もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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「……そういう事か」

 

 かのんとみなみが居る席のすぐ近くで隠れていた僕はかのんからのメールを見るとおもむろに立ち上がり、2人に近づいて声をかけた。

 

「邪魔するぞ」

「えっ、か、桂木先輩!? い、いつから居たんですか!?」

「最初からだ。外でもゲームはできるからな」

「えええええっっ!?」

 

 かのんがさりげなくスペースを開けたのでそこに座らせてもらい、自分の席から持ってきた水を一口飲む。

 ……普通の水だな。

 

「エルシィから僕の事を探してる後輩が居るって聞いて何事かと思ったが……大体把握した」

「エルシィ……あっ、あの人が喋ったんですか!?」

「こういう事は口止めしとかないと……いや、口止めしても喋りそうだからな。あいつ」

 

 こういう事を本人に喋るかどうかは性格で分かれそうだが……エルシィの場合はバリバリで喋る派だし、攻略にも関わってたからな。

 

「お前が抱えてる悩みは、『終わり方に納得してない』って事だろうな。

 気合を入れて最後の試合に臨もうとしたら参加できなくなって、なんとなく終わってしまった事に納得できていないんだろう」

「そ、そんな事は無い……です」

「本当か? まあいいさ。

 僕に言える事はたった一つ。

 どうか終わりを恐れて始める事を恐れないで欲しいという事だ」

「…………」

「あ、あともう一つだけ。

 

 3年間、よく部活を頑張ったな。おめでとう」

 

「っ!!」

「……なんてセリフは僕には似合わんか。ずっと帰宅部だった僕にはな」

「あ、あのっ!」

 

 みなみは何度か深呼吸してから、こう言った。

 

「ありがとうございました。桂木先輩と話せて、桂木先輩と出会えて良かったです」

「……大した事はしちゃいないさ。それじゃあな」

 

 さりげない動作で領収書を抜き取りレジへと向かう。

 流石に僕の言葉だけでは駆け魂は出ないか。恋愛ルートなら今ので止めだったんだろうがな。

 まあ、僕が止めを刺す必要は無い。時間の問題だな。

 

 

 

 

 その後しばらくして、水泳の県大会が終わった後、みなみの駆け魂は心のスキマから追い出された。

 先生から、後輩からの言葉が引き金になったようだった。

 

 

 

 

 

 

 

「え~、みなみ、高等部でも水泳続けんの?」

「うん。そのつもり」

「せっかく3年間終わって自由になったってのに、物好きなヤツだな~」

「確かにそうかもしれないけど……やっぱり私、泳ぐのが好きだから」

「ま、みなみがやりたがってるなら別に構わんけどね。

 今度こそ大会出ろよ。そしてコバをぶっ潰せ!」

「ぶっ潰すかどうかはともかく……精一杯やってみるよ」

 

 部活を続けて、きっと辛い事もあるだろう。

 けど、私は進もう。終わりを見据えて。

 どんな終わり方をするかはまだ全然分からないけど、恐れずに進もう。

 終わりを恐れて始める事を恐れてちゃ意味が無いんだから。

 ……あれ? これって誰のセリフだったっけ。

 ……まあいいか。今は泳ごう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局今回は恋愛ルート使わなかったね」

「後輩属性が相手だから本来は恐ろしく簡単なはずだったんだがなぁ……」

 

 やはり夏休み中に進行するのは無理があったか。

 それに、みなみの行動力が予想以上だった。軽音部に辿り着くのが早すぎたからみなみが想像を膨らませる時間も少なくなってしまったし、先輩としての『手の届かない高嶺の花』というアドバンテージもかなり弱くなってしまった。

 ……結果的に何とかなったが、計画はボロボロだったな。反省しなければ。

 

「終わり方……か。桂馬くんも終わりを惜しんだ事ってある?」

「何度もあるぞ。神ゲーの攻略が終わってしまうのは嬉しい事でもあるが、悲しくもある。

 かと言って、エンディング直前で止まるなど愚の骨頂だ」

「そりゃそうだろうね……」

「今回の場合はエンディングイベントの直前でバグで止まったようなものか。やっぱり現実(リアル)はクソゲーだな」

 

 もしこれがギャルゲーなら『選手と第一補欠と第二補欠が何かのトラブルに巻き込まれて出場できなくなった! 第三補欠のみなみが出場し、僅差で優勝できた!』みたいになるんだろうが、現実(リアル)ではそんな波乱は起こらずに普通に戦って代表選手がそこそこの成績を残したようだ。

 エンディングとしては落第点だな。次回作に期待したい所だ。







 原作のみなみの心のスキマの原因は『終わり』なのか、それとも『終わり方』なのか。まあ、両方と言ってしまえばそれまでですが……
 例えば水泳大会に出場して優勝して達成感を味わって……みたいな流れであれば満足できたんじゃないかなと。だから、どちらの比重が高いかと言われると『終わり方』の方なのではないかと。

 だから、『お疲れ様』って言ってあげるだけでも相当救われるんじゃないでしょうか?

 そう思って、原作みたいに恋愛ルートに持って行ってサクッと攻略するのも面ど……つまらないのでこんな流れにしてみました。いかがだったでしょうか?


 では次回についてです。
 日常回Bを引きました。夏休み中に既にやってるものをもう一度というのはどうかと思うので夏休み終了イベントを起こした後で何とかしたいと思います。

 あと、最近リアルの事情が少々立て込んでいるので少し遅れる……かも。
 本格的に忙しくなる前に夏休みを終わらせたいです(願望)

 では、また次回お会いしましょう!

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