もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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07 思慮の女神の権能

 放課後、特に問題も起こらずカラオケボックスに辿り着いた。

 防音された個室なので密談には持って来いの場所……っていうのは聞き飽きたか。

 

「桂馬君は来たことあるの? 何だか慣れてる気がするけど」

「ああ。イトコとしょっちゅう来てる」

 

 適当な部屋を借り、荷物を置き、テーブルの真ん中にPFPを置く。

 

「あ、待って。手鏡くらいならあるよ」

「ん? そうか」

 

 PFPをしまい、麻美が手鏡をテーブルの真ん中に置いた。

 

『う~む、やはり『ぴいえふぴい』とやらよりも鏡の方がのびのび動ける気がするのぅ』

「その鏡の中は一体どうなってるんだ……?」

『妾にも分からんぞよ。そういう事は頭の良いディアナかメルクリウスに訊いてほしいのじゃ』

「……アレで頭良いのか、あいつ」

『むぅ?』

「まあいいや。それじゃあ僕が知ってる天界と地獄に関する諸々を話すから、最後に間違いがあったら訂正してくれ」

『それは構わぬが……普通妾から喋るものだと思うのじゃが?』

「……じゃ、始めるぞ」

『何故じゃ!?』

 

 

 どうせ長くなるし、そもそもこのアホっぽい女神に説明能力があるとも思えないからな。

 ……で、簡潔にまとめるとだ

  ・300年くらい前に地獄で良い悪魔と悪い悪魔の戦いがあった!

  ・女神は良い悪魔に味方して悪い悪魔を封印した!

  ・で、何か今封印が解けた! 原因は知らん!

  ・封印が解けたんで人間界に悪い悪魔の魂(駆け魂)に紛れて女神がやってきた!

  ・以上!!

 

 

 こんな感じだな。麻美に向けた説明と一部被るが、女神向けの説明を少し追加した。

 何年封印されてたのかとか、封印解除の原因とかな。いや、原因は不明だという事が分かってるだけだが。

 

「はい、何か修正点は?」

『……全く無いのじゃ。むしろ妾よりも詳しいのではないか?』

「どうだろうな。大筋には関係無い細かい所なら当事者の方が何倍も詳しそうだが」

『それこそわざわざ語る必要も無かろう』

「そうだな、さて、ここからが本題だ。

 お前、他の女神と会いたいか?」

『当然じゃ! 妾たち姉妹は6人揃ってこそ力を発揮できるのじゃからな!』

「そうなのか? それは初耳だな」

『うむ。特にミネルヴァが居るか居ないかで全然変わってくるぞい。あやつは手を繋ぐだけで妾たちの力を何倍にも高めてくれるからのぅ!』

「何だそのチート能力は」

 

 アポロがおおげさに言ってるだけかもしれないが、もし本当に『何倍も』強くなるんだったらとんでもない事だ。

 ゲームだったらバランスブレイカー過ぎて縛るのがデフォルトになるんじゃないか?

 いや、それとも何倍も強くするのが前提の難易度なんだろうか? だとしたらクソゲーだな。

 

「残念ながら、そのミネルヴァの居場所は分からない。

 が、他に1名だけ会わせる事が可能だ」

『誰じゃ?』

「ディアナだ」

『おお! ディアナか! 是非とも会いたいのじゃ』

「じゃあ早速行くか……と言いたい所だが、1つ約束してほしい」

『何をじゃ?』

 

 この約束は、僕の命に関わるモノだ。絶対に厳守してもらわねばならない。

 

「ディアナと、あとその宿主に対して僕の『駆け魂攻略』の事を説明しない事。以上だ」

『別に構わぬが、何でじゃ?』

「……お前なら分かるんじゃないか? 『あの』ディアナだぞ?

 駆け魂を出す為とはいえあんな事をしてたとバレたら……」

『……激怒する様が容易く想像できるのぅ。

 分かったのじゃ。約束は守るぞい』

「吉野、お前もだ。大丈夫か?」

「……何となく事情を察したよ。桂馬君について何か訊かれても『ただのクラスメイト』って答えとくよ」

「それで良い。話が早いな。

 じゃ、早速出発するか」

「えっ、もう出るの? 時間も余ってるのに早すぎない?」

「歌う為にここに来たわけじゃないからな。

 何か歌いたいならゲームして待ってるが」

「いや、流石に桂馬君を待たせるのはちょっと……」

「そうか。まぁ、勿体ないという気持ちも分からんでもないが……」

 

 何かあっただろうか? ここでなければ話せないような事が。

 …………あ、そうだ。

 

「なあアポロ、ちょっと気になったんだが……

 ミネルヴァが凄まじい特殊能力を持ってるのは分かったが、お前も何か別の妙な能力は無いのか?」

『おお、そうじゃった! 勿論妾にもあるぞい!

 妾の得意技は『占術』じゃ!』

「戦術? いや、占術……占いか?」

『俗っぽい言い方をするとそういう事になるのぅ』

 

 占い、占いか……

 精度にもよるが、未来を知る事ができるというのはかなり強力な能力だ。興味深い。

 

「いや待て? その占いの能力があれば女神の居場所を探り出す事くらい簡単なんじゃないか?」

『占いじゃなくて占術じゃ!

 それに、そんな事ができるほど自由な能力ではないぞよ』

「どういう事だ?」

『妾の占術は具体的に誰がどこで何をするといった事は一切分からないのじゃ。

 せいぜい良い運気があるか悪い運気があるかといったボンヤリした事だけじゃ』

「……それ、役に立つのか?」

『バカにするでないぞ! 妾は見るだけではなくその悪い運気を浄化したりできるのじゃ!』

「ほぅ? そういう事なら不幸な事は一切起こらなくなるのか? それは凄まじいな」

『い、いや……妾は所詮は巫女じゃからな。祈ってちょっぴりと流れを変える事しかできん』

「……………………」

『な、なんじゃその捨てられた子犬を見るかのような哀れみの視線は!!』

 

 だってなぁ、全然役に立ってないじゃないか。

 自称占術はかなりフワッとしてるし、運気の浄化は気休め程度。

 その程度では怪しい新興宗教の教祖様の方がまだご利益がありそうだ。流石に気のせいだろうが。

 

「他に何か無いのか?」

『そうじゃのぅ……医術の心得はあるぞい。両腕両足が複雑骨折したくらいじゃったら多分治せるぞよ』

「凄まじいな!!」

『全盛期なら、という但し書きが付くがのぅ。

 今の状態ではせいぜいちょっとした怪我や病気を治す程度じゃな』

 

 それでも十分凄いな。

 得意な事よりも本人が当然だと思ってる事の方が何故か凄まじいんだよな。ある種のカルチャーギャップか。

 

「なぁ、それなら腕を2~3本増やしたりとかは……」

『無理じゃ。理に反しておるからのぅ』

「チッ」

 

 腕が増えればゲームの効率も上がるというのに!

 ……できないものは仕方ないか。

 

 

「……じゃ、そろそろ出るか。行くぞ」

「うん。ところで、どこに行くの? ディアナさんってどこに居るの?」

「ん? 言ってなかったか。僕ん家の隣だ」

「…………へっ?」







 面倒だから突っ込んでこなかったけど、『鏡に映った像が動く』って冷静に考えるとかなり謎。
 漫画の絵だと1方向からしか見ないので全く問題ないですが、現実的に考えると角度次第では像は全く映らないんですが……
 なお、今回桂馬と麻美さんは1つのテーブルに向かい合って座っており、その中間に鏡を水平上向きに置いてあります。
 桂馬からは映って見えるけど麻美さんの方からは覗き込まないと映らないという。
 声だけ聞こえてる状態なんでしょうか……?

 アポロは医術の専門との事ですが、どのくらいの怪我や病気なら治せるんでしょうね?
 両腕両足複雑骨折くらいならマジで治せる気がしないでもない。だって女神だし。

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