プロローグ
カレンダーというものがある。
日付が表になって並んでいるアイテムであり、大抵の一般家庭ではリビングの壁とかに設置される代物だ。
中には日めくりカレンダーとかの変わった物も存在するが……そんな事はどうでもいい。
重要なのは、カレンダーが日付を伝えるという役目を果たしている事であり、そしてそれが今現在何日を示しているかということだ。
8月、31日。
8月の最終日であり、金曜でも土曜でもないので夏休みの最終日となる日。
「いや、おかしいだろ!! ちょっと前には夏休みに入ったんで1000時間プレイできるとか言ってたはずなのに!!!」
夏休みが始まったと思ったら天理と女神サマがやって来て、
一段落したと思ったら墓参りに付き合わされて、
みなみの攻略が始まって、大会終わるまでもちょくちょく様子見して、
……そして、今に至る……というわけか。
ふざけるな! どうしてイベントがそんなに押し寄せてるんだ!!
「って、こうしちゃいられない。今日だけでもゲームを可能な限り消化……」
「神様~! 一緒に遊びませんか~!!」
「ふんっ!!」
何故か近くに置いてあったダンボール箱を勢いよく被せて手早くガムテープで封をする。
『ムギュー!? か、神様ぁぁ!?』
「あ、もしもし、荷物の配達お願いします。大至急で!!」
これでエルシィの処理完了。こいつは放置してもイベントを持ち込んできそうなので遠くに送ってしまう。
なお、エルシィの結界術の攻撃的用法ならダンボール如き軽くブチ破れるだろうが、本人が気付くのには結構な時間がかかるだろう。それだけの時間があれば十分だ……と信じたい。
「何か凄い物音がしたけど、どうかしたの?」
「おお中川、丁度いい所に。
この荷物を玄関まで運ぶのを手伝ってくれないか?」
『フムギュー!!』
かのんは唸る箱を見て、数秒だけ考えてからこう言った。
「うん。分かった」
『フムギュー!?』
かのんはその場のノリでエルシィを見捨てた……わけではなく、エルシィならその気になれば簡単に脱出できると悟ったのだろう。
箱はガタガタとうるさかったが、2人で運んだので簡単に運べた。
「この辺でいいか。助かったぞ」
「ところで、エルシィさんは一体全体何をやらかしたの?」
「僕の残された神聖なるゲームタイムを妨害しようとしてきたからな!!」
「……そういう事か。昼食は部屋に持って行くね」
「昼くらい抜いても全く問題ないが」
「いやいや、身体を壊したら元も子もないでしょ」
「……気が向いたら食べておく」
「気が向かなくても食べてほしいよ……」
おっと、こんな話をしている場合ではない。
夏休みは残り約14時間。さぁ、溜まりに溜まっている積みゲーを消化し……
「ご、ごめんください……」
踵を返してドアノブに手をかけた時、そんな声が聞こえた。
振り返らずとも分かる。女神とかいう面倒なヤツを体の中に抱えた少女、天理だ。
こういう奴の話はいつも長いと相場で決まっている! 無視だ無視!!
「じゃ、接客は任せた」
「ちょっ、桂馬くん!?」
素早い動作でドアを開け、中に入り、閉める。
鍵まで閉めるか一瞬考えたが、門前払いでは女神は納得しないだろうし力ずくでこじ開けられたら面倒だ。開けたままにしておこう。
さて、今のうちに部屋に飛び込んで閉じこもっておこう。僕の部屋の扉もブチ破られる可能性はあるが……その前に可能な限りゲームをするぞ!!
……その前にトイレ行っておくか。
「まったくもう、何なのですかあの態度は! せっかく天理がわざわざやって来たと言うのに!!」
桂馬くんに置いていかれた天理さん……じゃなくてディアナさんは憤慨しているようだ。そりゃそうだよね。
「ごめんなさいね。桂馬くんも忙しいから。(ゲームで)」
「それでもです。確かに事前の連絡も無しに押しかけた私たちにも非が全くないとは言いませんが、あの態度は無いでしょう!!」
ディアナさんの言ってる事は正論だと思うけど、桂馬くんが相手だからね。
あの神様を常識に当てはめて考えようとするのが間違っている。ディアナさんも神様だけどさ。
さて、穏便にお帰り頂くのが桂馬くんにとってのベストだろうけど、流石に少々忍びない。ほどほどにもてなさせてもらおう。急にオフになった私も暇だったんで話相手が居てくれた方が嬉しいし。
「それじゃあ上がって」
「……あ、あの……」
「どうしたの? ディアナさん……じゃなくて天理さん」
「こちらの箱は……」
『フムギュー!!!』
「……気にしなくて良いよ」
「そ、そうですか」