もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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沈黙

 お互いに質問があったが、まずはディアナから質問された。

 

「『記憶操作』とはどういう事ですか?」

 

 どうやら、向こうも同じような事が気になっていたようだ。

 その疑問の内容は僕のものとは異なるだろうが、関連付けて話せるなら分かりやすくなりそうだ。

 

「僕も詳しい原理や作業内容は知らんが、言葉通りに『記憶を操作する事』だ」

「……今の地獄にはそんな事ができる技術があるのですか?」

「ん? 天界では無いのか?」

「天界でも上位の者の一部にはそういった事が出来そうな者は居ましたが……そんな方々が動けば目立ちますし、そもそもわざわざ人間の記憶をいじるような事はしません。

 実質不可能でしょう」

「お前はできるのか?」

「いえ、そういった術とは相性が悪いので。

 様々な妙な術に詳しいメルクリウスや、医術に特化しているアポロ姉様であれば可能かも……といった所です」

「出てくる名前が2名なのは多いのか少ないのか……

 そうなると、お前が封印されてた時間……約300年だったか? その間に出てきた技術なのかもな」

 

 って、話が脱線している。本筋に戻そう。

 

「とにかくだ、地獄の連中は割と気軽に記憶操作ができるらしい。

 駆け魂攻略した後、その駆け魂が取り憑いていた娘の記憶の操作をする事が良くあるようだ」

「人間界には相当な数の駆け魂が逃げ出していたと記憶していますが……わざわざ全員にそのような操作を行うのですか?」

「記憶操作が必要ない場合を除いて大体全部行われるんじゃないか?

 その理由はいくつかあるだろうが……一番は地獄の存在を一般人に対して秘密にする為とかだろうな」

 

 僕の場合なんかは恋愛で攻略した対象が記憶を持ちつづけた場合、色んな意味で厄介な事になり駆け魂攻略に差し支えるからという理由もありそうだ。

 勿論そんな事は口には出さないが。

 

「ふむ……一応理解しました」

「ではこちらから。こちらも記憶操作に関してだが……

 先ほどノーラは『天理にも記憶操作を施した』と言っていた。

 しかし、そんな様子は全く見受けられない。どういう事だ?」

「どういう事かと言われましても、そもそもどういった記憶操作を受けるのでしょうか? 桂木さんに関する事を全て忘れる……とか?」

「……恐らく、駆け魂が発見された時点から攻略完了までの記憶が影響を受ける。

 その内容はお前が言ったように僕と、あとエルシィの事を忘れるというものだ。

 完全に記憶が消え去るわけではないようなんだが……少なくとも、攻略完了の翌日に僕と普通に話せる訳が無い」

「なるほど、確かに影響を受けていないようですね」

「今まではノーラの報告がテキトーだったから記憶操作もテキトーだったんだろうと折り合いを付けていたが、本人の発言のせいでそうも言ってられなくなってきた。

 操作されてないんじゃなく、操作されていても影響を受けてないって事になる」

「奇妙な話ですね。考えられる原因は私の存在でしょうか」

「そういう事だ。記憶操作を弾いたのか、あるいはお前の記憶は操作されなかったからそこから復元でもしたのか……」

「どちらも有り得そうですね。理屈までは分かりませんが」

「そうか」

 

 細かい謎はあるが、要は『女神の影響で記憶操作を受け付けなかった』という事だな。いや、それすらも確定ではないんだが……ひとまずそういう事にしておこう。

 そういう事にしたことで一つ、重大な疑問が現れる。

 

「なぁ……女神って何人居るんだ?」

 

 そう、他に女神が居るのであれば、記憶を取り戻す奴が居てもおかしくはない。

 そしてそれは僕が駆け魂攻略を進めていく上で、生き残る為に非常に重要な事だ。

 

「……天界の住人という意味でならいくらでも居ますが……

 私と同じ境遇の、旧地獄を封じる人柱となったのは私を含めて6人です。

 ウルカヌス、アポロ、ディアナ、ミネルヴァ、マルス、メルクリウス。

 6人で、ユピテルの姉妹と呼ばれていました」

「おいちょっと待て、男神の名前も含まれてないか?」

「ああ、簡単な事です。

 あくまで私たちは襲名しただけで、初代とは性別が異なる場合もありますから。

 そもそも、本当の姉妹ではありませんし」

「紛らわしいな!!

 えっと、とにかくお前込みで6人なんだな?」

「はい、他の皆も人間界に居る可能性は十二分にあるでしょう。案外近くに居る可能性もありますね。

 あ、そうだ。桂木さんも私の姉妹を探してくれませんか?」

「軽いな!! 一応訊くが、どうやってだ?」

「簡単な事です。桂木さんが攻略した中に記憶が戻っている者が居ればそれが女神の宿主です」

「いや、普通に難しいからなそれ。そもそも戻るの確定じゃないし。

 それより、お前なら女神の宿主を見て判断できないか?」

「どうでしょうね……何か女神の力が使われているならともかく、普通に過ごしている人を見て判断するのは厳しいかと思われます」

「……本当だろうな、それ」

「私にも実際に遭遇してみないと分かりませんよ」

 

 実に頼りにならない女神だな……

 運良く見つける事ができたら教えてやるべきか? でも、地獄において女神がどんな風に扱われているのかとか一切不明なんだよな。

 今の地獄と真っ正面からぶつかり合うような事は流石にしないとは思うが……中途半端な情報を与えて変な方向に暴走されたりすると困る。

 …………『女神と名乗る存在』に接触できたら、教えておくか。真偽の判断も兼ねて。

 

「はぁ、分かった。見つけたら知らせる」

「助かります。それでは、今日はこの辺で失礼させていただきます。

 あのノーラとかいう新悪魔が戻ってこないとも限りませんし」

「サラッと嫌な事を言うなよ!! 今日はもうゲームをして過ごすと決めたんだ! 地獄関係につぎ込む時間など1フレームも無い!!」

「ふれ? まあいいでしょう。ではまた」

 

 そうして、ディアナ(+天理)は帰って行った。

 女神……かぁ。

 

「どうかしましたか神様?」

「……いや、何でもない」

 

 もし女神が攻略対象者に居たのであれば、記憶が戻る可能性がある。

 幸か不幸か、そんな様子がある者は見受けられないが……

 ……なぁかのん、もしお前の中に女神が居て記憶が戻るなら、その時僕はどうするべきなんだろうな。

 ……そんな事考えててもしょうがないか。切り替えよう。

 

「今日はもう部屋にこもるから、昼食も夕食も要らないと伝えておいてくれ」

「えっ、ちょっ、神様ぁ!?」

 

 残り、約12時間といった所か。

 さぁ行こう。エンディングへと!!






 こんな感じで夏休み終了です。結局、本格的に忙しくなる前に書ききれなかったです。
 今回は原作との知識の乖離の是正を図りました。『攻略対象は記憶操作される』とか、『ノーラは角付きの名家の悪魔』とか、色々と重要な情報が共有できました。(かのんだけ、桂馬だけが聞いた情報も見えない所で共有される……ハズ)
 あと、ユピテルの姉妹の人数とか。原作と比べてかなり早く出てきましたね。
 次回は日常回Bです。内容は全く決まってませんがなるべく早く上げられるように頑張ります。

 『ユピテルの姉妹が実は本当の姉妹ではない』という情報がニコ○コ大百科に載っていたりします。出典は何かの限定版のおまけだとか。
 筆者はその出典は確認できませんでしたが、とりあえず義姉妹という設定でいってみます。
 あと、名前を襲名したというのはオリジナルのはず。何か情報があったらお知らせ下さい。

 では、また次回お会いしましょう!!
 ……できるだけ早く上げられるように頑張ります。


 追記

 読者の方に情報提供を頂き、出典を確認することができました。
 更に、その資料によれば名前は受け継がれるのではなくユピテルの姉妹となるときに命名されるっぽいです。
 それに合わせて本文も修正しようかと思いましたが……本作は本作の独自設定ということでこのままで行かせてもらいます。そもそもこんな細かい所が問題になるケースもないでしょうし(笑)

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