もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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02 天界と地獄

 私による女神講座は特にご本人……ご本神からの訂正もなくつつがなく終了した。

 ハクアさんは疑わしそうな表情をしている。

 

「天界の女神ねぇ……」

「旧時代の悪魔の封印に関わったって話なんだけど……」

「まぁ、天界の存在自体は知ってはいるけど、地獄との交流なんて殆ど無いわ」

「え、交流とか無いんだね。ちょっと意外」

「人間が地獄や天界にどんなイメージ抱いてるかは知らないけど、人間界と地獄との交流が無いのと同じように地獄と天界の交流も存在しないわ」

「その例を出すなら駆け魂隊っていう例外があるよね?」

「駆け魂隊は特例中の特例ね。そういう意味ではもしかしたら極秘にこっそり交流してる連中がいる可能性までは否定しないわ。

 地獄の入出国管理はかなり厳しいから考えにくいけど」

「昔戦争してた時代は? 平和な今よりはきっと緩かった……とまでは言わずともきっと隙があったよね?」

「うーん、当時の事に関しては私もよくは知らないけど、アルマゲマキナの時代に関しても少なくとも私は聞いたことが無いわ。

 旧地獄の封印に関わってるなら英雄として歴史の教科書に載っててもおかしくないはずなのにね」

「ハクアさん、それは私が嘘を吐いていると遠回しに言っているのですか?」

「……いや、ここまで壮大な話が作り話とも思えないわね。当時の新悪魔たちが旧悪魔に苦戦してたなら第三勢力に援護を頼むっていうのも筋は通ってるし。

 ただ、鵜呑みにするのはちょっとねぇ……」

「ふむ……致し方ありませんね。私としても証明できるものは何もありませんから。

 しかし、どういう事なのでしょう。何者かが私たちの記録を抹消しているのでしょうか?」

「わざわざそんな事をする暇人が地獄に居るかしらねぇ?」

 

 そもそもそんな抹消なんて簡単にできるんだろうか?

 ……地獄の技術は記憶の操作すら可能にするから、意外となんとかなるんだろうか?

 それにしたって膨大な手間だろう。うーん……

 

「……その理由、仮説でも良いなら思い当たるぞ」

 

 ここに来てほぼずっと黙っていた桂馬くんが口を開いた。

 こういう地獄とかの話題に積極的に関わろうとするのは珍しい気がする。今回の話題はデリケートだから積極的になったのかな?

 

「本当ですか? 教えていただけますか?」

「簡単な事だ。情報を隠す一番の目的は『独占』だ」

「独占、ですか?」

「ああ。お前たち女神は凄い力を持ってるんだろう?

 かつての戦争では悪魔を封印したわけだし、当時の能力には及ばずとも今でも凄い力を持っているんだろう?」

「凄い力、ですか。人間で言う所の『凄い』がどの程度かは分かりませんが……海を割ったり雷を落としたりといった事は普通にできましたね」

「凄いな!?」「凄いね!?」「凄いわね!?」

 

 予想以上に凄かったよ神様!!

 

「凄いですか? ですが例えば天理は帽子から花を出す魔法が使えるのです。

 それに比べたら大した事は無いでしょう」

「いや、種も仕掛けもあるマジックとガチの魔法を一緒にするなよ!!

 って、それはまあいい。大事なのは天変地異を起こし得るエネルギーを女神は持っているという事だ。

 人間社会で生かすだけでも相当な利益が得られるだろうし、地獄ならもっと効率的に働かせる事もできる。

 ゲームでは魔法使いや超能力者とか、あるいは神様が機械に繋がれてエネルギーを吸い取られ続けるなんてのはよくある展開だ」

「いやいや、アンタは地獄にどんなイメージを持ってるのよ!!

 って言うかゲームと一緒にするんじゃなわよ!!」

「地獄のイメージ? 詐欺紛いの手法で人の命を盾に嫌な仕事を押しつける極悪集団だが?」

「むぐっ……た、確かに否定できないけどっ!

 いやいや、駆け魂狩りは誰かがやらないと人間界も甚大な被害を受けるんだから誰かがやらないと……」

「駆け魂狩りの契約は置いておくとして、地獄にだって人間界で言う所のマフィアみたなイリーガルな連中が居てもおかしくは無いだろう。

 そしてそういう連中は大抵は権力者と繋がってるものだ。記録の抹消など容易い……とまでは言わずとも不可能ではないだろう」

「……まるで実物を見てきたかのように語るわね」

「当然、ゲームで見たことがあるからな」

「またゲームかいっ!!」

 

 ゲーム云々はさておいて、桂馬くんの話に目立つ矛盾は無いように思える。

 ただ、間違っていると断定できる要素が無いだけで、これが真実であるという証拠も無さそうだ。

 これ以外にも『その悪人に情報が渡らないように善人が隠してる説』なんかも唱えられそうだ。最初に言ってたようにあくまでも仮説だね。

 

「そういうわけだから、この話は上には報告しない方が良いだろう。

 下手すると、消されるぞ」

「んなっ!? そんなバカな話あるわけないでしょう!?」

「ホウ? ではハクア、貴様は断言できるんだな? 駆け魂隊やその上部の連中が誰一人として例外無く善人……もとい、善悪魔である事を」

「………………」

「無理だろう? ま、組織なんてそんなもんだ。

 だが安心しろ。消されるなんてのは最悪の事態を想定した場合の話だし、そもそも『天界の女神』の件は『地獄の旧悪魔』とは全く関係無いというのが地獄の公式見解だ。

 お前が報告する義務など一切存在しない」

「……分かった。そういう事にしとくわ。この件は私の胸の中にしまっておく」

「助かる」

「別に構わないわ。お前への借りを少しは返せると思えばね」

「……まあいいか。それくらいで確約が得られるならな」

 

 これでハクアさんとディアナさんとの顔合わせは一段落したかな。こういう話題は疲れるよ。

 ようやく一息つける……なんて思っていたら厄介事が飛び込んできた。

 

「た、たたた大変です神様!!」

 

 箱から抜けだしたらしいエルシィさんが、飛び込んできた。







 ふと思ったこと。
 何故、『地獄と天国』でも『冥界と天界』でもなく『地獄と天界』なのだろうか?
 まぁ、原作中に地獄に生息する『メイカイサンマ』なるものが登場していたので普通に冥界とも呼ばれているんでしょうね。昔は冥界と呼ばれていたとかもあり得るかも。


  追記

 ちゃんと調べてみたら原作9巻でディアナさんが『冥界』と呼んでいるので300年前の呼び方はきちんと冥界だった説が濃厚のようです。原作者さんが最初からキチンと想定してたかまでは不明ですが……気にしないでおきましょう。

  更に追記

 原作9巻をもっとよく調べてみたらディアナさんが『今は地獄と呼ばれるようになった冥界』とおっしゃっておりました。昔は冥界呼びで今は地獄と呼ばれている事が確定のようです。
 うーん、ちょっと疲れてるのかなぁ……お騒がせしました。

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