もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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01 5年越しの再会

 ところで、

 ずっと窓から覗いているという事は当然、後ろへの注意がおろそかになります。

 

 そうであっても、後ろから来たある人に気付けたのは……神様だったら不幸だったって言うんでしょうね。

 だって……センサーが鳴りましたから。

 

ドロドロドロドロ……

 

「えっ、センサー? どこに!?」

「おいエリー、携帯のアラーム切ってなかったのか!?」

「いえ、これは携帯ではなく、えっと……」

 

 慌ててセンサーを切りますが、そんな音を出したら当然道場内まで聞こえるわけで……

 

「ん? そこに居るのは誰だ!」

「この音って……はぁ……」

 

 そして、センサーが反応した背後に目を向けると……

 

「こら君達、こっそり覗き見なんて、感心できないゾ」

 

 グラマラスなお姉様といった雰囲気の見知らぬ女性が立っていました。

 『ごめんなさい!』とか、『どなたですか?』とか、色々と言いたい事というか言うべき事はあったのでしょうけど、私たちが言葉を発する前に道場の扉が勢いよく開け放たれました。

 

「覗き見していたのは貴様らか……って、あ、あなたは!?」

 

 謎の女性を見て部長さんが驚いているようです。お知り合いでしょうか?

 

「おー、楠。しばらく見ない間にキレーになったわね」

「ま、まさか……姉上……なのですか?」

「自信無さげね。この私が春日檜サマ以外の誰に見えるってのよ」

「……いえ、見えません。お久しぶりです姉上」

 

 ど、どうやらこの謎の女性は部長さんのお姉様みたいです。

 しかし、全然雰囲気が違いますね。部長さんは『和のココロを持った武道家』って感じなのに、お姉様の方は『派手な外国人』って感じです。

 

「お姉さんが居るとは聞いてたけど、何というか予想以上に凄そうな人だね」

「そうですね……って、姫さ……かのんちゃんいつの間に!?」

「いや、私と師匠しか居ないのに師匠が飛び出していったらそりゃ付いていくよ」

「た、確かに!」

「で、2人とも一体こんな所で何してたの?」

「え、えっとですね……ちょっとかのんちゃんの様子を見に……」

「ちひろさん、別に悪い事じゃないんだから堂々と真正面から入ってきても良かったんだよ?

 そのまま体験してみてもいいし」

「え、遠慮しときます……」

 

 姫様はご自分の身体能力が一般人とはかけ離れている事を自覚していない節がありますね。

 魔力を使って無意識に身体強化を行っているみたいなので気付けないのも無理はないのかもしれませんけども。

 

「う~ん。私としても友達が一緒に居てくれたら楽しいんだけど、無理強いするのは良くないね」

「えっ、と、友達? わ、私が?」

「えっ? も、もしかして違ったの……?」

「い、いや、友達……確かに友達なのか。

 でも、私なんかがかのんちゃんの友達でいいのかなって……」

「何言ってるの! むしろちひろさんだからこそだよ!」

「か、かのんちゃん……」

 

 う~ん、良い話ですね~。心なしかちひろさんの目元が潤んでいる気がします!

 お互いに無いものを持ち合っている、良いお友達だと思います!

 

 って、そっちも気になりますけど今は駆け魂持ちの部長さんのお姉さんについてです!

 事前の情報収集が大事って神様いつも仰っていますからね! 頑張りますよ!

 

 

「姉上、どうしてここに?」

「道場の方でアンタの居場所を聞いてね。ちょっと驚かせに来たってわけ」

「そうだったのですか。お元気そうで何よりです」

「何? この私がどっかで不健康に過ごしてるとでも思ってたの?」

「いえ、そういうわけでは……」

「アッハッハッ、ジョーダンよジョーダン。

 ところで……」

 

 そこで言葉を切って部長さんのお姉さんはこちらに向き直りました。

 

「あの子たちは知り合い?」

「いえ。初対面ですが……」

 

 お姉さんの疑問に答えるように、部長さんの言葉を継ぐように姫様が一歩前に出ました。

 

「この2人は私の友達です。不審者ではないのでご安心下さい。

 あ、申し遅れました。私、中川かのんと申します。師匠……楠さんにはいつもお世話になっています」

 

 おお、姫様カッコいいです! 何か仕事のできる大人の女性って感じの言葉遣いです!!

 

「へぇ~、楠あんたかわいい弟子を取ったわね。昔っからかわいいもの好きだったものね」

「なっ!? 何故それを!?」

「そんなの見てれば分かるわよ」

 

 う~ん、そんなに簡単だったんですかね?

 流石は部長さんのお姉さんという事なのでしょうか?

 

「あの、師匠、ちょっといいですか?」

「ん? 何だ?」

「ちょっと急用が入ってしまったので今日はもう上がらせてもらいます」

「ああ、そうか。気を付けて帰れよ。

 ……気を付けなくても怪我などしなさそうだがな……」

「??? それじゃあ、失礼します!」

 

 姫様はお帰りになられるみたいです。私たちは……

 

「わ、私たちも失礼します!」

「あ、待ってくださいよちひろさん!」

 

 ちひろさんが姫様についていこうとするので私も後に続きました。

 確かに、姉妹の再会に水を差すような事はしたくないですからね。

 

 それじゃあ……攻略を始めましょうか。







 原作では檜さん自身が名乗って現れていたので楠さんもすぐに『あ、姉上!?』という台詞が出てきましたが、特に名乗らなかった場合でも楠さんは気付けたんでしょうかね?
 5年も前から音信不通だった上に髪も染めているので割と怪しい気はしますが……まぁ、姉妹ですから少し迷うけど分かるとしておきました。

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