もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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08 知る故の恐怖

 好感度は既に足りている。

 しかし、単純に告白するだけでは攻略は失敗するだろう。

 心のスキマを埋める為には一手間必要だ。

 必要なのは好感度の操作ではない。

 最重要なのは『中川からの告白を引き出す』事だ。

 幸いな事に、誘導にうってつけのネタがある。

 ただ、誘導が露骨過ぎると流石にバレるか? 加減が大事だな。

 色々な条件が重なったせいで2人目からハードモードだが……僕は落とし神だ。切り抜けてやるさ。

 

 

  ……鳴沢市 デゼニーシー……

 

 

「さぁ、今日は思いっきり遊ぶぞ~!」

「そうだな。どこから行く?」

「えっと……桂馬くんの行きたい所で良いよ」

「ったく、遠慮なんてするな。今日はお前の為にここに来たんだぞ?」

「そう? それじゃあ遠慮なく行かせてもらうよ!」

「ま、お手柔らかに」

 

 遊園地に行きたいと思う事はあっても一緒に行ってくれる人なんて居なかった。

 だから、行きたい場所は沢山ある。

 

「よっし、今日は全部回るよ!」

 

 流石に全部はまず無理だと思うけどね~。

 でも、なるべく沢山回れたら嬉しい。

 

「……なるほど、タイムアタックやコンプリートはゲームのやり込みは定番だ。

 中川、スケジュール表は用意してあるか?」

「え? それは……無いけど……」

「それだと一日で回るのは厳しくないか?

 5分待て。簡単な計画を立てる」

「いや、そこまでしなくても……」

「全部回りたいんだろう? だったら僕に任せろ」

「……うん。ありがとね」

「気にするな。何度も言うように今日はお前の為にここまで来たんだからな」

「……うん」

「それに、お前とこんな風に過ごすのも……いや、何でもない」

「? うん」

 

 

 

 そして、桂馬くんは宣言通り5分ほどでおおまかなスケジュールを立て、移動や休憩とかの空き時間で更に詳細なスケジュールを組んでいった。

 凄い、本当に凄いよ桂馬くんは。

 ……凄いんだけど……

 

 

「ゼェ、ハァ、ゼェ……」

「ほら桂馬くん! あと5分で次のアトラクション!!」

「ぐっ、ゲームでは、走っても体力は減らないというのに!

 っていうかお前、体力あるな!」

 

 自分のスケジュールでそこまでボロボロになるのはちょっとだけカッコ悪いよ……?

 

 

 

 

 遊園地の定番のアトラクションは勿論、それ以外のマイナーなアトラクションも全て周り終えた時には夕方過ぎだった。

 自分一人で行ってたら多分3日はかかったと思う。

 

「はぁ、はぁ……」

「け、桂馬くん? 大丈夫?」

「だ、大丈夫だ。問題、無い」

 

 何故だろう。全然安心できない返答だ。

 

「しかし、お前は元気そうだな」

「これでも鍛えてるからね。

 それに、辛くても桂馬くんと一緒に回れて楽しかったよ」

「そうか。それは良かったよ。

 

 何せ、お前とこんな風に過ごすのは今日で最後だろうからな」

 

「……え?」

「ん? 何を驚いている?

 あと1つイベントを起こして攻略は完了。

 エルシィにも夕方頃に完了するって伝えてあるから何とか抜け出して多分もう近くまで来てるだろう。

 駆け魂を仕留めてお前との偽りの許嫁の関係を終わらせる」

「あ、そ、そっか……」

 

 あれ? これで終わりなの?

 そうか、一週間以内にケリをつけるって言ってたっけ。

 私の中の駆け魂も追い出せてハッピーエンド。

 そう、それで良い。

 ……それで……

 

「…………ない」

「ん?」

「良いわけが無い! これで終わりなんて嫌だ!」

「そうは言ってもな、攻略完了したらお前の記憶は無くなるんだろう?」

「っ! それは……」

「それに、仮に記憶が何ともなかったとしてだ。

 お前とデートなんかしてたりなんかしたら今後の攻略に差し支える。

 お前有名人だからな。すぐ噂になりそうだし」

「エルシィさんの姿でデートすれば良い!」

「僕に会う度にエルシィに替え玉を頼む気か?」

「う、うぅぅ……」

 

 本当に終わっちゃうの?

 でも、これ以上続けようとすると桂馬くんにもエルシィさんにも迷惑がかかる……

 …………そうだ、だったら!

 

「桂馬くん。一つだけ頼みたい事があるの」

「まるで遺言だな。何だ?」

「私の記憶が無くなっちゃった後、全てが終わったら……

 ()を迎えに来てほしい」

「本当に遺言だったな。

 僕に何とかして記憶を呼び覚ましてほしいという事か?

 確かに駆け魂狩りが終わったら周りの目なんて気にしなくて済むが……」

「ムチャクチャなのは分かってるつもりだけどさ。

 お願い、できるかな?」

「……何故記憶を失う事を恐れる。今までの人生の記憶全てが消滅するというわけでもないというのに。

 せいぜい僕と過ごした記憶を少し失うだけだ」

「それが嫌なんだよ!

 だって、だってさ!

 私は、桂馬くんが大好きだから!!」

 

 勢いに乗って凄い事を言っちゃった気がするけど後悔は無い。

 私は桂馬くんの事が好きなんだから!

 

「……そうか。だから僕に迎えに来てほしいと、そう言うんだな?」

「うん。そうだよ」

「…………」

 

 少しの間を置いて、そして少しだけ微笑んだ後、桂馬くんはこう言った。

 

 

「嫌だ、ベンベン」




かのんちゃんは原作でも割とチョロインだと思います。
駆け魂云々が無くてもかのんちゃんが勝手に絡んできて、しつこくつきまとって、そしてあっさりと恋に落ちるんじゃないでしょうか? 桂馬なら毒フラグがどうこう以前に普通に無視しそうですし。
……まぁ、恋に落ちるのが早くても心のスキマを埋めるのは一手間必要になるわけですが。

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