もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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記憶の欠片

 判子も一通り押し終えた。まだ時間は……大丈夫みたいだ。

 

「お茶を用意しました」

「ん、ありがと。

 ……抹茶じゃないんだね」

「本格的に準備すると時間がかかるので……」

「確かにそうだね」

 

 麻美さんが出してくれたお茶が市販のティーバッグによるもの見て少し驚いた。

 茶道部とは一体……

 

「あの、中川さん。ちょっと訊きたい事があるんだけど……」

「何かな? 体重とスリーサイズ以外なら何でも答えちゃうよ~」

「そうじゃなくて、あの、桂木君の事で……」

「桂馬くん? 桂馬くんがどうかしたの?」

「あの、その……お2人はどういう関係なのかと思って……」

 

 質問は麻美さんが一番か。少し警戒を高めてこう。

 麻美さん以外のメンバーは一昨日に桂馬くんと話してるし、『部活を作ってもらった』っていう凄く大きな借りがあるからあんまり深く突っ込めなかっただけかもしれないけどね。

 で、どう答えよっかなぁ。ちょっとおちょくってみようか。

 

「関係ねぇ……恋人だって言ったらどうする?」

「こっ、ここ恋人!?」

「ちょっ、かのんちゃんマジなのそれ!?」

「あ、あの桂木がかのんちゃんと!?」

「……色々と規格外な方ですし、意外と似合ってるのかもしれませんね。

 十中八九冗談でしょうけど」

「結さん冷静だなぁ……まあその通りだけどさ」

 

 この反応はどう判断すべきかな? 『あの』桂馬くんが『あの』私と付き合ってる事に対する驚きか、それとも桂馬くんが誰かと付き合っているという驚きか。

 断定はできなくてもいい。この反応はしっかりとボイレコで記録済みだ。

 

「じょ、冗談なんですか……ホントですか?」

「ごめんごめん、ここまで反応するとは思ってなかった。

 もしかして桂馬くんの事が好きなの?」

「へっ? い、いえ、そんな事は無いです。無いですけど……」

「けど?」

「……そうじゃなくて、桂木君と教室以外のどこかで会ったことがある気がするんです。

 だけど、直接訊いてみても何も知らない風だし、エリーさんは頼りにならないし……」

「うぐっ、ご、ゴメンなさい……」

 

 今まで黙ってたエルシィさんに唐突に流れ弾が……

 頼りない事は否定しないけど、攻略の事を漏らさなかったのならファインプレーかな。

 

「だから、その、もし中川さんが桂木君と親しいなら、何か知ってるんじゃないかなって……」

「…………」

 

 『桂馬くんと』『何かがあった』事を覚えている?

 いや、それだけじゃない。わざわざ『私に』訊くっていうのも妙な話だ。

 記憶操作を誰がやってるのかは知らないけど、これで完璧だと言い張るならすぐに首が飛ぶだろう。

 担当者が本当に無能だった可能性もゼロではないけど……

 ……吉野麻美さんはクロだと判断できそうだ。

 

「……ごめんね。流石に本人が知らないような事は私も分からないよ」

「そう……ですか」

 

 皆が居る場所で『女神を出してください』なんてお願いするわけにもいかないからとりあえずここまでで十分だね。

 ……後で桂馬くんに麻美さん攻略の時の事を教えてもらおう。ガッカンランドでのイベントの内容は知らないから。

 

「あの~、つかぬ事をお伺いしますが~」

「何かな、ちひろさん」

「結局、桂木とかのんちゃんってどういう関係なの? 何か勉強を教えてたって桂木は言ってたけど」

「桂馬くんから聞いた通りの関係で合ってるはずだけど……

 強いて一言で表すなら『取引相手』かな」

「……なるほど、よう分からん」

 

 今思いついた表現だけど、自分的には割としっくり来る。

 今度岡田さんや棗ちゃんに問い詰められたら同じ表現でごまかそう。

 

 

「あ、ごめん。そろそろ行かなくちゃ。

 それじゃ、またね」

「ああっ! ちょっとだけ待って!!」

「?」

「その……サイン下さい!」

「あっ、ちひろズルい! 私も!!」

「わ、私も欲しいです! サイン!!」

 

 そこでエルシィさんも反応するんだね。そう言えば棗ちゃんがサインねだられたとか言ってた気がする。

 それはさておき、サインね。岡田さんに訊いてみたんだけど、あんまりバラ撒くのは止めてほしいって言われちゃってるんだよ。

 5~6枚のサインを無償で配る事で発生する損失自体は大した事はないけど、前例を作る事自体が望ましくないってさ。

 と言う訳で、少ないサインで皆が満足できるようにキチンと考えてきたよ。

 

「えっと……6つで良いかな?」

「えっ? わ、私は別に……」

「私も置き場所に困りそうなので遠慮させて頂きます。失くしたりしてしまっても失礼になりますし」

「ただ名前を貸してるだけの私が貰っちゃうのはちょっと……」

「その辺は気にしなくて大丈夫だよ。むしろ6人か、せめて4人じゃないとやりにくいし」

「??」

 

 鞄の中に入れておいた手のひらサイズの長方形の色紙を6枚ほど取り出す。

 長い方を縦向きにして、横に3列、縦に2列並べる。微妙に正方形じゃないけどそれに近い形だ。

 その状態を1枚の色紙に見立ててサラサラッとサインを書く。

 ……よし、完成だ。

 

「はいっと。これなら全員に行き渡るでしょ?

 1ピースは手のひらサイズだから簡単に持ち運べるし、隅っこに穴を開けてストラップとかにしても良いかもね」

「ふぉぉおお! 凄い! カッコいいです!」

「割符のサインですか。何かの物語に出てきそうですね。ありがたく頂いておきます」

「よし! 私これ貰い!」

「あ、じゃあ私はこの辺を……」

「待て待て待てい! ここはじゃんけんで決めるべきでしょ!」

「裏返してシャッフルして配る方が簡単じゃない?」

「おっ、それだ! よし裏返せー!」

 

 楽しそうで何よりだ。

 これならイベントで配る物とはまた別物なので売り上げを減らしてしまう事は(あんまり)無い。

 そして、1ピースの価値はそれほどでもないので転売も防止できる。ここの人達が転売するとは思えないけど、一応ね。

 ……あれ? もしかしてこのサインって意外と優秀? 後で岡田さんに相談してみよう。

 

 

 

 

 

 さて、今回のイベントはなかなか有意義だった。

 シロとクロ、それぞれかなり濃厚な人を1人ずつ見つける事ができた。

 残りの女神は……早いうちに見つけておきたいな。

 できる事は限られるけど、機会があれば頑張ろう。







 これにて終了です。
 最初はここまで色々と動かすつもりは無かったんですけどね。8月31日の会話の後ならかのんなら機会があれば女神探しするだろうと判断してこんな流れになりました。
 今回かのんが頑張った理由としてもう一つ。今回のトランプが実は日常回Aだったんじゃないかという疑惑です。皆さんお気づきかもしれませんが、日常回Aがかのん回、Bがエルシィ回だったりします。なので後半はかのん成分を入れてやや強引にAにしてみたり。(実家に帰省した時にトランプを回収してきましたが、上に書いた通りだったっぽいです)
 なお、すでに『日常』って感じじゃなくなってるのはきっと気のせい。

 次回はまだジョーカーではありませんでした。
 ありませんでしたが……コレどうすっかなぁ……初期条件の設定が難航しそうです。
 何とか一か月後には投稿したいですけどね。


 あと、企画についてです。前にこっそりと更新してみたのですが、何名かは気付いてくれたようで何よりです。
 今回は(分類上は)日常回だったので更新を見送ろうかとも思いましたが、8月31日編でも更新してなかったのでせっかくだから更新してみます。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=182768&uid=39849

 何か指定した女神以外の宿主も考えてくれた人が居たみたいです。本作に対する印象を知る事ができたので実に興味深かったです。

 では、また次回お会いしましょう!

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