あの後、上手いこと桂馬くんと合流して道場から一旦離れた。
作戦会議するのにあの羽衣さんの中だと狭いからね。道場のそばの山の中なら透明化してなくても誰かに見つかる事は無いはずだ。
「負けたい理由ねぇ……似たような話ならゲームでもよくあるから心当たりはいくつかあるぞ」
「えっ、ホント!?」
困った時の桂馬くんだね。
ギャルゲー的な攻略手法だけじゃなくて知識量っていうのはなかなかに侮れない。
「例えば……お前はトップクラスのアイドルだよな」
「う、うん……自分で言うのもどうかと思うけど、今現在の一番人気のアイドルって事になってるよ」
「なら尚更都合が良いな。
一番人気って、辛くはないか?」
「? 辛い?」
「トップである事のプレッシャーってやつだ。
一度トップに立つとこれからもトップである事が期待される。
それに押し潰されそうになって逃げ出す奴はゲームで何人も見てきたし、
「もしかして、歩美さんの事?」
「あとハクアもだな。あいつは逃げ出せずに潰れそうになってたが。
そんな感じで『勝たなければならない』というプレッシャーから逃れる為に負けようとするのは有り得る」
「……なるほど」
「あとはそうだな、小物のテンプレ台詞である『俺はまだ本気を出していない』『明日から本気出す』とかを本当にやっている可能性もあるな。
自分は全力じゃなかったから負けても問題ないってな」
「そういうパターンもあるのか……」
そんな打算で手加減するような人には見えなかったけど、無意識のうちにやってしまっているというのは有り得そうだ。
じゃあ、これも聞いておこう。
「負けたい原因である『勝たなければならない』の方の理由は分かる?」
「『姉より優れた妹など存在しない』という事だろう。いや、『存在してはならない』の方が正しいか。
姉妹間の仲は良好なんだよな? 楠の方が檜の家出を怒っていたとか、そういうのは無かったよな?
「そうだけど……師匠は一応先輩だよ? 名前で呼び捨てはどうなの?」
「あ~、じゃあ師匠でいいや。
師匠と姉の仲が良かったなら、その姉は常に妹からの尊敬を集めていたはずだ。
さて、そんな姉が5年ほど経って舞い戻ってきた。その妹はアイドルに武術を教えたり、当主の役目を立派にこなしていた。姉の助けも無しでな。
……どう思う? お前だったらさ」
「うーん……私はひとりっ子だし、妹分みたいな子も居ないから想像しかできないけど……
……素直に喜べるかと言われたら難しいかもしれない」
「より具体的な例としては、エルシィが突然アイドルを目指して僅か数日でお前よりも人気が出た場合を考えてみろ」
「うん、絶対有り得ないって思うよ。素直に喜ぶ事は絶対に無い」
「あの、姫様? 私、居るんですけど?」
「あれ? 居たの?」
「居ましたよ!! さっきからずっと!!」
ヤバい。素で忘れてた。
「……ま、エルシィさんだしいいか」
「どういう意味ですか!!」
私とエルシィさんがアイドル勝負をして私が負ける事は絶対に無い……はず。
はずなのに、人気投票とかで負けたら真っ先に不正を疑うよ。
そして、それでも不正が見つからなかったら……私は立ち直れないかもしれない。
「まぁ、そんな所じゃないか。あくまで想像だが」
「大体合ってると思うよ。師匠の意見とも概ね一致してるし。
でも……それが合ってるなら危ないかもしれない?」
「どういう意味だ?」
「……これ、ちょっと前の師匠の台詞なんだけど……」
師匠が檜さん倒した時、『本気を出して欲しかった』みたいな事を言っていた。
でもさ、手加減が無意識のものだったら……本気を出しているつもりの檜さんの心を凄く傷つける台詞なんじゃないかな?
意識的に手加減していたとしても底の浅さを見抜かれたわけだし、かなりダメージを受けるんじゃないだろうか?
そして、私と桂馬くんの共通認識として、今回の駆け魂はヤバい。溢れ出す妖気が自己主張してたからね。
「……どうやら本当に急いだ方が良さそうだな。
行くぞ!」
「うん!」
「えっ、お2人ともどこに行く気ですかぁ!?」
勿論、向かう先は道場だ。
師匠と檜さんとを直接会話させないと、今回の攻略は絶対に成功しないだろう。
そう思って、駆け出したその時だった。
ズゥゥン
何か大きな物が崩れるような、そんな音がした。
そして……
「何だ……アレは……!!」
道場の方角に、巨大な人影が見えた。
かのんがエルシィの存在を忘れてた場面は筆者も素で忘れてました。
ま、エルシィだからいっか♪