もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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下校イベント終了まで書けたので投下します。




女神編 ~evolution~
12 放置の理由


  ……女神攻略2日目 昼休み……

 

 歩美は、ほぼ間違いなく女神が居る位置だ。

 僕との関係性という意味でも、現状で女神数が飽和しているという意味でも、女神が居る確立は極めて高い。

 それに加えてもう一つ、決定的な理由がある。

 それは『ドクロウ室長の指示でエルシィが最初に持ってきた攻略対象だから』だ。

 僕と確実に出会う位置だ。ドクロウ室長が仕掛け人なら確実に女神を入れるだろう。

 

 さて、そんな歩美の攻略だが、最初にどういったイベントを仕掛けるかは結構迷った。

 歩美を攻略してから既に4ヶ月近く経過している。そんな相手に今更近付いて口説くという行動の理由付けをどうするべきかとな。

 で、結局どうするかと言うと……丁度来たようだ。実際にお見せしよう。

 

「こんな所に呼び出して、今更何の用?」

 

 歩美が不機嫌そうに訊ねてくる。

 歩美には事前にエルシィ(かのん)経由で手紙を出しておいた。

 内容としては『4ヶ月ほど前、あの大会の前日にあった事について話したい事がある』という直球なものだ。

 そんな手紙でわざわざこの場所(屋上)までやってきたという事は記憶がある証拠……にはならないな。部長からの謎の手紙を断れなかったという可能性もある。

 まぁ、『今更』って言ってるから記憶はあるっぽいな。

 

 さて、僕がやるべき事、それは……謝罪だ。

 

「その……すまなかった!」

「……は?」

「実に奇妙と言うか、信じられないような話なんだけど……僕はあの日の事をつい最近まで忘れてたんだ!」

「はあっっっ!?」

 

 こんな筋書きを用意してみた。

 普通に考えたらキスまでした相手の事を忘れるなど有り得ないのだが……歩美にはそんな有り得ない経験に凄く心当たりがあるだろう。信じ込ませる事は、可能だ。

 

「……そうだよな。こんなバカな話、信じてはくれないよな。

 ごめん。こんな話に時間を取らせちゃって」

「い、いやいやいや、し、信じないとは言ってないわよ?

 で、でも……えぇぇ……?」

 

 具体的な事は何一つ言っていないのに会話が成立している。

 記憶はちゃんとあるようだな。

 

「ハハッ、無理はしなくていいよ。

 あれだけの事があったのに忘れるなんて、そんな薄情な人間は僕くらいしか居ないだろうからさ」

「そ、そそそうよね! もももちろん忘れてなんて無かったわよ?」

「うん? どうしたの? そんなに慌てて」

「な、何でもないわよ!!」

「……まあいいや。

 今更だけどさ。その……何て言えばいいのか……その……」

「な、何よ。サッサと言いなさいよ!」

「その……僕は……君の事が……」

 

 僕が台詞を言い切る直前に、屋上のドアが勢いよく開いた。

 

「もー、神に~さまったら探しましたよ! 今日はオムそばパンを奢ってくれるって約束だったじゃないですか。

 さぁ急ぎましょ~!」

「ちょ、待てエルシィ! 今大事な所!!」

「そうやって言い訳するのはよくありませんよ神様!

 あれ? 歩美さんも居たんですね。どうしたんですかこんな所で」

「え? ええっと……ちょ、ちょっと散歩にね」

「こんな所に散歩ですか……?」

「そ、そうよ。散歩よ!」

「そうですか~。それじゃあ失礼しますね~」

「待てエルシィ! この、放せぇぇぇぇぇ…………」

 

 

 こうして、エルシィに引っ張られて僕は屋上からフェードアウトした。

 計画通りに。

 

 

「お疲れさま桂馬くん。迫真の演技だったね」

「そういうお前のエルシィの演技も凄まじいけどな。これで声と外見も一緒だったら見抜ける自信が無いぞ」

「エルシィさんの場合は演じやすいっていうのもあるけどね。

 それはさておき、これで歩美さんと一緒に下校する下準備が整ったね」

「ああ。その通りだ。美生も大丈夫だから、あとはアポロだな」

「そっちも大丈夫だよ。さっき麻美さんと話しておいたから」

 

 

 

 

  ……数分前……

 

「麻美さーん!」

「え、えっと……エリーさん。今日もお昼は集まるの?」

「いえ、お昼は大丈夫です!

 ただ、放課後の予定は空けておいてください!」

「……普通の口調でも大丈夫だよ? と言うか普通の口調でお願いします。何か混乱するから……」

「え、そう? 分かった」

「これはこれで違和感が……さっきよりはマシかなぁ。

 それで、放課後に何かするの?」

「うん! アポロさんと桂馬くんを一緒に下校させて仲良くさせる作戦だよ~」

『あやつ、まだ諦めておらんかったのか!?』

「勿論だよ。だって神様だよ?」

『あやつは人間じゃろうに……当然却下じゃ! のぅ、麻美よ』

「……放課後の予定は空けておくね」

『ちょっ!?』

「……アポロもたまには、からかわれる方になってみるといいよ」

『根に持っておったのか!? す、済まんかった。この通り謝るから……麻美ぃぃぃ!!!』

 

 

  ………………

 

 

 

「……って感じで」

「……あいつ、神を名乗ってる割には僕よりも人間らしい気がするんだが……」

「……気のせいじゃないかな」

 

 まぁ、超然としてる神っぽい奴よりもポンコツな女神の方が攻略しやすいからむしろ有難いけどな。

 しっかし、麻美も女神には振り回されてるんだなぁ。この件が終わっても麻美とは普通に仲良くやれそうな気がするよ。

 

「ひとまず、放課後まで待つか」

「その前に麻美さんに大体の時間を連絡してあげて。部活との兼ね合いとかもあるみたいだし」

「分かった。

 予定としてはまずは美生を店まで送って、歩美は……部活次第か。確か、舞校祭の関係で陸上はしばらく休んでるんだっけか?」

「軽音部としてライブに出るらしいからね。今はそっちの方に専念してるみたい。

 ああ、そう言えば昨日は怒られちゃったよ。こんな時にサボるなーって」

「すっかり忘れてたな……まあいい。

 お前なら終了時刻を多少はいじれるよな? アポロとの下校が終わるまで頑張って長引かせてくれ。

 部活に関係ない話で引き止めても構わんしな」

「分かった。そっちは任せたよ」

「ああ、任せろ」

 

 そんな感じで、美生、アポロ、歩美の順にこなしていく事になった。

 時間のやりくりが少々厄介だが、ハクアに頼めば移動は楽ちんだ。どうとでもなるだろう。







 最初は歩美に女神が居ない展開(今除外されてる他の誰かに女神が居るパターン)も検討していましたが、本話冒頭で語った理由によりまず間違いなく居ると判断して没になりました。
 一応、居ても大丈夫なように描写していたつもりですが……もうちょい前からちゃんとした伏線を張っとけば良かったです。

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