もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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03 ご令嬢の協力

「青山美生が貧乏……だと? どういう事だ?」

 

 『金持ち』『貧乏』といった言葉の定義はそこまで厳密ではないし、その基準になるあいつの総資産なども分かる訳が無いが……少なくともあの立ち振る舞いはゲームで良くある傲慢な金持ちの振る舞いにしか見えなかった。

 

「どうもこうもそのままの意味です。

 彼女の父親である青山有里さんは1年ほど前にお亡くなりになられました。その後、青山中央産業は経営不振に陥り別の企業に買収されたのです。

 大きな収入を失った彼女の一家はボロボロのアパートで細々と暮らしているのです」

「……確かに安易に話して良い内容では無さそうだ」

 

 まさかあのお嬢様にこんな裏設定があったとはな。

 どうせ定番のツンデレキャラだろうと思って少々うんざりしていたが、一手間か二手間入れる必要がありそうだ。

 実際には貧乏人、あるいはそのような暮らしをしているにも関わらず、今日の昼休みはあんな騒動を起こしたのか。

 

「……お前の友達はバカなのか?」

「返す言葉も御座いません」

 

 貧乏にも関わらずオムそばパンを大人買いし、お釣りすら拒否するとは。

 しかも、あの大量のパンって屋敷の使用人に配るとかじゃなくてほぼ自分で食べるんだよな? 賞味期限までに消化し切れないのはほぼ間違い無いだろう。

 ……疑問に思うまでもなくバカだな。

 

「そのバカが金持ちのように振る舞う理由は何だ?

 単純に弱味を見せたくないとかか?」

「流石に細かい理由までは存じません。そもそも、青山家が没落した頃から美生さんとは距離が開いてしまったので」

「……そりゃそうか」

 

 没落した相手に金持ちが話しかけるとか何の皮肉だという話だ。まともに会話できる訳が無い。

 勿論、会話内容を厳選するなど上手くやれば不可能ではないが……いつうっかり地雷を踏むか分からない会話など僕もしたくない。

 それに加えて。結の母親はあんなのだからな。没落令嬢と交流するなんて許可が下りるはずもない。今の結なら親の許可なんて要らないだろうが……1年前だもんな。

 

「あの……どうかあの子を許してあげてください。ちょっと奇行が目立っただけで、根は凄く良い子なのです」

「僕は元から怒ってなどいないが……」

 

 ちらりと、かのんの方を見る。

 ここの選択肢はどう転んでも問題ないだろう。僕は僕なりに自然な返答をしようとするとさっきのようなセリフ一択になったのに対してかのんの……と言うよりエルシィのセリフはどちらを選んでも不自然にはならないだろう。

 

「そうですね……許せません!」

「えっ」

「だって、このまま許して放っておいたら近いうちに美生さんは破滅しますよ!

 何としても原因を突き止めて更生させないと!!」

「え、エリーさん……ありがとうございます」

「それに、またオムそばパンを買い占められて私が食べられなくなったら嫌ですからね!」

「……そ、そうですか」

 

 本気でまだ根に持ってるのか、それとも演技なのか判断しにくいな……

 ともかく、エルシィが美生に積極的に関わる動機は用意できたな。後は……

 

「と言う訳で、お兄様も手伝って下さいね!」

「ちょっと待て、何でそうなる!?」

「私が青山さんを更生させられると思いますか? 神様のお力が絶対に必要です!!」

「いや、まぁ確かにそうかもしれんが、何で僕がやらなきゃならん」

 

 今欲しいのは、僕が積極的に関わる動機だ。

 無いなら無いで別に構わないんだが、あった方が結との会話がスムーズになるからな。

 さぁかのん、何か策はあるのか?

 

「……良いんですか神様。そんな態度だと『あの事』をバラしますよ……?」

「あの事、だと?」

 

 脅迫か。なるほど。一応僕が動く動機にはなるか。

 

「そうです、あの事です! 神様がかのんちゃんと……」

「あ~! 分かった分かった! 協力してやる!!」

 

 大声で遮る準備はしてたんでテキトーに止めたが、一体何を言おうとしたんだろうな? って言うか自分の事をネタに脅迫するなよ。

 

「あの、良いのですか? 無理をなさらなくても……」

「構わん。ゲームやりながらエルシィにアドバイスするくらいならできる。

 ああ、勿論お前にも協力してもらうからな」

「当然です。彼女を救うために何でもお申し付け下さい」

 

 これで準備はできたな。本格的に攻略を進めていくとしよう。







 美生のお父様の名前は青山有里(ゆうり)さん。神のみでは珍しい、原作中にフルネームが出ている男キャラだったりします。児玉先生より格上です。

 古くからの名士と呼んでも差し支えないような権力者がお亡くなりになったくらいでどうしてその娘があんな貧乏になっているのかは謎。よっぽど金遣いが荒かったんでしょうかね?
 しかし、原作の美生編開始時点でお父様の死亡から約1年のようです。1日毎に頑張って50万くらい消費すれば1年で1億8000万くらい。どっかの借金執事の借金額を上回りますが……大企業の社長様なら数億単位の貯金があってもおかしくなさそう。違ったとしても最悪屋敷と土地を売っ払えば全額回収まではいかずともかなり補填できそうです。
 美生のお父様が私財をほぼ全額投入しなければならないほど会社が傾いていたのか、あるいは悪質な詐欺にでも引っかかったのか、そっち方面を疑った方が良さそうな気がします。

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