「やあ天理……ではなくディアナか。おはよう」
「おはようございます。時間ぴったりですね」
天理の家の前まで行くと何故か天理ではなくディアナが待っていた。
「……天理はどうしたんだ?」
「恥ずかしがって脱出マジック用の箱に閉じこもっていたので私が強制的に眠らせて着替えさせてここまで連れてきました」
少し前までは天理がディアナに抵抗したりしてた気がするが、今ではそんな事までできるらしい。
天理は大丈夫なのか?
「そんな有様でデートなんてできるのか?」
「遊園地に入ってしまえば天理も逃げようとはしないでしょう。
宜しくお願いしますね」
「貴様……デートを舐めているのか?」
「え?」
全く、こいつはデートというものを『男女2人で遊園地で遊ぶだけの行為』だとでも思っているのだろうか。
ハッ、聞いて呆れる。神とは言っても所詮は
「いいか? デートというものは出発してから帰宅するまで、いや、出かける前に服装に悩む所から帰ってきて余韻に浸るまでがデートなんだ!!
今回の場合は天理がそこまで積極的ではないから理想的な始まりを求めるのは酷だ。しかし、移動イベントを飛ばして良い理由にまではならない。
貴様如きには想像もつかないだろう。2人で駅へと歩く途中、電車に乗っている最中に交わされる会話が攻略においてどれだけの比重を秘めているのかを!!」
「よ、よく分かりませんが……要するに、デートはもう既に始まっているという事でしょうか?」
「まあそういう事だ。だからお前は引っ込んでおけ」
「言い方は気になりますが……一応天理の事を考えて下さっているようですね」
「フン、僕が関わるイベントのクオリティが低いのは気に食わんだけだ」
「妙なこだわりですね……分かりました。ではお任せしますね」
ディアナが目を瞑ると頭のリングが薄れて消えていった。
再び目を開いたのは、鋭い目つきの女神ではなく、きょとんとした顔の天理だった。
「えっ、あ、あれ? け、桂馬君!? 何で私の部屋に……って違う! ここ部屋じゃない!
ええええっ、い、いつの間に!?」
「正真正銘意識を失ってたのか。大丈夫か?」
「え、えと、あの、その、な、何がどうなってるの?」
「そうだな……少し時間も押してるし歩きながらで良いか?」
「えっ、う、うん……」
とりあえず、頷かせる事に成功っと。
のんびり話ながら歩いていれば正気に戻って考える余裕ができる頃にはもう引き返そうと思わないくらいの場所に着いてるだろう。
……一方その頃……
七香さんが帰って行って、桂馬くんもでかけて、家には私1人になった時に携帯が鳴った。
相手は、さっき番号を交換したばかりの七香さんだった。
「もしもし? 忘れ物でもしたの?」
『ちゃうねん。うち、今家の前におるねん』
「……メリーさんの真似?」
『ちゃうわい!! 単刀直入に言うで。桂木のデート尾行せえへん?』
「えっ? デートの尾行って……どうなのそれ?」
『面白そうやんか! あの桂木がデートやで!
うちのカンが告げとるんや。あいつらを尾行せいって!』
「……七香さん、ヒマなの? 将棋の勉強とかあるんじゃないの?」
『今日は師匠も忙しいんでな。丁度ヒマしとった所なんや』
「そ、そうなんだ」
うーん、大丈夫かなぁ……
デートを見られる事自体は大丈夫だと思う。桂馬くんだし。
だけど、地獄とか天界とかが関わるような事になる可能性も一応ある。一般人の七香さんを1人で尾行させるのはちょっと不安だ。
ストッパー役は居た方が良いんだろうなぁ……
「分かった。それじゃあ私も行くよ。どうせヒマだし」
『よし来た! ほなら行くで!』
そういう事で、桂馬くんと天理さんを尾行する事になった。
べ、べつにデートが気になるんじゃないんだからね! 七香さんが変な事に巻き込まれないか心配だから付いていくんだからね! 勘違いしないでよねっ!
……私は誰にツンデレしてるんだろうか? こういうのは棗ちゃんの役割のはずなのに。
「へくちっ」
「あれ? どうしました棗さん。風邪ですか?」
「人の心配するヒマがあったら自分の心配をしなさい。その課題をあと15分以内に片付けないと死よりも恐ろしい罰ゲームが待ってるわよ」
「ひぃぃっ!! や、やります!!!」
「ったく、何で私がこのかのんもどきの面倒を見なくちゃならないのよ」
「うぅぅぅ……終わりそうにないです。棗さんも手伝ってくださいよ~!」
「アンタの為の課題なんだから1人でやらなきゃ意味が無いでしょうが!!」
「で、でもぉ……」
「……ああもうしょうがないわね! 少しだけよ! 少しだけ!」
「あ、ありがとうございます棗さん!!!」
……棗ちゃん、口調は厳しいし嫌いな相手には容赦しないけど身内に対しては何だかんだ言って優しいからね。
今日もどこかでツンデレしてる気がする。本来の意味でのツンデレとはちょっと違うけど。
『家に帰るまでが遠足です』という言葉も実はイベント後の余韻に浸る事を意味していた……? まぁ、実際には気を抜かずに事故とかに遭うなって意味でしょうけど。
これまた今更な話ですが、筆者のイメージでは棗さんは中学2~3年生くらいです。
年上のかのんは『棗ちゃん』と呼び、精神年齢が年下のエルシィは『棗さん』と呼んでいたりします。
大人びているとはいえ中学生に余裕で負けるエルシィって……いや、今更だけどさ。