放課後、僕とかのんは生物部の部室を訪れていた。
ハクア? あいつは麻美の方の護衛に付いてもらっている。
女神を出しっぱなしの状態でそこそこの距離を突っ走ったようだからな。多分大丈夫だとは思うが万が一の可能性を考えてしばらく付けておく。
今日の夜までに襲撃の類が無ければ大丈夫だったとしておこう。
生物部の部室をノックすると中から『誰じゃ?』という声が聞こえた。
「僕だ。入っても大丈夫か?」
『……ああ、桂木か。入れ』
許可が下りたので部室の中へと入り、素早くドアを締めた。
「む、中川じゃったな。お主も居ったのか」
「はい。入っても宜しかったでしょうか?」
「構わぬ。適当に座ってくれ」
部屋の中は相変わらずゴチャゴチャしているので座るスペースすら無いんだが……何とか比較的マシな所を探して腰かける。
「それで、何の用か……という事は訊くまでも無さそうじゃな。エルシィの件じゃろう?」
「ああ。今の状況は把握しているのか?」
「旧地獄の暗殺術を受けた事も、一命を取り留めておる事も把握しておる」
「念のため訊いておくが……お前にも解呪は不可能なのか?」
「無理じゃ。少し見てきたが、アレを真っ当な方法で解く事は悪魔には不可能じゃな」
「見てきたって、いつの間に……」
「お主らが登校した直後じゃ。勝手に上がらせてもらったぞ」
「そんな妙な事せずとも僕達が居る時間に普通に来てくれりゃあ良かったのに」
「いつ、どこで情報が漏れるか分からぬ。私の存在を知る者は少ないに越した事は無い」
「……そういう事なら、了解した」
リミュエルはハクアから情報が漏れる事を警戒しているのか?
と言うより、僕とかのん以外は信用していないという感じか。
「ところで、さっき『真っ当な方法で解く事は不可能』って言ってたな。
真っ当じゃない方法ならいけるのか?」
「結論から言うと可能じゃ。但し、解呪者の寿命や命を代償にする必要がある。
そもそも、あの呪いは使用者の寿命を数百年単位で捧げておるからのう」
「そんな物騒な代償があったのか。あの呪い」
「悪魔で言う数百年じゃから……人間の感覚換算だと数十年といった所かのぅ」
それでも十分強烈だがな。
でも、これで多少は安心できそうだな。玉砕覚悟で特攻してくる狂信者でもなければ扱えないという事ならそう何度も使われる事は無さそうだ。
「新悪魔による解呪は最終手段か。
まあいい。次の質問だ。お前はエルシィが女神だという事は知っていたのか」
「当然じゃ。そうでなかったら私が名前を覚えているわけが無かろう」
「それ、エルシィが聞いたら泣くぞ……
それじゃ、他の女神の居所は知っているか?」
「残念ながら私が知っているのはエルシィだけじゃ。ドクロウは知っておるようじゃが……教えてはくれぬじゃろう」
「何故だ? 僕達に教える事にデメリットは無さそうだが……」
「そこまでは分からぬ。じゃが、きっと何か意図があるのじゃろう」
「……いいだろう。教えてもらえないのなら自力で突き止めるだけだ」
そもそも女神候補はかなり絞られている。どうしても訊き出さなければならないというわけではない。
「じゃあこんなもんで……あ、そうだ。『リューネ』って知ってるか?」
「……どこでその名を聞いたのじゃ?」
「うちでとっ捕まえてるヴィンテージの下っ端が漏らした名前だ。
『私はリューネ様にも認められてるどうたらこうたら』みたいな事を言っていた」
「……そうか、奴は正統悪魔社に居ったのか」
「知り合いか?」
「顔を合わせた事は無いが、名前だけなら良く知っておる。
奴は裏舞台では有名人じゃからな」
「なんとまぁ、随分と強キャラ感溢れる設定だな。
居場所くらいあいつから引き出せると良いんだが……」
「あんな下っ端に自分の居場所を教える幹部は居らんじゃろう。吐いたとしても偽情報を掴まされるのが関の山じゃ」
「その偽情報の方向性から本当の居場所が分かるっていうケースもあるが……流石に望み薄か」
もしそういう本当に危ない奴と道端で出くわしたら……全力で
流石のかのんでもそんな有名人の撃退は不可能……なハズだ。
……いや、ハクアやディアナも一緒なら何とかなるか? いやいや、余計なリスクを冒す必要は無い。
「それじゃ、今日はもう上がらせてもらう。邪魔したな」
「うむ。応援くらいはしてやる。せいぜい頑張るのじゃな」
そんな応援なのか良く分からない声を背に部室を去る。
女神候補の絞り込みの再開だ。
残りの候補は歩美・栞・美生。
歩美は普段教室で顔を合わせるせいで逆に分かり辛いが……普段関わりの無い残り2名は分かりやすい反応を示してくれるだろう。
あの下っ端のフィなんとかさんが不完全とはいえ復活した女神を瀕死に追い込む呪いを使っているという事はヴィンテージ幹部は勿論、大体の構成員が使えるはず。
そんな事になったらどう足掻いても無理ゲーになるので代償として『寿命』を考えてみました。
フィなんとかさんは洗脳されてたっぽいのでそんな感じで使い潰されようとしていたのではないかなと。ドクロウやリミュエルすらも解呪できないっていう理由付けにもなりますし。
まぁ、これでも割と軽いような気もしますが……下っ端が独断で使えるほどありふれていて、なおかつ代償として相応しい貴重さを持つものをコレ以外に思いつかなかったのでこんなもんにしておきます。
実はフィオーレさんは割と幹部に近い立ち位置だったとするなら『ヴィンテージが数ヶ月か数年かけて集めた魔力を使い潰す大魔術!』みたいにする事もできますが、洗脳されてたような奴がそんな立場だったとは思えませんし、そして何より幹部なフィオーレなんてフィなんとかさんじゃない! と断念しました(笑)
……え? アニメ版ではリューネさんが使ってた? ナ、ナンノコトカナー。