学校に戻るとかのんの手でアポロがぐるぐる巻きにされていた。
「放せー! 放すのじゃー!!」
「一体何があったのかは……聞くまでも無さそうだな」
「あ、桂馬くんお帰り。
アポロさんが逃げ出そうとしてたんで追いかけて捕まえておいたよ~」
『ごめん桂馬君。頑張って抵抗はしたんだけど……』
「女神が本気で抵抗したらそりゃそうなるか」
むしろ羽衣さんの力があるとはいえ拘束できてるかのんの方が異常だ。
「それじゃ、私は戻るね。軽音部の方をちょっと抜け出してるから」
「あれ? そう言えばお前、どうやってこいつが逃げ出そうとしてるのを見つけたんだ?」
「どうしても抵抗できなかったら呼んでって麻美さんに言っておいたから」
メールの文面を予め書いておいて、緊急時に送信ボタンを押すくらいならなんとかなったのか。
何はともあれ、よくやってくれた。
「じゃ、アポロ。一緒に帰るぞ」
「嫌じゃ! どうして妾がお主の思惑に付き合ってやらねばならぬのじゃ!!」
どうしてこう嫌がるかねぇ。
エルシィ助ける為に麻美と付き合えって言ったのはお前だろうに。
その辺を突いて理詰めで説得する事もできるが……これから下校イベントやろうって時にそんな悪印象を与える事はしたくない。
好きと嫌いは変換可能ではあるが、それは主に感情面に使われる話だ。理詰めで感情を押し殺させた後に簡単に変換できるものではない。
そういうわけだから、別の方法で行こう。
「つまり、お前は自信が無いわけか」
「なんじゃと?」
「だってそうだろ? 僕と恋愛関係になるのが嫌だって事は、僕を恐れている事に他ならない」
「どうしてそうなるのじゃ!!」
「お前が人間には恋なんてしないと言うなら、サッサと僕と帰る事だ。僕が横で何か言っても聞き流せばいいだろ?
自信が無いっていうわけじゃないなら一緒に帰ってくれないか? 時間の無駄だ」
「むぐぐぐぐ……分かった。一緒に帰ってやろう。
ただ、妾がお主を好きになるなどあり得んからな!!」
雑な挑発だったが、うまい事行ったようだ。
さて、帰るとするか。
「そう言えば、麻美っていつも下校時は誰かと一緒に帰ったりしないのか?」
「…………」
「おーいアポロ。お前に訊いてるんだが?」
「…………」
「……この道ってどっちだっけ?」
「…………」無言で指さす
何か言えよ!!
いやまぁ、聞き流せと言ったのは僕なんだが……
つい先ほど『下校イベントに会話の内容はあまり関係ない』とは言ったが、そもそも会話しないというのは流石にアウトだ。
少々強引にでも『会話』に持ち込まねば。
「……アポロ、愛してる」
「っ! …………」
「お前の明るい性格が好きだ。
その輝くような笑顔が好きだ。
そしてその……」
「分かった! 無視した妾が悪かったから! その口を閉じるのじゃ!!」
「ん? 何の事だ? 僕は思った事をふと口にしたくなっただけだが」
「嘘じゃよな!? 色んな意味で嘘じゃよな!?
内容も動機も嘘じゃよな!?」
「人聞きの悪い事を言うなよ。
まぁ、確かに嘘だが」
「やっぱり嘘ではないか!!!」
良い感じだ。ようやく会話になった。
ところで、攻略においてしばしば『下げてから上げる』という言葉が使われる。
ギャップ萌えもこれの一種だな。
人というものは単純な想いの強さよりもその落差の方が印象に残るものだ。
「まあ聞け。さっき言ったのは完全に嘘というわけでもない。
それに……僕が遭遇した女神の中ではお前と居るのが一番安心できる」
「……どうせまた口先だけのでまかせじゃろう?」
「いや、これは紛れもない本心だ。
例えばミネルヴァ……エルシィは色々とヒドい。今倒れてる奴の事をあんまり悪く言いたくは無いが……それでもヒド過ぎる。
決して悪意があるわけじゃないんだが、やる気が空回りしてるせいで家を1軒ぶっ壊したり台所を爆発させたり……
数か月の付き合いで何とか未然に防げるようにはなったが、防げない場合も多い。可能なら地獄に送り返したいよ。いや、天界か?」
「うむむむ……昔はそのような奴では無かったはずなのじゃが……」
「300年で性格が変わったか、もしくは記憶の封印でもされてるのかもな。
で、ディアナの方だが……事あるごとに僕と天理をくっつけたがるし、適当にあしらおうとすると本人が出てきて物理的手段に出ようとするからな。
暴力系ヒロインが許されるのは2D世界だけだって話だよ」
「何と言うか……妹がすまぬ」
「謝る事は無いさ。向うの言い分も理解はできるからな。
納得するかは別問題だが」
そう言えば、エルシィが刺された時に仕方なかったとはいえかのんと同居している事を明かしてしまったな。
ディアナが突撃してこないという事は、今が緊急事態だから自重しているのか、それとも事情を知っていた天理が上手く抑えてくれているのか……
……後で爆弾処理する事になるんだろうなぁ。
「そいつらに比べてお前は無理に麻美をくっつけようとはしないし、トラブルを起こすような事もせず、ちょくちょく助言をしてくれる。
他の2名がヒド過ぎるという面もあるが……やっぱりお前が一番だな」
「…………」
「それに…………あ、もう家か。じゃあな」
元々このタイミングで切るつもりだったが、都合よく麻美の家に辿り着いたのでそれを口実に会話を打ち切った。
「そこまで言っておいてそれは無かろう!! 今! 言うのじゃ!!」
「じゃ、また明日な」
「待てぃ! 桂木ぃぃぃ!!!」
そんなアポロの叫びは無視して適当な角を曲がる。
急いでハクアを呼んで離脱を試みるが、それほど急ぐ必要はすぐに無くなった。
「あ、おねーちゃんお帰り~」
「むぅっ、い、郁美か。ただいまなのじゃ」
アポロの叫び(麻美の声)を聞きつけた妹が家から出てきたようだ。
「あ、また例のキャラ作り? 上手いね~。
さっき何か叫んでたけど、桂木君が居たの?」
「そ、そうじゃよ」
「ひょっとして、下校デートってやつ? うわ~、うらやましいなぁ~。
最近全然桂木君の話を聞かなかったから妹として心配してたんだよ」
「で、でぇと!? い、いや、これはただ単に一緒に帰っただけで……」
「それを普通はデートって言うんだよ。
この様子だと他にも色々やってそうだね。キリキリ吐いてもらうよお姉ちゃん!」
「いや、あの、その……麻美! 助けてほしいのじゃ!!」
「あっはっはっ、何言ってるの麻美お姉ちゃん」
……そんな感じで家の中にまで引っ張られていった。
吉野郁美、麻美の双子の妹だ。久しぶりに見たな。
と言うか、郁美の中ではアポロの存在は何者になってるんだ……?
まぁ、問題が出てないならいいか。
「ハクア。帰るぞ」
「はいはいっと。アレって放っておいて大丈夫なんでしょうね?」
「大丈夫だろう。万が一女神の事を漏らしても郁美なら多分大丈夫だろうし」
次は歩美だ。昼の会話の続きをこなしていこう。
うちのアポロさんが半ばオリキャラと化してる気がする。
あと、郁美さんも久しぶりの再登場。彼女の中でアポロさんがどうなってるのかは謎。
今回の話を書いててふと思い出したけど、アポロ編6話の『失敗?』で桂馬が「どっかの女神《供》よりは数倍マシ」とわざわざ複数形で言っていたのに気づいた人はどれだけ居たのだろうか?