何とか進行できているだろうか?
許嫁ルートというものは攻略に時間がかかるタイプのルートだ。
時間と秘密の共有により少しずつだが好感度を上げて行けているとは思うんだが……今回のコレは色々と余計な要素が入っているからややこしい。
更に追い討ちをかけるように時間が限られている。
何らかの方法で短縮できればありがたいんだが、どうにかならんかなぁ……
今は中川と下校イベント中だ。
幸いと言うべきか僕の攻略理論に興味を持ってくれているようなので話すネタは尽きない。
「誰にでも共通して使える手法に『互換フラグ』というものがある。
攻略対象に恋愛とは関係ないフラグで自分を意識させ、何らかの方法でそれを一気に恋愛へと変化させる、というものだ」
「『恋愛とは関係ないフラグ』って?」
「例えば僕が歩美にやったように怒らせるとかだな」
「つまり、『別の感情で埋めた後にそれを恋愛感情にする』って事だね」
「そうだな。そういう事だ」
「ところで、その恋愛感情への変換はどうやるの?」
「一番手っ取り早いのは告白だな。そうする事で相手に強制的に恋愛を意識させる事ができる」
「あ~、なるほど」
「……ところで、大丈夫か?」
「何が?」
「僕が言うのもどうかとは思うが、こんな話で楽しめているのか?」
「大丈夫、すっごく楽しいよ。演技とかの参考にもなりそうだし」
「演技か……お前が声を当てたゲームが神ゲーになる事を願うよ」
「ゲームだけじゃなくてドラマの撮影もあるんだけどね」
「構わん。ゲームがあるなら」
「桂馬くんもブレないなぁ……」
好感度は上がってはいる……と思うんだが……
完全なサポートキャラが突然攻略対象になったような状態は僕も経験が無い。
更に付け加えると事前に攻略対象に入るようなフラグも無かったし、過去に何か因縁があったわけでもない。
要するに……好感度が読みにくい。
僕と中川が初めて会った瞬間から攻略ヒロインとして観察してればまだ違ったんだろうがな。
ああくそっ、どうして
……手段を選んでいる場合ではないか。
今夜、仕掛けてみるとしようか。
……そして、夜……
母さんと僕と中川の3人で夕食を取る。
エルシィは帰ってこなかったんだが……中川によれば仕事が忙しくて事務所で一晩過ごす事も割と良くあるから心配要らないとのことだ。
そういう訳で中川は今もエルシィに変装してる。エルシィが居ないと母さんが一晩中探し回りそうだからな。上手い言い訳も思いつかないんで諦めた。
中川が居ない理由なら『仕事が忙しいから』で一発なんだけどな。
「二人とも、お風呂沸いたからどっちか入っちゃいなさい」
「……エルシィ、先入ってくれ」
「は~い、それじゃあお先に頂きますね」
そうだな、2分だ。2分待ってから行動開始だ。
うちの風呂場は浴槽のある部屋の手前に水道や洗濯機の部屋があり、着替えやらタオル、歯ブラシ等を置いておく場所がある。
まぁ、至って普通の構造だな。
シャワーの音を確認してからその手前の部屋に静かに入る。
そして自分の歯ブラシを適当に咥えて懐からPFPを取り出す。
念には念を入れてゲームを3本ほど持ち込んでいるので、1本1時間でクリアしたとしても3時間はかかる計算になる。
それをずっとやっていたらどうなるか?
答えは……火を見るより明らかである。
ガラッ
「……え?」
「…………あ」
風呂場から出てきた一糸まとわぬ中川と目が会う。
ここで過剰に慌てても嘘っぽく見えるので冷静に対処する。
「あ~……スマン」
「…………き」
「き?」
「きゃぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
中川は女の子らしい悲鳴を上げながら着替えの山からスタンガンを取り出す。
そうか、そう来るか。
咄嗟にPFPを適当に放り投げる。落下の衝撃で壊れないと良いんだが……まぁ、電気で壊れる確率よりは低いだろう。
そしてそのまま……
「あばばばばばばば!!」
スタンガンを思いっきり押し当てられた。
そしてそのまま僕の意識は途切れた……
……でも、せめてツッコミを入れさせてくれ。
こんな所までスタンガンを持ち込んでるのは異常じゃないのか!?
※ 気絶しますが、安全なスタンガンを使用しています! 多分!