗したのだ。

 そして私もやっぱりヒマだったので1人でお祭りに行ったら……仏頂面で歩いてる友人どもを見つけて結局3人で歩き回る事になった。

 ……悲しい事件だった。

 にしても、男かぁ……

 

「あ、そう言えば……」

「どうしたみなみ、何か面白い話か?」

「面白いってわけじゃないけど……ちょっとね」

 

 少し迷ったけど、昨日遭遇した謎の人物について相談してみる事にしたのです。

 私は知らなかったけど、あれだけ泳ぎが速い人なら水泳部の誰かしらは知っている、少なくとも噂くらいは流れているはず。

 

 

 

「夜のプールに居た短髪眼鏡の謎のスイマー? みなみぃ、夢でも見てたんじゃない?」

「そんな事は無いと思うけど……」

「そいつそんな速かったの? コバより?」

「ずっと速かった……と思うよ」

「ん~、そんな速い人なら水泳部? そんなの居たかなぁ?」

「おいみなみ、その男ってイケメンだった?」

「えぇ? な、何で?」

「いいからいいから。それじゃあブサイクだった?」

「薄暗かったからよく見えなかったけど……その2択だったらイケメンだった気がする」

 

 一体何故そんな事を?

 そう思ったけどその疑問はすぐに解消された。

 

「よし、ならコイツで調べてみよう」

「さ、斎藤!! まさかそれはっ!!」

「そう、舞高騎士団ファイル!! 高等部のさる人物が編纂したと伝わる伝説のファイルだ!!」

「で、伝説……?」

「そう、この書物には舞高のイイ男が纏められているのだっ!!」

 

 それにあの人の事が載っていれば正体が掴めるって事か。

 ……ところで斎藤、どっから取り出したのそれ?







 かのんちゃんのカナヅチネタを入れてみたり。ノリを重視してちょっと盛ってみましたが、実際にはどの程度なんでしょうね?
 原作では「ステージから落ちたらどうしよう」と言っており、アニメ版ではウォータースライダーの方を見ながら「あそこから落ちたらどうしよう」と言っています。
 ステージから落ちるというそうそう無い事をわざわざ心配するほどプールが苦手なのか、それともスライダーの上から落ちるという誰であってもひとたまりもないような事をわざわざ悩むほど病んでいて、実は水泳技術は関係なかったりしたのか……

 舞高騎士団ファイルを作った人って本編中に出てるんですかね? 『高等部の人が作った』と斎藤が言っていますが……
 居るとしたらちひろですかね? わざわざ纏めるようなマメな性格ではないので違う気はしますが一枚噛んでいるくらいなら有り得るかも。
 ちなみに、舞()騎士団ファイルなどと呼ばれていますが原作の絵を確認すると普通に中等部の人の情報まである模様。

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