「じゃ、今度こそ尋問を始めよう。
あ、お前はずっと黙ってていいから。むしろ余計な事はしないでくれ」
「えっ!? じゃあ私は何のために一緒に行くのよ」
「フィオーレが勾留を打ち破るかもしれないだろ? それに、身体検査はしたんで多分大丈夫だとは思うが催眠術とかをかけられても面倒だ。
僕が明らかにおかしい行動をしようとしたら殴ってでも正気に戻してくれ」
「……そんなとんでもない術が簡単に使えるほど魔法は便利じゃないんだけど?」
「ん? そうか。まぁ、保険みたいなもんだ。頼んだぞ」
「……分かったわ。日頃の恨みも込めて遠慮なくぶん殴るから」
「何の恨みだよ何の」
仮面を着け、マントを纏って部屋へと入り、勾留ビンに巻き付けておいた布を剥ぎ取る。
ビンの中のフィオーレは起きていたようだ。
「だ、誰なのあんた達は! 私をここから出しなさい!!」
随分と威勢の良い事だ。
こういうのは性に合わんが、じっくりと揺さぶっていくか。
『立場を弁えろ。質問した事以外に喋る必要は無い』
「何ですって!? 私を誰だと思ってるの!?」
『そんなもん知るか。ヴィンテージの下っ端なんぞいちいち気にも止めん』
「はぁ!? この私が言うに事欠いて下っ端ですって!? 冗談じゃないわ!!」
そういう事を言う奴は大抵の場合本当に下っ端なんだよな。ゲームでは。
大物だったらもっと大物感溢れる返答をしてくれるだろう。
『はぁ、じゃあまずはその辺から聞かせてもらうか。
フィオーレ・ローデリア・ラビニエリだったな。お前はヴィンテージの中でどういう立場だったんだ?』
「!? あんた、どうして名前を……」
『おっと、適当にカマをかけたら偶然当たってしまったようだな。ハハハハハ』
「名前が偶然当たるわけが無いでしょうが!!」
『何をそんなに怒ってるんだ。もっとカルシウム摂った方がいいぞ』
「あんたのせいでしょうが!!!」
尋問の成功パターンはいくつかあるが、重要なのは冷静な判断をさせない事だ。
まともな状態で敵に情報を漏らすわけがないからな。
完全に心をへし折る事ができれば楽なんだが、そう簡単には無理だ。このままおちょくっていこう。
『で、もう一度問うぞ。お前はヴィンテージの中でどういう立場だったんだ?』
「フン、教えるわけが無いでしょう? あんたなんかに!」
『……そっかぁ、下っ端だもんな。エラそうな事言っておいてそれじゃあ恥ずかしくって言えるわけないよな』
「そんなわけ無いでしょう!! 私はね、リューネ様にも声を掛けてもらったのよ!! 期待されてるのよ!! 断じて下っ端なんかじゃ……」
『……何? リューネだと?』
「っ!!」
とりあえず人名、と言うか悪魔名っぽい名前に食いついてみた。
全く心当たりは無いので現状では全く役に立たない情報だが、それでも情報は情報、失言は失言だ。
『ほぅ、奴がヴィンテージに居るのか。お前のおかげで助かったぞ』
「くぅぅぅっっ……」
『いやぁ有意義な時間だった。今日は眠いからこんなもんにしておくか』
「んなっ!? 待ちなさいよ!」
『お? もっと喋ってくれるのか? それなら大歓迎だ』
「違うわよ!! そうじゃなくて、その……」
『あ~、はいはい。お話ならまた今度聞いてやるから、な?』
「何であんたなんかに宥められなきゃならないのよ!!」
『ハッハッハッ。じゃあ、お前も切り上げるぞ』
『え? ええ。分かったわ』
ビンに布を被せてからドアへ向かう。
下っ端である以上はそこまで重要な情報は得られなさそうだ。今日無理に進める必要は無いだろう。
伏線をバラ撒くだけで十分な成果だ。明日以降に本命の情報をそれとなく聞き出すとしよう。
『……あ、そうそう。笑わせてくれたお礼に一つだけ教えてやろう』
「何よ!」
『お前が殺そうとした新悪魔、ピンピンしてるぞ』
「…………え?」
『それだけだ。じゃあな~』
「ちょ、ちょっと待って! 一体どういう……」
バタン!
勢いよく扉を閉め、マントと仮面を脱いだ。
「……ま、こんなもんだな」
「か、桂木? 最後の一言って……」
「真っ赤な嘘だが、奴にそれを確認する術は無い。
任務に失敗した上で捕まってると思い込んでくれれば後の尋問で楽になるだろう」
「……えげつないわね」
「……さて、お前は今後どう動くつもりだ?
お前にも地区長としての仕事があるだろうから無理にエルシィを助けるのを手伝えとは言わないが」
「バカ言わないで。仕事よりもエルシィの方が大事に決まってるでしょう?」
「……おい、お前の地区で今回みたいなデカい駆け魂が出たらどうする気だ? 前みたいに取り逃して大騒ぎするのは勘弁だぞ?」
「ああ、それは大丈夫よ。あと少しで出そうな駆け魂は今は居ないから。あの時みたいな事にはならないわ」
「そういう事なら存分にこき使わせてもらうか。
それじゃ、今日はうちに泊まっていけ」
「…………は?」
「ん? 聞こえなかったか? 今日はうちに……」
「いや、聞こえてたわよ!? そうじゃなくて、どうして私が泊っていかなきゃならないのよ!!」
「だって、いちいち往復するの面倒だろ?」
「そういう問題じゃないでしょうが!? だいたい、アンタの親には何て説明するのよ!!」
「ああ、それだったらさっき……」
…………
プルルル ガチャ
「はいもしもし~」
『オォウ、アナタ、マリ・カツラギ=サンデスカ?』
「え? はい、そうですけど……」
『オォォウ、トテモ、ザンネンナ、オシラセガ、アリマース。
オタクノ、ダンナサン、キトクデース』
「な、何ですって!? け、桂馬! ちょっと南米行ってくる!!」
…………
「……って感じで送り出したから安心しろ」
「い、いつの間に……と言うかヒドい方法ね」
「腹から刃物を生やしたエルシィを見られるわけにはいかんからな。
何だかんだ言ってうちの両親は仲良いから、この方法が一番手っ取り早かった。
……一時期は危ぶまれてたが」
「?」
「……いや、何でもない。
そういう事だからうちの母さんのベッドを使うといい」
「い、いやでも泊まる準備なんてしてないし……」
「着替えはエルシィのを使えば良い。あるいは中川から借りても良いし母さんの服を使っても構わんぞ」
「いや、でも……」
「おい貴様、本気でやる気があるのか? 協力する気が無いなら帰ってくれて構わんぞ?」
「んなっ!? そんな言い方は無いでしょう!!」
「…………はぁ、一体何が気に入らないんだ。お前の台詞は『泊りたくない』が前提にあって理由を後からこじつけてるようにしか聞こえんぞ」
「そ、それは……えっと……
……わ、分かったわよ! 泊ればいいんでしょ泊れば!!」
「そうしてくれ。
ああ、そうだ。風呂でも入ってくるといい。今日は一日中働いて疲れただろ?」
「へ、変な事しないでしょうね?」
「? 何の事だ?」
「っっっっ~、もういいわ! 行ってくる!!」
「ああ、行ってらっしゃい」
あいつ、何を怒ってるんだ?
まあいいか。これで、ようやく今日やらなきゃならん行動が全部終わった。
後は……
こんだけ手間暇かけて尋問を始めたのに単にフィなんとかさんをおちょくっただけという。
初っ端から本命の質問をぶつけたら警戒されるから仕方ないね♪
ハクアが泊りたくないとゴネるシーンを執筆していた時、桂馬が怒って、それに対してハクアが怒って帰ってしまうという流れになりかけましたが桂馬が上手く説き伏せてくれました。
まぁ、ハクア居なくてもどうとでもなるんですけどね。かのんと羽衣さんが居るので。