もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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06 純真の器は過去を知る

 まさか駆け魂討伐の交換条件のせいで天理に『攻略』の事がバレるとは思ってもいなかった。

 普段大人しいせいで全く目立たないが、なかなかやるじゃないか。

 

「そう、お前の言う通り、僕はほんの2~3ヶ月ほど前にここに来た。ある女子と一緒にな」

 

 あの貞節の女神様が聞いていないなら隠す理由も無い。

 ……むしろ、巻き込まれただけの天理は全てを知っておくべきなのかもな。

 

「で、お前はそれを聞いてどうするんだ?」

 

 考えてみれば、天理単体としっかりと話すのはこれが初めてなのか。

 さぁ、聞かせてもらおうか。お前が一体何を考えているのか。

 

 

 

「私は……桂馬君が好きだよ」

 

 

「好きだから、一緒に居られたらいいなって思ってる。

 それこそディアナがいつも言ってるみたいに、結婚とか……できたら嬉しいなって、思ってる」

 

 

「けどそれ以上に……桂馬君に悲しんでほしくないんだ」

 

 

「今日、この園内を歩いてて、時々、桂馬君がどこか遠くを見ているような、少しだけ寂しそうな、そんな顔をしてる気がしたんだ」

 

 

「だから……知りたいんだ。ここで何があったのか、桂馬君がどんな事をしてきたのかを」

 

 

 

 天理の台詞は突然の告白から始まり、そしてゆっくりと紡がれた。

 好きだからこそ、一緒に居たいと思う前に悲しんでほしくない、か。

 ……愚かな事だ。エンディングがあってこその恋愛だろうに。

 

 だけど……ちょっと思い出した。

 突然の告白のせいか、それとも珍しい形の恋愛のせいか。

 

「……うちのクラスにな、どーしようもない奴が居るんだよ」

「へっ? うん……」

「部活にも入らず、頑張る事も無い。そのくせ人を悪し様に罵り、口を開けば誰がイケメンだと色恋の話ばかり。

 ……まぁ、今は半分くらい改善されてるんだが、そういうどーしようもない現実(リアル)女が居たんだよ」

「……何か半分くらい当てはまりそうな人を知ってるような……?」

「そんなあいつが質問してきたんだよ。『恋愛って何?』って」

「それは……言葉の定義を教えてほしいって事?」

「そういう事だ」

「……桂馬君は、何て答えたの?」

「恥ずかしながら、ちゃんと答える事ができなかった。

 ギャルゲーの神を自称しているくせに、その言葉の定義をしっかり把握できていなかったんだよ」

「そっか……それで、その後は?」

「……あいつはあいつなりの『恋愛』の定義をしっかりと確立したよ。

 確か……『一緒に居て、一緒に話して、一緒に口喧嘩して、それが楽しいと思った』って言ってたな。

 ある人と関わるだけで、その全てが楽しいと思える感情、それが恋愛だと」

「そんな人が居たんだね。

 その人が桂馬君と一緒にここに来た人?」

「いや、全く関係ない」

「関係無いの!? じゃ、じゃあ何でその人の話を!?」

「お前の話を聞いて、『恋愛の定義』の話を思い出しただけだ」

 

 天理の場合は、また別の答えを持っているんだろうな。

 一緒に居る事は絶対条件じゃない。ただ相手が幸せならそれで良い。それが、天理なりの恋愛なんだろうな。

 ったく、どんだけ欲が無いんだって話だよ。

 

「……話を脱線させてしまったな。ここであった事についてだったな。

 僕と一緒に来たのは僕の2人目の攻略相手だ」

「2人目? その2人目っていうのは……その……」

「両方だ。『駆け魂攻略』っていう括りでも、その頭に『恋愛による』っていう言葉を入れてもな。

 と言うか、その頃は恋愛による攻略しか知らなかった。あのアホエルシィのせいでな……」

「そ、そっか……あの、またちょっと脱線しちゃうけど、恋愛で攻略したのって……」

「……6人だ。ちなみに使わずに済んだのも6人。駆け魂の方から出てきてくれたのが1人だな」

「6……うん、分かった。ごめん続けて」

「2人目の攻略相手、お前も名前だけだったら知ってるかもな。

 そいつの名は『中川かのん』だ」

「中川、かのん……?

 …………っ!! ええええええっっっっ!?」

 

 天理はアイドルを追っかけて騒ぐような性格では決して無いが、それでもかのんの名は知っていたようだ。

 何者だよかのん。いや、アイドルだけどさ。

 

「あ、あの、な、中川かのん、さんって……あのアイドルの……?」

「ああ。ちなみに僕と同じクラスだ」

「同じクラスっ!? そ、そっか。アイドルだって高校生だもんね……」

「まあそうだな。

 あいつが駆け魂に取り憑かれている事が発覚して攻略に乗り出した。

 その攻略で最後に来たのがここだ。

 あの時は大変だったなぁ……1日で強引に全部のアトラクションを回ったから」

「……どうしてそんな無茶な事を」

「今思えばあそこまでやる必要な無かった気はするな。完全に無駄だったとは言わないが。

 でまぁ、色々とあって攻略は無事終了した。

 前にも言ったように、攻略対象者は記憶操作され、僕と関わる事は無くなる……と言うのが本来の流れだな」

「『本来の』って事は……その時は違ったんだね?」

「ああ。あいつが今名乗っている名も教えておこう。『西原まろん』だ」

「えっ? っていう事は……西原さんが、あのかのんちゃん……なの?」

「そういう事だ。地獄の変装技術って凄いよな」

「え、あの……それじゃあ、イトコっていうのは……」

「そういう名目で家に居候してるだけで、そんなのは真っ赤な嘘だ。戸籍で簡単に調べられる範囲でなら完全に赤の他人だ。」

「…………」

「ちなみに、エルシィが妹というのも嘘だ。っていうのはまぁ、分かっていたと思うが……」

「そっちは一応分かってたよ。悪魔が妹ってどう考えてもおかしいもん。

 でも……西原さんの方もかぁ……ディアナが聞いてなくて良かった」

「全くだな」

 

 ホント良い仕事をした。

 酷い言い方だが……ぶっちゃけ女神はその力以外は要らないな。

 他の女神はまともだと良いんだが……

 

「前にも言ったように、あいつは駆け魂狩りにおけるもう1人の協力者だ。

 なので、駆け魂の攻略が終わっても交流を断つ事は不可能だった」

「えっと……その、かのんちゃん……西原さんの記憶は……?」

「攻略に関してのものはきちんと操作されているらしい。

 ついでに言うと、女神も今のところは確認できてないそうだ。記憶が戻る事はほぼ無いと思っていいだろう」

「そっか……」

 

 記憶……か。

 記憶を失うという事はその人が死ぬのと同じだという言葉がある。

 あいつは……何かを残していったのだろうか?

 

「……桂馬君、桂馬君は……どう思ってるの?」

「ん?」

「西原さんの記憶、戻ってきてほしいと思ってる? それとも……」

「…………どうだろうな」

 

 どうなって欲しいのか、か。

 望んでいる、わけではない。いや、むしろ……

 …………

 

「それじゃあ、もう一つだけ。

 桂馬君は……その人の事が好きだったの?」

「……そっちなら満足に答えられそうだ。

 好きか嫌いかという極端な問いかけであれば間違いなく好きだと言える。

 ただ、恋愛的な意味で好きになった事は一度も無い。そう断言できる。

 以前も、今もな」







  筆者メモ:駆け魂狩りの手段内訳

 恋愛使用 :歩美・かのん・麻美・栞・スミレ・月夜
 恋愛未使用:結・ちひろ・七香・純・みなみ・美生
 未攻略  :梨枝子
 特殊   :棗・天理

 結とちひろの分類は少々迷いましたが、『キスをしたか否か』で判断しました。
 しっかし半分が恋愛未使用とは。神のみ原作は落とし神様による現実(リアル)女子の攻略物語だったはずなのに……


 天理がかのんをどう呼ぶか少々迷いましたが、ひとまず『かのんちゃん』にしておきました。
 名字とかよりもそっちの呼称の方をよく聞いていたと思われるので。
 なお、他の候補としては『中川さん』『かのんさん』『かのんちゃんさん』等。
 天理に天然属性とかを少々足せば『かのんちゃんさん』って普通に呼ぶ気がするけど、流石にちょっと違うかな~と。
 ……むしろエルシィとかの方がそんな呼び方をする可能性はあったのだろうか?

エル「香音(カノン)(チャン)さんって誰ですかぁ?」
桂馬「誰だよ!!」

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