鏡から光が溢れた。あまりの眩しさに私は目を逸らした。
数秒後、光が収まる。そこに映っていたのは……
『む? ここはどこじゃ? お主は……?』
鏡が、いや、鏡に映っている私が動いていた。しかも何か顔に変な模様が付いてる。
……え? いや、落ち着いて考えてる場合じゃない。何だろうコレ。
この施設の偉い人は頭のネジが何かもうおかしな事になってるから、その人が何か企てたのだろうか?
いやいや、こんな誰も通らない所に妙な仕掛けを作っても意味が無い。
何かの装置じゃないって事は……何だろうコレ。
……ああ、そうだ。きっと気のせいだ。疲れてるんだ。今日はもう帰って寝よう。
『ちょ、ちょっと待つのじゃ! どこに行くのじゃ!? おーい!!!』
気のせい気のせい。
建物を出る時も、家への帰り道でも、何か聞こえたけど間違いなく気のせいだ。
で!
無事に家に辿り着いた。
「ただいま」
「お帰りお姉ちゃん! どこ行ってたの?」
「ちょっと、ガッカンランドに……」
「あ~、お友達と行くのって今日だったんだね。楽しめた?」
「う、うん……」
そう言えばそういう事になってた。ごめん郁美、嘘ついちゃって。
「ちょっと、部屋で休んでくる」
「え? うん。大丈夫?」
「大丈夫。
「それ、大丈夫じゃないような……何かあったら呼んでね」
「うん。ありがと」
自分の部屋に入って、扉を閉めて、鍵は……閉めたいけど付いてない。
だけど、郁美が突然入ってくる事は……あんまり無いから大丈夫だろう。
部屋に置いてある鏡の前にそっと座る。
『うむ、ようやく目を合わせてくれたのぅ』
……やっぱり気のせいじゃなかったみたいだ。いや、分かってたけどさ。
「あなたは……何なの?」
『何と問われてものぅ。お主らはそう問われて満足に答えられるのかや?』
……確かに、突然そう言われても答えるのは難しいかも。
でも、こっちは正真正銘何も分からないわけで、何を質問していいのかもわからない。
うーん、だったら……。
「それじゃあ、まずあなたの名前は?」
『うむ、それなら答えられるぞい。
我が名はアポロじゃ!』
「アポロ……? 神様の名前……?」
『知っておったか。流石は妾じゃな!』
「って事はあなた、神様……なの?」
『その通りじゃ。妾は天界の女神ぞよ!』
何か……胡散臭いな。
何故だろう、目の前のこの自称女神からはそこはかとなくポンコツ臭がする。
「うーん……神様って事は何か凄い事ができるの?」
『勿論じゃ! と言いたい所じゃが……どうも力が衰えているようじゃ。大した事はできそうにないわい』
「……胡散臭い」
『なんじゃと!?』
あ、口に出てたみたいだ。
でも、胡散臭いものは胡散臭いんだから仕方ない。
「……うん、とりあえず神様なんだね。そういう事にしておこう」
『本当に神なんじゃがのぅ……』
「うんうん、で、どうして神様がこんな所に居るの?
と言うか、どこに居るの?」
『う~む、一応、お主の中に居るようじゃな。鏡や水面等があればそちらのお主の身体を借りて話せるようじゃ。
どうしてここに居るのかという事じゃが……何かが起こって何かが起こってこーなった! という感じじゃ!』
「何が起こったの! 何が!!」
『すまぬが妾にも分からんのじゃ。ヴァイスどもを封印した所までは覚えとるのじゃが……』
ヴァイス……? またよく分からない単語が出てきた。
……うん、今日はもう休もう。疲れた。
『む、どうしたのじゃ?』
「今日はもう休む……続きはまた今度ね」
『そういう事なら妾も休むことにしよう。妾も少し疲れたのじゃ』
私は鏡の前から離れてベッドに飛び込んだ。
そして、そのまま眠りに落ちた。
……少ししたら夕ご飯ができたって起こされたけどね。
……数日後……
まだ夏休み中で時間はありあまっていたので、アポロから様々な話を聞く事ができた。
とは言っても、本人もとい本神が結構説明下手だからかなり苦労したけどね……
「それじゃあまとめてみるよ。
まず、この世界は『天界』『人間界』『冥界』に分かれてて、ここは人間界なんだね」
『ほぼ間違いなくそうじゃな。妾の仲間の気配も感じぬし、悪魔どもの気配も感じぬからのぅ』
「で、アポロは天界の女神様で、6人の姉妹達と一緒に悪い悪魔を封印していた」
『う~む……まあそうじゃな』
「でも、気付いたら私の中に居た」
『そうなのじゃ。気付いたらここにおったのじゃ』
「そして神様らしい力もほぼ失ってる」
『うむ! ちょっとした占術くらいしかできぬようじゃ!』
「……で、その復活の為のエネルギー源は……」
『うむ、『愛』じゃ!
お主のおかげで少しずつじゃが力が戻っておるぞ』
「…………」
『むぅ~、何じゃその不機嫌そうな顔は。すこし前まではこの手の話題を振ると顔を真っ赤にしておったのに』
最初にその話を聞いて、桂馬君の事について指摘された時はアポロが言うような反応をしてしまったけど、何かもう慣れた。
恥ずかしくないわけじゃないけど、慣れた。
「……あなたに関してのまとめは終わり。
それで、私についてなんだけど……」
『うむ。ちゃんと覚えておるぞ。
特定の期間の記憶が曖昧だったという事じゃったな』
「うん。その記憶が戻るのとほぼ同時にあなたが現れたんだけど、何か関係があるの?」
『妾の専門は神託と医術じゃからな。その辺の原因を突き止めるなど造作もない!
……と、言いたいのじゃが……』
「……ダメだったんだね」
『う、うるさい! ちょっと力が足りんかっただけじゃ!
お主がもっと愛の力を出してくれれば何とかなったんじゃ!』
「はいはい」
『適当な返事じゃな……あ、でも何も分からなかったわけではないぞい。
お主の記憶を少し探ってみたが、何か妙な印象を受けたのじゃ』
「妙って?」
『言葉にしようとすると難しいのじゃが……何か正常でないような違和感を感じたのじゃ』
「…………はぁ……」
『し、仕方ないじゃろう! それに、妾だからこそここまで分かったのじゃぞ!
妾の他の姉妹だったらこうは行かんわ!!』
「……ホントに?」
『ホントじゃ!
あ、でも、ディアナかメルクリウスでも居れば何か良い知恵を出してくれたかもしれんのぅ』
「あなたの姉妹だっけ? どこに居るかは分からないの?」
『分からんぞよ!』
「……どうやって探せば良いのかも……」
『分からんぞよ! 自分で言うのもどうかとは思うが妾はバカじゃからな!!』
「…………はぁ」
どうしよう、ホント。
アポロが『思慮』なのかと疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。なので、女神が司るものについて筆者なりの意見を……まとめようとするとかなり長くなったので活動報告にまとめておきます。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=189076&uid=39849
アポロの一人称は原作では平仮名で『わらわ』ですが本作では『妾』と変換してます。
桂馬が『ボク』ではなく『僕』な時点で今更ですけどね。ちなみにミスではありません。