「とにかくだ、今回のターゲットは茶道部員なんだな?」
「はい、そうみたいですね」
「相手の属性が絞れるなら攻略はやりやすい。
ひとまず……放課後に透明化して様子を見るか」
「歩美さんの時と同じ手順ですね。了解しました!」
「そういうわけだが……中川、お前はどうする? 一緒に来るか?」
「そうだね……今日は予定も入ってないから付き合うよ。
私がどれだけ役に立てるかは分かんないけど」
「分かった。じゃ、また放課後に」
茶道部員か。
あからさまに茶道部員っぽい感じのキャラなら攻略もやりやすいんだがな。
……『好きな物は特に無し、嫌いな物も特に無し』
何か凄く嫌な予感がするんだが、はてさて……
……そして放課後……
「……ああ、うん。そう言えばそうだったな」
透明化は、狭い。
くっついてくるエルシィと中川が鬱陶しいが文句を言っても仕方ないので適当な場所で聞き耳を立てる。
「茶道かぁ、茶道はやったこと無いな。どんな風にやるんだろう?」
「どんな風にと言ってもな、基本的にはホストがゲストに順番に茶を振る舞うだけだ。
本当にしっかりした茶道は色々な礼儀作法やら何やらがあるが……ちゃんとした先生が居ないと細かい所まで徹底するのは難しいだろうな」
「そっかぁ……」
「僕が知っている知識では……
茶を飲む時は正面を避ける為に器を少し回す、
飲み終える時にはズズッと音を立てて飲み干す、
茶菓子は茶が出てくるまえに食べきる、とかだな」
「え? お菓子って食べちゃって良いの?」
「ああ、細かい理由は忘れたがな」
「じゃあ私も何か飲む前にお菓子食べますね!」
「茶道と日常をごっちゃにするんじゃない!」
「え~? 神様のイジワル」
何か飲む度に菓子を食べてたらあっという間に枯渇するんだが?
ってかエルシィはどうでもいい。麻美を観察しないと。
観察を終えた後、一旦家に戻って作戦を練る事にした。
さて、結論から言わせてもらおう。
彼女は茶道部キャラではなかった。
「無理をしてる、動きが固い、嫌がってる……
う~ん、どれもしっくり来ないなぁ。何て言えば良いのかな?」
「現状では適切な表現が見あたらないな。
だが、茶の道を極めようとしているとか、茶会が大好きだとか、そういうキャラでない事はほぼ間違いないだろう」
「だね」
とりあえず集められる情報はこれくらいか。
これ以上は体当たりで集めるしか無いだろう。
「神様、姫様、お飲みものをご用意しました!」
エルシィがコップに麦茶を入れて持ってきたので適当に受け取って口を付ける。
「ちょっと、神様? お茶を飲む時は正面を避ける為に回すんですよ!!」
「あの、エルシィさん? それってお茶会の時だけだからね?」
エルシィの戯言は気にせずにお茶を飲む。
……普通の麦茶だな。至って平凡な味だ。
「あ、そう言えばクラスの人から聞いたんですけど」
「ん? 何だ?」
「吉野麻美さんなんですが、好きな人が居るんじゃないかって……」
「何? それは面倒だな」
片思いのせいで心のスキマができた……とか? 十分に有り得そうな話だが。
「その人の名前って分かる?」
「えっとですね……神様らしいです」
「ぶはっ!!」
飲んでたお茶を盛大に吹いてしまった。
っていうかちょっと待てや!!
「ゲホッ、ゲホッ、
お、おいエルシィ、どういう事だ!?」
「そ、そうだよ!! 桂馬くんが好きって、どどどどういう事!?」
「え? いや、あの、私も隣の席のちひろさんから聞いた話で、まだ本当かどうかは……」
「ちひろ……小阪ちひろか」
確かギャルゲーの背景に居そうな感じのモブだったな。
学校一のイケメンは誰だとか何かそんな感じの事ばっかり言ってる奴だ。
そこそこ席が近いんでそこそこ声が届いてくるんだよな。
あいつの言う事なら……あまり信用性は無いが、疑われるような何かが吉野麻美にはあるんだろう。
……調べてみる必要があるか。
ちひろさんの名前がこんな早く出るとは思いもしなかったです。