もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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02 治療術

「わざわざに~さまを運んでいただいてありがとうございました!」

「わ、私はちょっと手伝っただけだよ」

「それでもありがとうございました! 私だけだったら引きずって行かなきゃならなかったですから!!」

 

 意外と物騒な事を考えてたみたいだ。阻止できて本当に良かった。

 ……でも、エリーさんが桂馬君を引きずり始めたら流石に誰かが駆け寄ってくるんだろうな。ちひろさんとか、結さんとか。

 

「もうしばらくしたら私のバケツリレーが始まっちゃうのでそろそろ戻りますね。それじゃ!」

 

 そう言ってエリーさんは走り去って行った。

 残されたのは私と、ダウンしている桂馬君。

 私は……どうしようかな。

 

『まずは傷の手当てじゃろう? 妾と交代じゃ!』

「そうだったね。それじゃあお願い」

 

 幸いな事に私たちの他には誰も居ない。

 堂々とアポロを出しても大丈夫そうだ。

 私と入れ替わったアポロは手をにぎにぎさせたりして身体の調子を確かめているようだ。

 

「……うむ、心なしか動きやすくなった気がするのぅ。

 やはり、桂木との接触は愛の力が高まるようじゃな」

『……あの、1つ気になったんだけどさ、愛の力って何なの?』

「何と言われても、妾達女神の力の源じゃ!」

『それは分かってるよ。そうじゃなくて……

 えっと……その『愛』っていうのは『恋愛』以外も含まれるの?』

「勿論じゃ。そうでなかったらあのディアナが能力を振るえるわけが無かろう。

 今でこそお主らから愛の力を拝借できておるが、元は独立した女神じゃよ?」

『……ああ、あのヒト……じゃなくて神様か。確かにそんな感じだったね』

「うむ。とは言え、『恋愛』が一番効果があるのは確かじゃがの。

 お主の場合は……恋愛はあるようじゃが、比率としては半分くらいじゃのぅ」

『半分……うーん……』

 

 桂馬君の事が好きかと問われたらまあ好きだけど、大好きかと問われたらそうでもないと答えるだろう。

 何て言うか……桂馬君は凄すぎて、私にはついていける自信が無い。桂馬君とまともに付き合える人はよっぽどの天才か変人だけだろう。

 凄く奇妙な話だけど、好きだけど恋愛対象ではないのだ。

 萎縮してしまって遠慮してるとか、諦めてるとか、そういう話でもない。

 今のこの距離感が桂馬君と付き合っていく上で一番適切な距離感だ。そんな気がする。

 

「では、始めるとするかの。久しぶりじゃから失敗するかもしれんがまぁ何とかなるじゃろ」

『えっ? 今何か凄く不穏な台詞が聞こえたんだけど?』

「心配するでない。例え失敗したとしても大した事には……あ」

『何!? 今の『あ』って何!?』

「だ、大丈夫じゃ。ちょいとうっかり心臓を止めてしまったが、すぐにまた動かしたので大丈夫じゃ」

『何をどうしたら心臓が止まるの!?』

 

 心臓はある意味止まったり動いたりしてる臓器だから本当に短時間なら止まっても大丈夫……な気がするけど……

 このヒト、もとい神に治療を続けさせて大丈夫なのだろうか?

 

「では続きを……あ」

『今度は何!?』

「安心せい。別に失敗したとかそういう話ではない。

 ただ……気付いた事があってのぅ」

『気付いた事?』

「うむ。気付いておるかもしれんが、妾とお主は身体の感覚も共有しておる。

 例えば交代しておる時に妾が転べば当然妾は痛いが、お主も同じように感じるわけじゃな」

『言われてみれば確かに……全然気付いてなかったけどそうだね』

 

 今だって冷房が効いてて外よりは涼しいのが伝わってくるし、来ているジャージの感覚も……一応ある。

 そもそも音が聞こえたり物が見えたりする時点で感覚がオフになってないのは確かだ。

 

「うむ、じゃから……」

 

 あれ、何だろう? 何だか凄く嫌な予感が……

 

「……この状態で、桂木にキスでもしたらどうなるのかと……」

『っっっっっっっっ!?!?!?!?!?!?』

 

 何かこの女神、とんでもない事を言い出した。

 

『ダメッ! 絶対にダメだからね!!』

「むぅ、良いではないか。1回も2回も変わらんじゃろ」

『そういう問題じゃないから!

 と言うか、1回目は……その……事情があったわけだし』

「では今回も事情があれば良いわけじゃな? では……」

『そういう問題でもないから!!

 と、とにかく、早く治してあげて!!』

「仕方の無い奴じゃのぅ。

 ……ほれ、これで大体治った……はずじゃ」

『どうして最後で不安にさせるかなぁ……』

「流石に悪化する事は多分無いから安心せい!」

『……そういう事にしておくよ。それじゃあそろそろ交代して』

「そうじゃのぅ。久しぶりに力を使って少し疲れたのじゃ。

 妾はしばらく休むと……

 くー……」

 

 ……寝ちゃったみたいだ。女神の力って使うと結構疲れるのかな?

 アポロが奥の方に引っ込んで行ったので自然と交代された。うーん、どうしようかな。

 ……もうしばらく、桂馬君の様子を見ておこうか。アポロが何かやらかしてないとも限らないし。







 ちょっと遅い解説ですが、明言したのは今回が初めてなのでここで解説。
 女神の力の源である『愛の力』については『恋愛のみ』なのか『それ以外も可』なのかの解釈をかなり迷ったのですが……奇しくも女神が義姉妹である事の出典である『コアクマのみぞ知る女神』で『ユピテルの姉妹は姉妹の絆によって力を発揮する』みたいな事が書いてあったので迷いは吹っ切れました。
 絆、姉妹愛が可なら大体可だろう……と。
 仮に違ったとしても本作の独自設定で可という事にしておきます。
 なお、恋愛を回避できる代償として回復は遅い模様。アポロなんてハイロゥ(リング)すら取り戻してないし。いやホントどうしよう。

 この解釈が正しいという仮定で原作を振り返ると……何か、ディアナがエルシィと同レベルのポンコツに見えてきました。

エルシィ「心のスキマを埋めるには、恋がイチバン!」
ディアナ「女神は愛の力で復活します。だから天理と結婚してください!」

かのん「……あの、恋愛じゃなくても普通に埋まったんですけど?」
アポロ「ディアナは大げさじゃの~」

 ……まぁ、『恋愛』が一番強力なんだろうなとは思いますけど、この2名の発言が無ければ物語の流れは大きく変わってたかもしれませんね。
 むしろあの流れにする為にこの発言があったとかいうのはきっと気のせい。

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