もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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03 新地区長の襲来

 偽装優等生と自称女神の面倒くさそうな初顔合わせが終わったと思ったら箱詰めにしておいたはずのバグ魔が飛び込んできた。

 タイミングが少し早くなくてマシだった……と思う事にしよう。そうじゃないとやってられん。

 

「どうした?」

「はいっ! つい先ほど法治省からの通信が来まして……」

 

 法治省? いつもみたいにドクロウ室長からの通信じゃないのか。

 

「内容は?」

「はい! えっと、新しい地区長が……」

「ハァイ♪」

 

 エルシィが言い切る必要は無かった。

 庭の方から聞こえた聞き慣れないが聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはノーラが居た。

 

「おやぁ? エルシィだけじゃなくてハクアも居るのね。

 新しい地区長様の歓迎会の準備でもしてくれたのかしらぁ?」

 

 こいつの登場から約40日が経過しているが、その面倒さはよく理解している。

 よっきゅんを葬られるという許しがたい暴挙を犯した愚物だが……あの後再びゲームをプレイする事で一応復活させる事ができたのでここは寛大な心で水に流してやろう。

 それより、2人の発言から考えるとどうやらノーラが新しい地区長になったようだ。

 

「どういう事!? ここの担当はシャリィだったはずよ!?」

 

 あ、ここにも地区長って居たんだな。全く見たこと無かったが。

 

「最近ここいらの地区の割り当てが見直されて地区長が増員されたのよ。シャリィは隣の地区に移ったわ。

 増員ってのはちょっと気に食わないけど、昇進は昇進よ。

 エルシィはこれからは私の部下ってわけね」

「……ハクア、そんな事を言われたが地区長の権力ってのはどの程度まで及ぶものなんだ?」

「えっ!? えっと…………

 …………言われてみれば権力ってあんまり無いわね」

「んなっ!?」

「まあ、だよな。シャリィとやらを見たことも聞いたことも無いからそうだとは思ってた」

「駆け魂隊の悪魔が数人掛かりでないと勾留できないような大物が出た時なんかはリーダー役をする事になるらしいけど、そんな大物が出たって話は聞いたことが無いわね」

「そういう緊急事態を除けば業務内容はヒラの悪魔と変わらないんじゃないか?」

「そうね……少し増えるかしら。地区長以上が参加する会議とか結構あるし」

「以上? 地区長より上があるのか?」

「ええ。現地で働く中で最も上なのが筆頭地区長ね。それ以上は地獄で指揮を出してるドクロウ室長とか、その辺になるわ」

「ふぅん。ヒラの方が楽そうだな」

「身も蓋もないわね……否定はしないけど」

 

「お、お前たち!! この私を差しおいて話してるんじゃないわよ!!」

 

 あ、ノーラまだ居たのか。すっかり忘れてた。

 

「えっと? 地区長になったんだって? はいはい、おめでとー」

「アンタ、さっきまで地区長を散々バカにしてたわよね? 喧嘩売ってんの!?」

 

 事実確認をしてただけで喧嘩を売ったつもりはない。

 それに、ノーラ本人も言ってたように昇進は昇進だ。名誉とかと重んじるのであればめでたい事に変わりは無い。

 僕なら絶対になりたくない事に変わりは無いがな。

 

「フ、フン、まあいいわ。それより、ここは私の地区なんだからサッサと自分の地区に帰りなさいよ地区長さん?」

「有事の時に出しゃばるならともかく、平時で地区長が他の地区に立入禁止になる何てルールは存在しないけど……」

「何? 逆らう気?」

「……他の地区に居座ってるってのも褒められた事じゃないのは確かね。今日は帰るわ」

「あら? 珍しく聞き分けが良いわね。何か悪い物でも食べた?」

「別に、間違ったことは言ってないと思っただけよ。じゃあねエルシィ」

 

 ハクアは帰るのか。天界関係の話が一段落した所だから丁度いいな。

 さて、次はどうやってノーラを追い返すか。テキトーにあしらえば帰ってくれるか?

 と、そんな事を考えていたらこんな言葉が投げかけられた。

 

「ホラ、何ボサッとしてんの。協力者(バディー)であるあんたも早く帰んなさい」

「…………え?」

 

 ……かのんに、そんな言葉が投げかけられた。

 

 

 

 

 

 私、ハクアさんの協力者じゃないんだけどなぁ……

 ただ、ノーラさん視点でこの部屋の面子を見てみると凄く納得だ。

 桂馬くんとエルシィさんの2人組は面識がある。天理さんも一般人として覚えられているはずだ。

 そしてハクアさんが居て、契約の首輪を着けた私が残っている。

 うん、どう考えても私がハクアさんの協力者になるよね。

 ここは否定は……しない方が良いね。エルシィさんに2人の協力者が居るって事は特殊な事らしいからノーラさんには伏せておいた方が良さそうだ。

 

「あ、すみません。ボーッとしてました。ハクアちゃん、帰ろっか」

「え? いやいや、ちょ、ええっ?」

(ここは話を適当に合わせて!!)

「え、ええ……帰りましょうか」

 

 何だか凄く言いたいことを我慢してるような表情のハクアさんの手を取って玄関まで引っ張っていき、そのまま家を出て適当に歩く。

 

 

 

 数ブロックほどの距離を歩いた所に公園があったのでそこのベンチに腰を下ろした。

 

「ごめんハクアさん。ノーラさんが相手の時は私が協力者って事にしといて」

「……ああ、そう言えばお前も協力者だったわね。

 確かに、エルシィに協力者が2人付いている事は隠しておくべきね」

「だよね? 異常な事なんだよね?」

「ええ。前にドクロウ室長にも訊いてみたけど、ゴリ押しした特例だからあまり広めないように頼まれたわ」

 

 ゴリ押し? 権力か何かでゴリ押したって事なのか、書類を捏造でもしたのか……あまり触れない方が良さそうだ。

 桂馬くんと私の元々の役割(最近は曖昧になりつつある気がするけど)を考えると、私がエルシィさんの為に協力者に追加された感じなのかな?

 室長さんはどうしてそうまでしてエルシィさんを使おうとしてるんだろうか?

 う~ん……

 

「…………あ、そう言えばさ」

「何?」

「ハクアさんの協力者ってどんな人なの?」

「…………できれば、訊かないで」

「あ、うん」

 

 どうも触れられたくなさそうだ。気にはなるけど気にしないでおこう。







 地区長の仕事って何だろうとふと考えてみました。
 檜編の時みたいな転生しかけの大型悪魔が出現しない限りは現場での仕事はヒラの悪魔と変わらないのではなかろうか……と。
 他にも自分の地区の悪魔がしっかり働いてるか監督するような仕事があっても不思議ではありませんが……羽衣に記録機能があるのであまり意味は無さそうです。

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