もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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ありがとう

「おい、しっかりしろ!」

 

 急に倒れた中川を抱き止める。

 

「大丈夫です神様! 多分ただの魔力切れです!」

「本当か? 本当だろうな?」

「どれだけ信用低いんですか私!?」

「そんな事はどうでもいい。どうすれば治るんだ?」

「一晩安静にしてればすぐ良くなると思いますよ」

「……そうか」

 

 どうやら命に別状は無いようだ。

 とりあえず……僕の家で寝かせるか。

 

「しっかし、駆け魂を倒した途端に倒れたな。

 緊張の糸が切れたのか?」

「う~ん、駆け魂から魔力を搾り取って魔法を使ってたから、その駆け魂が消えた瞬間に魔力切れになったんじゃないですかね?」

「……ちょっと待て、どういう事だ? 駆け魂は魔力を持っているのか!?」

「え? はい。駆け魂は実体が無いとはいえ悪魔ですからね。人間よりも遥に高い魔力を持ってますよ」

「駆け魂が悪魔、だと?」

「え? 言ってませんでしたっけ?」

「聞いてねぇよ!! なんでそんな重要な事黙ってたんだよ!!」

「ひ~! すみません~!!」

 

 『負の感情を糧にして心のスキマに忍ぶ』

 確かに悪魔っぽい設定だったなぁ。人間の悪霊でも十分に通じる設定だが!

 

「って言うかお前、何で遅刻してきたんだよ!!」

「え? え~っと……」

「僕はお前に確かに時刻を伝えたよな?

 そして伝えた時刻から30分くらい過ぎてるんだが?」

「あ~、えっと、事務所を抜け出すのに少々時間がかかってしまって……」

「……それだけか?」

「は、はい! それだけ……」

「…………」

「……す、すみません。少々道に迷ってしまって……」

「中川のペンダントからは位置情報が発信されてると手紙に書いてあった気がするが?」

「あ~、えっと、拘束魔法の信号が送られてくるまで忘れてて……」

「……このバグ魔が!!」

「す、すいません~!」

「ったく、今日は帰るぞ。羽衣で中川を運んでやってくれ」

「りょーかいです!」

 

 エルシィが中川を羽衣でぐるぐる巻きにする。

 すると風船のように浮かんだ。

 ホント便利だよな羽衣。羽衣さえあればエルシィなんて要らないんじゃないだろうか?

 ……いや、結界は確かエルシィ個人の力だったな。

 

「……エルシィ、ちょっといいか?」

「何でしょうか?」

「攻略が終わると女子の、って言うか関わった人の記憶は消えるよな?」

「はい、正確には記憶の操作ですね」

「どっちだっていい。もとの記憶が戻る事ってあるのか?」

「う~ん……すいません、記憶操作の詳しい理屈とかはよく知らないんで分からないです」

「……そうか」

「でも、基本的に戻る事は無いはずですよ。なんたってアクマ(私たち)の最新技術ですからね!」

「……分かった。それじゃあ帰るぞ」

「あ、待ってくださいよ神様!」

 

 中川が思い出す事はまず無いか。

 それこそ奇跡でも起こらないと不可能。

 もし中川がそこまでやってのけるなら……

 

 

 

 

 

 

 

 

  ……翌日 朝……

 

 いつも通りに朝起きて、いつも通りに食事を取る。

 いや、いつも通りではなかったか。4人の朝食は一週間ぶりだ。

 

「さぁ、かのんちゃんもどんどん食べてね!」

「ありがとうございます。麻里さん」

「うぅ~、懐かしの味です! お母様!!」

「んもぅエルちゃんったら、いつも食べてるじゃないの」

「え? あ、そうでしたね! アハハ~」

 

 エルシィが地味にボロを出してるが、誰も気にしてないなら良いだろう。

 人が入れ替わってるなんて誰も思わないし言っても信じないからな。

 そう言えば、中川はどれだけ覚えているんだ? 入れ替わりは今後も使う可能性があるからその辺は覚えていて欲しいんだが……

 

[プルルルル プルルルル]

 

「あ、私だ。ちょっと失礼します」

 

 中川の携帯の……メールの音だったな。

 電話の着信音は歌だったはずだ。

 仕事先からだろうか? あいつ友達居ないし。

 

「携帯かぁ……いいなぁ……」

「あら、エルちゃんも買う?」

「え? 良いんですか!?」

「勿論よ! この機会に桂馬も買う?」

「PFPがあるから問題ない」

「メールができても通話は出来ないじゃないの」

「必要ないからな」

「んもぅ、可愛げが無いわね。

 それじゃあ、今度時間がある時に買いにいきましょ」

「はい!」

 

 携帯か。僕には必要ないが、エルシィには持ってもらった方が良いな。

 ……あいつ、メールを使いこなせるんだろうな? ボタンを押したら煙を吹いたりしないよな?

 

「ただいま戻りました」

「お帰りなさいませ! 何を話してたんですか?」

「えっと、今日はお仕事がキャンセルになったから、学校に登校してて欲しいって」

「姫様と一緒に授業を受けられるんですか!? 楽しみです!!」

「そうだね。私も楽しみだよ」

 

 今の台詞は……やはり一週間の記憶はなくなっているのか?

 やはりそれとなく確認してみた方が良いな。

 

 

 

 

 登校中、中川の方から僕に話しかけてきた。

 

「あの、桂馬くん。

 私、ここ一週間の記憶が曖昧なの」

「……そうか」

 

 わざわざ言われると逆に怪しいんだが……

 

「でもね、3つだけだけどはっきりと覚えてる事があるの」

「3つ?」

「まず、『私の中に駆け魂が居た事』、次に『桂馬くんがそれを何とかしてくれた事』」

「……3つ目は?」

「それはね、『桂馬くんにお礼を言う』って事」

「……」

「だから、言うよ。

 ありがとう、桂馬くん」

「……ああ。どういたしまして」




これにてかのん編終了です。

彼女の原作初期における心の弱さ、そして、事情を知っているからこその恐怖等を盛り込んでみました。
更に魔法に関する解釈やら、攻略の場を整える為の入れ替わりを描写し……
……なんですかね? このハードスケジュール。決して攻略2人目の難易度じゃないですよね?

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