もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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イリスの歌姫は聞いていた

「……すまないな。気を遣わせてしまったようだ」

「ううん、私が知りたかっただけだから。こっちこそ話したくない事を聞き出してごめんね」

「別に構わないさ。ディアナに伝わらないなら」

「……ホントごめん」

「お前が謝る必要は無い。

 しっかし、不幸だよな。お互いに」

「?」

「天界だの地獄だの、ミョーな連中の事情に巻き込まれてサ。

 遠い世界のいざこざに僕達を巻き込むなって話だよ」

「……でも、巻き込まれて良かった事もあるよ。

 だって……そのおかげで桂馬君と出逢えたから」

「……はぁ、お人好し過ぎるだろ。

 でもまぁ、そうだな。巻き込まれたからこそあった事。僕も少し考えてみるか」

「……きっと見つかるよ」

「だと良いがな。

 さて、そろそろ出発するか。行きたい所はあるか?」

「えっと……桂馬君のオススメで」

「お前そればっかだな……まあいいさ。

 じゃあ付いてこい」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの話、私が聞いて良かったのかなぁ……」

 

 全部聞かせてもらったよ。天理さんの告白の辺りからずっとね。

 『私』の攻略に関する事を桂馬くんの口から聞いたのは初めてだ。わざわざ私から掘り返す事でもないし、桂馬くんも避けてるふしがあったからね。

 『恋愛的な意味で好きになった事は一度も無い』とまで言われちゃいましたよ。あははっ、フラれたね。

 でも、桂馬くん気付いてる? 現実(リアル)の全てを見捨てていた桂馬くんがゼロ以外の評価を出すっていうのは十分に興味を持ってるっていうのと同じ意味だよ。

 『好きと嫌いは変換可能』なんて言葉を知らない天理さんすらもたぶん気付いたんじゃないかな。

 

 ところでさ……一つ気になる事があるんだ。

 桂馬くんは、『前の私』と『今の私』、どっちの方がより好きなんだろうね。

 ……なんて事を考えても意味は全くないんだけどさ。

 結局の所、私は私にしかなれない。他人になる事はもちろん、過去の私に戻る事もできない。勿論、演じる事なら可能だけど……それは考えなくてもいいだろう。

 今、ここに居るのは『私』だ。今現在の私がここに居るだけだ。

 だから、私にできる事を精一杯する事しかできないんだ。

 さしあたっては……

 

「……とりあえず、見つかる前に帰っておこう。

 そして桂馬くんから今日の話を聞いた時のリアクションをイメトレしておこう。そうしよう」

 

 私の正体を天理さんに話したことを桂馬くんが私に言わないという事は無いハズ。その時に上手く反応しないと……最悪バレる。

 今日、私がここに居た事は絶対にバレないようにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ……その夜……

 

『天理、どうでしたか? 桂木さんとのデートは』

「あ、ディアナ。起きたの?」

『ええ。つい先ほど。結果は……訊くまでもないようですね』

「え? どうして?」

『今朝と比べて天理の愛の力は明らかに増しているのが感じられます。上手くいったようで何よりです』

「そうなんだ……」

 

 上手くいったわけじゃなかった気がするけど……

 でも、桂馬君に対して心境が少し変わったのは確かだ。

 現実に興味を持っていなかった桂馬君が、現実の女の子と恋愛しかけている。

 かのんちゃん……西原さんがうらやましいよ。

 でも、桂馬君が現実に興味を持てたっていう事は……もしかしたら、私にもチャンスがあるのかもしれない。

 お隣に住んで、時々話して、それだけでも満足できる。

 けど……もう一歩、踏み出してみようかなって。そう思えたんだ。

 

『おや? これは……』

「どうかしたの?」

『天理、少し身体を貸してください』

 

 私が頷くと同時に身体の主導権が入れ替わった。

 鏡の中から、ディアナの姿を仰ぎ見る。

 するとそこには……純白の翼があった。

 

『……綺麗』

「順調に力を取り戻しているようです。この翼があれば飛行も可能ですね。

 尤も、非常に目立つので限定的な状況でしか使用できませんが……」

『そうだね……でも、飛ぶ必要がある場面なんてそうそう無いから別に良いんじゃないかな』

「ふふっ、そうかもしれませんね」

 

 

 私の愛で蘇ったというその白い翼は、静謐に、神々しく輝いていた。







 少々短いですが以上です。
 いやーまさかこんな展開になるとは、本章を書き始めた当時は夢にも思いませんでしたよ。果たしてこれはデートの話だったのだろうか?
 七香が居なかったらかのんがデートに付いていく展開にはならなかったかもしれないし、ファンブックの天理の勉強の評価値が2か3くらいだったら看破もしなかったかも。まぁ、別の理由をこじつけて結局同じになってた可能性も十分ありますが。
 小説ってのは普通はプロット書いてそれに肉付けしていく物なんでしょうけど、筆者の場合はとりあえず始めてみてキャラの動きを想像するっていう感じで書いてるので予想もつかない方向にスッ飛んでいく事が多々あります。目隠ししてビリヤードの球を打つような気分です。


 さて、次は体育祭……の予定だったのですが……
 書き始めてみて体育祭と中間テストと舞校際の日程を確認したらかなり厳しいスケジュールになってしまいそうです。
 ざっくり説明すると、体育祭終了からテスト開始までの1週間で3人攻略するとかいう無茶な事に……
 現在、何とかする方向で考えてはいますが、もしかしたら楠編を先に持って来る等の措置を取るかもしれません。

 では、また次回お会いしましょう!

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