もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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13 ツンデレ

  ……放課後……

 

 美生は毎日可能な限り早く学校を出てバイトに向かうらしい。少しでもお金を稼ぐ為だろうな。

 その美生よりも先に校門に辿り着かなければ……イベントは失敗する。

 なので……全力疾走だ!

 

 

 

 

 

 

「あいつ、あんなに急いで飛び出して、どうしたんだろ」

 

 ダッシュで飛び出した桂馬くんを見送っていたらちひろさんがそんな事をボソリと呟いた。

 

「さ~。神様がおかしいのはいつもの事なので、気にしてても仕方ないでしょう」

「それもそうだな~。よしエリー今日こそ特訓だ!」

「お~!」

 

 あくまでも大まかな予定だけど、下校イベントは1人1時間を予定しているらしい。

 つまり、歩美さんを2時間ほど足止めしておけば大丈夫だ。

 

「歩美さ~ん。行きましょ~!」

「あ、うん……

 ……エリー、あのさ……」

「どうかなさいましたか?」

「……いや、ゴメン。やっぱり何でもない」

 

 桂馬くんの事で何か聞きたかったのかな? お昼に私が会話をぶった切ってからまだ話せてないもんね。

 

「神様の事だったらきっと大丈夫ですよ。色々とおかしな所もありますけど、理屈の合わない事はしませんから」

「え? い、いや、べ、別に桂木の事を気にしてたわけじゃないわよ? ただ、何というかその……」

 

「お~い。早く移動するぞ~! 結を待たせるな~」

 

「あ、今行きまーす!

 歩美さん、行きましょ~!」

「そ、そうね。そうしましょう」

 

 

 女神の攻略で私に直接できる事なんて殆ど無いから。

 頼んだよ。桂馬くん。

 

 

 

 

 

  で!

 

 

 

 

 

「ゼェ、ハァ……や、やあ。君と一緒に帰ろうと思って、ま、待ってたんだ」

「…………そんな台詞を吐くヒマがあったら先に息を整えなさい。この息切れ庶民」

 

 何とか美生よりも先に校門に辿り着いたわけだが、息を整える間もなく美生がやってきたので用意しておいた台詞をひねり出した所だ。

 くそっ、ゲームだったらこんな風に息切れするなんて事はまず無いのに。現実(リアル)はクソゲーだ!

 

「それに、私はこれから帰るんじゃなくてバイト先に向かうの。

 帰りたかったら1人で帰りなさい」

「そ、それじゃあ、店まで送るよ」

「結構よ。毎日1人で歩いてる道だもの。送られるまでもないわ」

 

 最初の台詞が息切れしていたせいか思ったより反応が悪い……ように見えた。

 だが、案ずることは無かった。美生はツンデレだ。

 

「ただまぁ……勝手に付いてくるなら好きにしなさい。そこにまで文句を言う気は無いわ」

「……そうか。ありがとな、美生」

「か、勘違いするんじゃないわよ! あんたにはその……借りがあるから。仕方なく、仕方なくよ!」

「そうか……ありがとな」

「だからぁ!! って言うかあんた分かってて言ってるでしょ!! 勝手に付いてくるだけでお礼なんて言ってるんじゃないわよ!!」

「ハハハ、ほら、バイトがあるんだろう? 行こう」

「むぐぐぐぐ……相っ変わらず食えない奴ね……はぁ、行くわよ!」

 

 僕が勝手に付いていくだけ……なんてツッコミを入れても無限ループになるだけだな。

 大人しく付いていくとしよう。

 

 

 

 

 下校イベントにおいて、と言うより大体のイベントにおいては会話の内容よりも会話をする事自体が重要だ。

 勿論、避けなければならない話題は存在するが……心に地雷(スキマ)を抱えている相手ならまだしも、解消済みの美生が相手ならそこまで気を付ける必要は無いだろう。

 

「バイトの方は順調かい?」

「ええ。まあね。最初の方は色々手間取ったけど、うまい事やれてるわ」

「そうかい。それは良かったよ」

 

 あの美生がバイトをしていると聞いた時は大丈夫なのかと思ったものだが……少なくとも本人の主観では大丈夫なようだ。

 まぁ、数週間やっててクビになってないって事は大丈夫なんだろう。多分。

 

「生活が苦しいから、私も頑張らないといけないのよ。

 今はただのバイトしかできないけど、いつか絶対にパパの会社を再興してやるんだから!」

「ほぅ、大きく出たな。なかなかに大それた目標だ」

「何よ。どうせ無理だとでも言うつもり?」

「まさか。極めて困難である事は否定しないが、不可能だと言うつもりは毛頭無い。

 挑み続ける限り、いつか必ず道は開ける。

 そして、君の信念が折れない限りは、きっと挑み続けるんだろう」

「ややこしい言い回しをするわね……それって励ましてるの?」

「まあそうなるか。

 僕にできる事であれば遠慮なく頼ってくれ。

 とは言っても、僕にできる事はせいぜい相談相手になる事くらいだが」

「あんたがそういう事言うとその『相談』だけで何でも解決しそうね……」

「……それは、一応高く評価されていると受け取っていいのか?」

「……そうね。あんたのおかげで結と仲直りもできたから。

 そういう交渉事に凄く強いのは理解してるわ」

「それは光栄だな。

 ……おや? もう店に着いてしまったか」

 

 話していたらいつの間にか店の前まで着いていた。

 仕方がない事とはいえ近いな。少々時間が足りなかった気もするが、今回の下校イベントは及第点と言った所か。好感度は3ほど上がったな。

 

「……それじゃ、またね」

「ああ。

 あ、そうだ。愛してるぞ美生」

「っっっっ!? と、ととと突然何言ってるのよ!!」

「言ってみたかっただけだ」

「ば、バカな事言ってるんじゃないわよ!!

 大体ね、今は忙しいのよ!! 今はあんたなんかと付き合ってる暇は無いわよ!!!」

「それもそうだな。

 ただ、忘れないでくれ。僕は君の味方だって事を」

「あーもう!! サッサと自分の家に帰りなさい!! このスットコ庶民!!!」

 

 さっきのリザルトは訂正しよう。好感度+6って所だな。

 そんな感じで美生に追い払われた僕はすぐ近くの角を曲がって店から見えない位置まで移動した。

 

「ふぅ、ハクア~、居るか~?」

「ええ。居るわよ。よくもあんな台詞を真顔で言えるわね」

「まぁ、その辺は慣れだな。あと、キャラを演じているっていうのもある。

 美生にとっての桂木桂馬はクールで掴み所のないキャラだからな」

「……よくやるわね。ホント」

「次はアポロだ。いったん学校に戻るぞ。

 ハクア、頼む」

「はいはいっと。悪魔使いが荒いわねぇ」

 

 働いてるのは主に羽衣さんなんじゃないかという事は黙っておこう。

 とりあえず、運ばれている間に麻美に連絡するか。


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