攻略の記憶がある女子、特に、恋愛の記憶がある女子達をどうするべきかは悩みの種だった。
まったく、普通は攻略完了してエンディングを迎えたら好感度はリセットされるだろ。
結局できたのは、事情を話して誠心誠意謝る事だけだった。
あの時は最善の選択肢を選んでいたという自信がある。だから罪悪感とかそういうのは全く無い。
よって、僕が謝るというのもおかしいのだが……攻略された女子たちにとっては僕が元凶にしか見えないだろう。
だから……麻美から逆に励まされた時は安心するより先に困惑した。
いや、冷静に損得とかを考えると完全に正しい反応と言える。恋愛が絡んだ事を除けば僕の行った行為は麻美の悩みを解消した上に放っとくと子供として転生してくる悪魔を除霊(?)したのだから。
だが、人間の心がそんな風に割り切って考えられるようにできているならディアナみたいなアホな理由で嫉妬するような奴は存在しない。ん? ディアナは人間ではなく神だと? 所詮は
ましてや、恋愛に落ちている状態でそこまで冷静に考えられるものだろうか?
何故だろう? 原因を考えて、考えて、考えて……一つの仮説に至った。
もしかするとだが……僕は『攻略を失敗していた』のかもしれない。
いや、心のスキマを埋めて駆け魂を追い出したって意味では間違いなく成功している。しかし、恋愛による攻略は失敗していたのではないだろうか?
あの頃は恋愛による攻略しか知らなかったので、攻略対象を恋愛に落とす事だけを考えて突き進んでいた。
だが、吉野麻美の性格等をよく考えてみると……彼女が僕に対して抱いていたのは『畏敬』であり決して『恋愛』ではなかった。
キスした時に駆け魂が出てきたから最終的には互換フラグで恋愛に変わったんだろうと考えていたが、そうでもなかった可能性は十分に有り得る。
まぁ、完全に失敗したとも思えないが、完全に成功でなかった事は恐らく間違い無いだろう。
で、麻美が僕に恋愛してなかったなら話は凄くシンプルになる。
麻美は落ち着いて考えた結果、僕に助けられたと判断した。だからお礼を言った。
何の捻りも必要無い。何物にも惑わされること無く最適解に辿り着いただけの話だ。
「どうかしたの……?」
「……いや、何でもない。
それより、そろそろ練習の続きでもやるか?」
「そう……だね。頑張って走れるようにしようか」
そんな感じで、麻美との話し合いはひとまず終わった。
……しかし、何か忘れているような……
『桂木ぃぃぃ!! 妾を放置ってどういう事じゃ!!!』
「あ、そう言えば居たなお前」
グラウンドには女神が姿を現せるような鏡とかガラスはほぼ無かったが、練習を終えて校舎内に戻ったらそのくらい当然ある。
と言うか、ディアナみたいに宿主の身体を乗っ取って出てきたりはしないんだな。いや、できないだけなのか?
「あ~……お前との話し合いはまた今度な。話長くなりそうだし」
『何じゃと!? お主、妾を何だと思っとるんじゃ!!』
「女神サマだろ? だが所詮は
『どういう意味じゃぁ!!』
この手の連中は単純な事をやたら複雑に話したがるからな。
僕としてもしっかりと話しておきたいという気持ちはあるが、十分な時間と場所を確保してからで良いだろう。
「えっと……ごめんね、アポロが騒がしくて」
「気にするな。少し騒がしいくらいならどっかの女神供よりは数倍マシだし、そもそもお前が謝る事ではない。
それより、今日の放課後時間あるか? アポロとも話しておきたい」
「今日は……うん、大丈夫」
『な、何じゃ。ちゃんと妾の話も聞くのじゃな。安心したぞい』
ふとガラスに視線を向けるとアポロは心底ホッとした顔をしていた。
神だのなんだの言っても、今は駆け魂と同じく命からがら人間界に逃げ延びてきた無力な存在だからな。現状を打破する為にも事情を知っている僕とは絶対に話しておきたかったんだろう。
「それじゃ、また放課後に」
「うん、またね」
『またの!』
……さて、放課後までゲームでもするか。
『今日の放課後時間あるか? アポロとも話しておきたい』という台詞の後半を抜いてその他諸々も条件を調整すれば原作でハクアにやらかしたみたいな立派なアンジャッシュ状態になってたけど、長々と話した後でこじれさせるのは面倒だったので回避しました。
思えば桂馬とアポロが直接話した事なんて殆ど無いんですよね。アポロが出てきた時は……良く考えるとアポロが一方的に喋ってただけで会話してないし、占術世界に飛び込んだ時は殆ど説明しかしてないし……アレ? 実質ゼロ?
まぁ、その辺の事はディアナ以外の他の女神の方々にも似たような事が言えますが、アポロの場合は女神編においては宿主すらもロクに会話してないという。
アポロは桂馬の事をどういう人間だと思ってたんでしょうね? ロクに把握してない可能性も十分有り得そう。