目が覚めるとそこは自分の部屋だった。
どうやら僕の部屋のベッドに運び込まれたらしいな。
運んだのは中川? それとも母さんか? 両方かもしれないが。
周りを見回しても誰も居ない。
このまま待っていれば誰か来るのか、それとも僕から動くべきか……
まあいい。少し考えをまとめておこう。
僕がわざわざラッキースケベを意図的に引き起こしたのは中川の裸が見たかったからとかそういう理由ではない。
強いイベントで相手に強い印象を与える……というのも一応目的の一つだが、それは主目的ではない。
この手のイベントは相手の反応から好感度を推定する事が可能だ。
今回はスタンガンで気絶させられたんでイベント直後の反応を見る事は殆どできなかったが……まあ仕方あるまい。
これからの中川の反応を一挙手一投足見逃さないようにしなければ。
その為にも二人っきりで話せると都合が良いんだが……流石にすぐは無理か?
……なんて事を考えていたら突然ドアが開いた。
そこに居たのは中川だ。
「あ、起きてたんだ」
「あ、ああ」
まさか理想の機会が突然やってくるとは思わなかった。
様子を伺って、無言だったら僕が謝る言葉から切り出すか。
と思っていたが、先に口を開いたのは中川だった。
「あの、桂馬くん、ごめんね。怪我してない?」
ふむ、謝罪から入ってきたか。
確かにそうじゃなきゃわざわざ僕の部屋まで来たりはしないか。
とりあえず適当に返しておこう。
「ああ。大丈夫だ。こっちこそ済まなかったな」
「ううん、大丈夫だよ。
よく確認しなかった私も悪かったんだし」
……おやぁ?
予想していた怒りの感情が殆ど感じられないんだが?
何か嫌な予感がするな……
「いや、悪いのは僕だ。
中川が風呂に入っているのは知ってたし、歯磨きしようとしてPFPに没頭してたのは僕だからな」
「そんな事無いって。桂馬くんは謝らなくても良いよ!」
…………
そうか、そう来るのか。
これは少々、いや、かなり厄介だな。
「分かった。とりあえずこの件は水に流させてくれ。
明日からはいつも通りだ。それで良いか?」
「う、うん! 分かった」
「それじゃあ……おっと、もうこんな時間か。早めに寝ろよ」
「うん。それじゃあ、また明日」
中川は部屋を出て名残惜しそうにドアを閉めた。
……さて、情報を整理していこうか。
『恋愛』という言葉の定義にもよるが、結論から言うと中川かのんは既に恋に落ちている。
しかし、このまま普通に攻略を進めても心のスキマが埋まるとは到底思えない。仮にこのタイミングでキスをしても駆け魂は絶対に出ないだろう。新作ゲームの限定版を10本賭けても良い。
そもそもこんな風になった原因は何だ?
あのアホエルシィが恐怖を与えてしまったから? それだけで本当に良いのか?
いや、違うはずだ。あの場面より前から中川には心のスキマが出来ていたはずだ。そうじゃなきゃ駆け魂は入り込まない。
……手がかりは足りない。しかし今の中川に何か仕掛けても有益な情報を引き出すのは少々骨が折れるだろう。
少々手順を誤ったかなぁ……
面倒だが……バックログを見直すか。
ったく、ゲームだったらメニュー画面か適当なボタンで一発だっていうのに、
多少当たりはついたから、何かしら有益な情報を得られると良いんだが……
ーー屋上の出会いーー
ーーエルシィの乱入ーー
ーー歩美の攻略ーー
ーーエルシィの転校と中川の同居ーー
ーー駆け魂憑依の発覚ーー
大まかに分割するとこんなものか?
いや、まだだ。まだ絞り込める。
鍵になりそうなのは……『同居』の辺りと『出会い』の辺りか?
『桂馬くん、実は頼みたい事があって……』
『実は、一晩だけで良いから家に止めてほしくて……』
『どうして知らないの!? 私はアイドル、アイドルなのに!!』
『不安にさせないで、フアンにサセナイデ……』
大体こんな台詞だったはずだ。
という事は……恐らくは、そういう事だろう。
次の日の登校か下校の時に訊いてみるか。
そしてそれが僕の予想した答えであるならば……
「……エンディングは見えた」
前回のラッキースケベは神のみ原作の檜編で最初の方にやっていた『ソナーイベント』を適当に改変してやってみたものです。
原作において『格上の女性相手にどの程度の距離で下に付くかを推し量る』為のイベントでしたが、今回は好感度測定として使用してみました。
あと、単純に同居人に対するラキスケは割と定番なんじゃないかな~と。
原作でもハクア相手に頻発してるし。