もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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 ※ 本章では所々ギャグ描写の悪用がされています。ご注意下さい(笑)




強さと弱さと
プロローグ


 始まりは、岡田さんに告げられたある言葉だった。

 

「護身術……ですか?」

「ええ、護身術。

 最近物騒だから、そういうのの心得を学んでおきましょうっていうのが流行ってるのよ」

「どこからそんなものが? と言うかそんな事やってたらアイドルに物騒なイメージが付いてきませんか?」

 

 苦言を呈したのは棗ちゃんだ。

 自分の身を守る事は勿論大事だけど、棗ちゃんの言う通りイメージは悪化しそうな気はする。

 でも、そんな不安に対して岡田さんはハッキリと答えた。

 

「大丈夫よ。武装してても人気の高いアイドルが既に居るから」

「……それ、一部の妙な連中に好かれてるだけじゃないですよね?」

「そんな事は無いわ。だって、かのんの事だもん」

「「えっ?」」

 

 わ、私? 武装って言われても、心当たりなんて全然無いんだけど……

 

「何をとぼけた顔してるの。あなたいつもスタンガン持ち歩いてるでしょ」

「あ、アンタそんなもん持ち歩いてるの!?」

「えっ? そうだけど……こんなのちょっとしたアクセサリーだよ。武装だなんてとんでもない」

「どこの界隈にそんな物騒なアクセサリーがあるのよ!!」

 

 そうは言っても、当たった相手を気絶させるくらいしかできない代物だ。

 リーチは短いから狙った相手に当てるのは結構大変だし、逆に密着し過ぎると自分も感電する。

 それに、悪魔や女神相手には痛がらせる事くらいしかできなかったし。

 

「うーん……せっかくだからスタンガンだけじゃなくてスタンバトンとかスタンロッドとか、そんな感じの物でも注文してみようかな」

「アンタは一体どこに向かってるのよ」

「そ、そういうわけだからイメージの低下はあんまり気にしなくて大丈夫よ。

 そもそも、武装するのはあくまで極端な例だから」

「あ、そうですか……ってことは武術的な何かを学べって事ですか?」

「そういう事になるわね。

 それで、そういうのを教えてくれる良い道場を探したんだけど……あんまり良いのが無くてね」

「えっ、岡田さんでも探し出せなかったんですか? あの岡田さんが!?」

「私だって存在しない物は見つけられないわよ」

 

 そりゃそうだ。岡田さんは神様じゃないんだから。

 いや、本物の神様でも無理だね。本物を見たことがあるから良く分かる。

 

「一応、実戦的な事を教えてくれそうな道場は見つけたのよ。ただねぇ……」

「問題があるんですか?」

「ええ。どうやら凄く厳しい道場らしくて、護身術をちょっとかじるだけみたいな軽い入門ができる雰囲気じゃないらしいのよ」

「それ、実質アウトですよね? 私たちはアイドルなんだから、長期間仕事に穴あける事はできませんよね?」

「勿論その通り。ただ、一つ興味深い情報があってね。

 その道場の当主がなんと女子高生らしいのよ」

「それは……随分と珍しいですね。ご当主が、ですよね?」

「ええ。しかも、舞島学園に通ってるらしいわ」

「舞島学園? どこかで……

 って、まさかかのんが通ってる学校ですか!?」

「その通り! というわけでかのん?」

「はい?」

「ご当主本人に何とか話を付けられないかしら?」

「……あの、岡田さんなら分かってる事だと思いますけど1つ言わせてください」

「何かしら?」

「いくらご当主本人と話した所で結果は変わらないのでは……?」

「それはそうだけど……ダメ元で良いから、やってみてくれない?」

「はぁ、まあいいですけど……で、どなたなんですか?」

春日(かすが)(くすのき)。3年生。

 春日流羅新活殺術の伝承者だそうよ」

「何か凄そうな流派ですね!?」

 

 たかが護身術の指導に大げさ過ぎないだろうか? たかがって言うのもどうかとは思うけど!

 

「ああそうそう、棗だけじゃなくてかのんも指導を受けておきなさい。

 無手の武術だけじゃなく武器の取扱いもやってるらしいから」

「一体何なんですか!? 春日流羅新活殺術って!?」







 というわけで楠編、始まります。
 最初は岡田さんが春日家に依頼するって形にしようかと思ったのですが、『あの楠がそんな依頼を受けるか』とか『そもそもあんな物騒な場所に依頼しないよ』とか問題点が色々と出てきたのでこねくり回してこんな感じに。これでも十分ツッコミ所満載な気はしますけどね。
 代わりの道場が見つからなかったのは『かつて春日流が敵対しそうな道場を潰し回っていた……』みたいな裏設定を設ける事で辻褄を合わせます。春日流ならやりかねないかと。

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