もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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間章
運命変革の兆し


 何も無い、真っ白な景色が延々と続く空間で、彼女はただ祈りを捧げていた。

 

 思慮の女神 アポロ

 

 彼女の役割はいくつかあるが、最も重要な役割は未来を見通し神託を授ける事だ。

 封印が解かれて人間界に流れ着き、女神としての力の大半を失った今でもその役割は変わらない。

 

「……やはり、以前のようには行かんのぅ」

 

 本来の力があれば、吉兆凶兆の全てを把握し、国や世界単位で干渉する事が可能だが……今の彼女は小さな街の運命すら見通す事は叶わない。

 

 しかし、未来を強く揺り動かすような強烈な出来事が起こるのであれば……今の彼女でも見通す事ができたようだった。

 

「む? これは……?」

 

 彼女の権能が何かを察知した。肝心のその中身までは分からなかったが。

 ただ1つだけ、分かった事があった。

 

「……もうじき、運命が動き出すのじゃな。妾たちの運命が」

 

 神託を下す女神すら見通せない彼女たちの運命は、きっと神のみぞ知るのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倉川灯ことリミュエルの攻略もどきを終えた数日後、僕は普通にエルシィと一緒に学校に来ていた。

 至って普通の光景のはずなのだが何故かレアな気がする。

 

 

「あと少しでに舞校祭ですね! がんばりましょ~!!」

「お~! 私たちのバンドの晴れ舞台だ! やってやるぞー!!」

「いよいよって感じだね。私も頑張るよ!!」

 

 

 そのエルシィはちひろや歩美と盛り上がっているようだ。

 ……そう言えば、舞校祭では不特定多数の人間がこの学園にやってくる事になる。何とかしてセンサーを回収しておくか。できれば家の中に封印しておきたいが、流石に無理だろうな。せめて僕が持っておきたい。

 

 

「……ところでお前たち、テスト結果は大丈夫だったのか?」

「……み、京さん!! 何でそれを言っちゃうんですか!!」

 

 ああそうそう。テスト期間は既に終わった。

 どうせ何かイベントがあるんだろうと身構えていたら拍子抜けだったよ。

 ……嵐の前の静けさだとは思いたくは無い。

 

「い、いいい今はそう! バンドに命懸けてるからね!! べべべ勉強なななんて!!」

「あれ? おかしいな、目の前が真っ暗に……ああ、何だか眠くなってきた……」

「あ、歩美さん!? 目を開けてください!!」

「衛生兵! 衛生兵!!」

「……そんなコントやるヒマがあるなら補習の準備でもしときなさい。ちひろはまだしも赤点常連組は特に」

「そんな! 私たちにはこうやってボケる権利すら無いっていうの!?」

「おーぼーです! 訴えてやる!!」

 

 

 実に平和だ。少々うるさいが、誰にも邪魔されずにゲームができるというのは……

 

「神様! ヒドいと思いませんか!?」

「…………」

 

 何か声をかけられた気がするが間違いなく気のせいだろう。

 積みゲーの消化に忙しいからな。そういう妙な声が聞こえる事もあるさ。

 

「あれ? 聞こえてない? か~み~さ~ま~?」

「おいエリー、こんなどうでもいい問題に桂木を巻き込むのは止めとけ」

「う~ん……分かりました……」

 

 

 おや? 現実(リアル)にしては空気が読めている。

 たまにはやるじゃ……

 

「あの、桂馬君、今大丈夫かな?」

 

 机の上に手鏡を置きながら話しかけるとかいう奇抜な事をやってきたのは勿論麻美だった。

 女神サマからの話か? 一応聞いてやるか。

 

「手短に」

『相変わらず扱いが軽いのぅ……まあええわ。

 妾からの神託じゃ。心して聞くがよい』

「御託は要らん。サッサと内容を言ってくれ」

『お主は神託を何だと思っとるんじゃ?

 え~、ゴホン。どうやら近いうちに何か大きな事件が起こるようじゃ。

 妾たち女神に関係する事件がな』

「ほぅ? で、それはいつ頃でどんな事件なんだ?」

『分からんぞよ』

 

 僕は無言でゲームを再開した。再開したと言うより注意力の配分を5対5から9対1に変えただけだが。

 

『おい、聞いておるのか桂木!!』

「そんな何もハッキリしてない情報を聞いて僕にどうしろと言うんだ」

『そう言われると困るのじゃが……お主には伝えておいた方が良い気がしたのじゃよ』

「こっちもそんな事言われても困るんだが?」

『むぅ……話す事で何か分かるかとも思ったのじゃが、そうでもないようじゃな。

 妾の神託を聞いて何かすべきだとか感じたりはせんかったか?』

「…………」

 

 随分とフワッとした能力だな。

 だが、相手は仮にも女神サマだ。ちょっとしっかり考えてみるか。

 

 女神の件で事件がおこる。

 女神関係で……そうだな、1つだけどうするべきか迷ってる案件があった。

 ……何か致命的な事件が起こる前に『あの事』を言っておくべきなのか?

 

『む? それはいかんぞ桂木よ』

「な、何だ? 突然どうした?」

『詳しくは分からぬが、お主の方から凶兆の気配が膨れ上がった。

 何をしようとしたのか妾には分からぬが、今考えていた事は止めておいた方が良かろう』

「……お前、意外と有能だったんだな」

『意外ってどういう事じゃ! 意外って!!』

 

 この若干アホっぽさが漂う女神の事を完全に信用する事はできないが、行動の参考にはなった。

 しばらくは、隠しておくとするか。







 不完全なアポロさんでも『運命を致命的に揺るがす選択肢』くらいなら読み取れるんじゃないかなと。
 桂馬の隠し事は次章に判明するでしょう。気付いてる読者の方もいらっしゃるみたいですけどね。

 テスト期間はいつの間にか終わった体でいきます。今回の攻略の作中時間がかなり短くなったのと、女神攻略に1週間もかからない疑惑が出てきたので……
 具体的に今現在が何曜日なのかは誤魔化させてください。
 しっかし、ちょっと前までは時間が足りないとか言ってたのにむしろ時間があまってしまうという……

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