その前提を基に『関係が今日で終わる事』、『全てが終わるまで関係が再開される事は有り得ない事』の2点を多少ぼかしながら伝えた。
そうする事でやや強引に中川からの告白を引き出す。
そして……それを僕は断る。
完璧に計画通りだ。
「中川、それじゃあダメなんだよ」
「え? どうして、え??」
「お前のその感情は、恋愛に極めて近いがある意味極めて遠い感情なんだよ。
その感情で心のスキマを埋める事なんてできない」
「ど、どういう、こと?」
ラッキースケベ等のイベントに対して怒りの反応が薄い場合、大まかにわけて2つの状態が考えられる。
好感度が極端に高いか、あるいは低いか。
低いって言い方もちょっとおかしいか。男として見られていない、あるいは人間として見られていない、つまり『好感度が無い』と言うべきだな。
裸を見られる事にほぼ抵抗が無いという稀有な人間も居るが……反射的にスタンガンを取り出した時点で中川には当てはまらないだろう。
好感度が無いというのも考えにくい。歩美の攻略での時間と秘密の共有は決して軽いものではないはずだ。
更に、現段階で告白された時点でこの線は完全に切って良い。
よって、『極めて好感度が高い』という結論になる。
それだけなら好都合なんだが……高すぎる事が問題だ。
ゲームを開始して5分で攻略率90%になってたらまずバグを疑う。それと同じだ。
ここまで好感度が高くなったからには何か別の要因があるはずだ。
思えば最初に会った時からこいつはどこかおかしかった。
突然スタンガンで襲ってくるなんて正気じゃないだろう。エルシィやら何やらのインパクトでうやむやになったがな……
ともかく、あの時の僕の言動が彼女の何かしらのスイッチを押してしまったのだろう。
中川の歪みとも言える行動がもう一つある。
そう、『僕の家に泊めてくれるように頼んできた事』だ。
爆弾騒ぎ(笑)で家に帰れないのはよく分かる。
だが何故僕の家に来る?
おおよその見当は付いたが、念のため本人にも確かめた。
『中川には女子の友達は居ない』
いや、女子に限定する必要は無いだろう。男子の友達も僕以外は居ないはずだ。
長々と話したがそろそろ結論を述べさせてもらおう。
中川の心のスキマは『孤独への恐怖』だ。
アイドルという職業故か、あるいは本人の性格故かは分からないが学校でも友達は居ない。
仕事でも同年代の友達は居ないはずだ。ネットで調べた限りでは数年前はアイドルユニットをやってたらしいが、今はソロで活動してるらしい。
そもそも友達が居たら僕の所には来ないな。同僚、あるいはライバルの同年代の女子とクラスメイトの男子。どちらが宿を借りる先として相応しいかは論じるまでもない。
さて、そんな孤独な中川かのんが突然頼れる男子と遭遇し、一週間もの間物理的にも精神的にも近い距離で過ごしたらどうなるか?
しかもその間話していた事は女子との恋愛に関わる事だ。
本人も恋愛を意識するのは当然、そして好感度が上がるのも当然だ。
こうして『僕に対してのみ好感度がある程度ある』状況になる。
その上で中川に駆け魂が居る事が発覚した時のショック、頼れるのが僕だけという状況。
これらの条件が重なるとどういう事になるか。
それは……
「中川、それは『依存』だ」
「い、ぞん?」
「お前は僕が好きなんじゃない。僕に縋っているだけだ」
「そ、そんなこと、無い!」
「なぁ、独りは寂しいか?」
「……うん」
「じゃあ、ずっと僕と一緒に居たいか?」
「……うん」
「それなら、僕が居ない時、お前は一体どうするんだ?」
「それは……」
「ほら、こうなるだろ?」
「…………」
「四六時中一緒に居る事は恋愛とは言わない。
お前がしたいのは恋愛なのか? それとも依存なのか?」
「わ、私は……」
中川は言葉を詰まらせた後に泣き叫んだ。
「私は、どうすれば良かったの!?
桂馬くんとの思い出は失いたくない!
ずっと一緒に居たい!
わがままな事は自分でも分かってるよ!
だけど、私はどうすれば良かったの!?」
……ふぅ、やっと僕に怒りを向けたか。
中川の依存を解く為にも僕に反抗して欲しかった。
これだけやれば上出来だろう。
「どうすれば良かった、か。
なら、全力で記憶を取り戻せ」
「え!? そ、そんなの無理だよ」
「ったく、僕の事が好きだと言うならそれくらいやってみせろよ」
「でも、だって……」
「……中川、お前は僕の攻略を2週間だけだがずっと側で見てたよな?」
「うん」
「僕の事は信用しているか?」
「当然だよ!」
「なら僕からアドバイスだ。
僕を落としたかったら、僕の度肝を抜くような事を成し遂げて見せろ!」
「度肝を、抜く?」
「ああそうだ! お前はさっき言ってたな。『迎えに来てほしい』って。
僕はそんな事をするつもりは無い。
お前から僕に追いついてみせろ!!」
「…………」
「それくらいやってのけるのなら、さっきの告白の返事は考え直してやるかもしれないな」
「……桂馬くん」
「どうした? 自信が無いか?」
「……やっぱり私、桂馬くんの事大好きだよ」
「なっ!」
「ありがとう、桂馬くん。
必ず
「……まぁ、期待せずに待ってるよ」
「最後に一つだけ、お願いしていいかな?」
「どうした?」
「『かのん』って、呼んでほしいの。一度だけで良いから」
「……かのん」
「ありがとう、桂馬くん。
絶対に、また会おうね!」
「……ああ」
好感度は足りていた。
最後の一手間も加えた。
これで、エンディングだ。
流れるように自然な動きで、
キスをした。
デレ易いけどヤミ易い。少なくとも初登場時にはそんな感じでしたね。
正攻法で進もうとすると必ずどこかで壁にぶつかるという。