もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

286 / 343
18 2日目の終わり

 ちひろの案内であるいてしばらくして、件のたい焼き屋に辿り着いた。

 大型のショッピングモールであるイナズマートの一角にあるその店はあまり繁盛していないのか客は僕達以外には居なかった。

 特に並んだりする必要も無く、注文したらすぐに出てきた。

 

「桂木~。小倉で良かったよね?」

「ああ」

「あ、熱いから紙もう一枚巻いとくね」

「ん? ああ。ありがとう」

 

 京、妙な所で気が利くな。

 曲者揃いの軽音部でも苦労してるんじゃないだろうか?

 

「あ、ちょっとトイレ行ってくる」

「え~? 食べてからにしなよ」

「…………」

 

 ちひろが文句を行ってくるが、無視して2階へと向かう。

 できれば歩美も連れ出したかったが……トイレに行くという名目で連れ出すのは不可能だし、別の名目で連れ出そうとしても残り2人も一緒に来るだろう。あの2人を確実に除外できる名目は流石に考えつかなかった。

 ここまでイベントを進めたなら歩美はきっと1人で追って来るだろう。僕はそれを待つだけでいい。

 

 

 2階のトイレまで行き、ついでにトイレを済ませる。

 出てくる所で歩美が来るのが理想だが、果たして……

 

「……桂木」

 

 ……来たようだ。

 

「あんた、何を考えてるわけ?」

「……正直な所、僕にもよく分からん」

「なにそれ。意味分かんない」

「……ごめん」

「あーもう、あんたがそんなしおらしいと調子狂うわね。

 1つ質問。さっきあんたが言ってた好きな人っていうのは……その……わ、私の事なの?」

「……し、質問はさっき締め切った」

「いいから答えなさい!」

「わ、分かった。分かったよ。

 答えはYESだ」

 

 僕がそう答えると歩美は顔を真っ赤に染めた。

 その答えを想定していなかった……わけではないんだろうが、それでも刺激が強すぎたようだ。

 

「っっ~~~~、い、言っとくけど、あんたの言ってた事を信じた訳じゃないんだからね!!

 記憶が無かったなんて、そんな都合の良い言い訳をね!!」

「そりゃそうだ。僕がそっちの立場だったとしても信じられないだろう」

「で、でも……その……と、友達としてなら、付き合ってあげなくもないわよ」

「……歩美……」

「あ、歩美って呼ぶな! このバ桂木!!」

 

 大声で話してるせいか肩を上下させて息切れしている。

 アポロ相手だったら茶化すんだが、この展開でそれをやるのは悪手だろうな。見なかったことにしよう。

 

「……今日は帰るよ。こんな僕と話してくれてありがとな。

 それじゃ、また明日」

「……ええ。また明日ね」

 

 予定していた下校イベントとは少々違ったが、当初の目的は達成できただろう。

 ……帰るか。

 

「ハクア……は今は中川の方に行ってるんだったな。

 仕方ない。普通に帰るか」

 

 

 

 

 

 

 家に帰ると玄関にはいつもと比べて靴が一足多く並べられていた。

 うちの学校で指定されている女子用の靴だな。誰の靴だ?

 ……一応メールしてみるか。

 

『今帰った。客が来ているのか?』

 

 返事は10秒程で返ってきた。

 

『ゴメン、連絡遅れた。

 結さんと家に居る。

 女神の力が愛である事まで話したけど、候補のうち1人については話してない』

 

 ……そうか。結には大体の事情を話したのか。

 そうせざるを得なかった何かがあったんだろう。上手いこと味方に引き込めればそれはそれで好都合だしな。

 攻略の事は話してて……美生についてはまだ話してないって所だな。

 

 頭の中でいくつかの対応パターンのイメージを固めてから、居間への扉を開けた。

 

「あ、桂馬くん。お帰り」

「お邪魔させて頂いています」

 

 メールにもあった通り、かのんと結がそこに居た。

 

「ああ、ただいま。

 結は……エルシィの見舞いという事で良いのか?」

「そうなりますね。先ほど様子を見てきましたが……エリーさんは助かるのでしょうか?」

「勿論、助けるさ」

「流石は桂木さんです。心強い言葉ですね。安心しました。

 私にできる事があれば何なりとお申し付け下さい。エリーさんと助けたいと思っているのは私も同じですから」

「……いざとなったら頼らせてもらおう。今は騒ぎ立てずにいてくれるだけで十分に助かる」

「そうですか……では、失礼させて頂きます。何か進展があればお聞かせ下さいね?」

 

 それだけ言い残して結は去った。

 言い方は悪いが、女神の件において結は脇役に過ぎない。静かにフェードアウトしてくれるのは一番助かる対応だな。

 この場に残ったのは、僕とかのん、あとハクアだけだ。

 

「ごめん桂馬くん。結さんには話したよ」

「……お前の正体がバレたのか?」

「何言ってるのよ桂木。ただの人間に錯覚魔法が破られるわけが無いでしょ?」

「ハクアさんの言う通り錯覚魔法自体は破られなかったけど……音楽の実力差のせいでバレたよ。

 と言うか、今までも薄々勘付かれてたけど、舞校祭が近いから流石に看過できないってさ」

「お前ならエルシィのレベルに合わせる事もできたんじゃないのか?」

「……エルシィさんって、ある意味天才だと思うよ」

 

 つまり無理だったのか。下手過ぎて。

 

「そ、そうだ、攻略は上手く行ったの?」

「順調だ。女神が1名ほど行方不明なのを除けばな」

「……しつこいようだけど、私じゃないからね?」

「安心しろ。少なくともお前がそう答える事までは確定情報として捉えているから」

「内容まで確定情報にしないと意味が無いよ……

 う~ん、でも一体どこに居るんだろう?」

 

 最悪1名ほど欠けててもどうにかなる気はするが……やはり揃えておくのがベストだろう。

 昨日かのんも言っていたように、下校イベントはコスパは良いが決定力には欠ける。

 明日からは積極的に仕掛けていくとしよう。

 

「それじゃ、晩ご飯の準備でもしましょうかね。中川さん、調味料の場所とか教えてくれる?」

「……ちょっと失礼な事を訊くけど、ハクアさんってきちんと料理できるの?」

「当たり前でしょ。この私を誰だと思ってるの?」

「……じゃあ、卵焼きの調理法を答えてみて」

「バカにしてるの? 油を引いたフライパンを温めて、その上に卵を落として焼くだけでしょ?」

「……卵の種類と、落とす時の注意点は?」

「えっ? 種類……鶏の卵よね? あと落とす時の注意点って言うと……殻が入らないようにする……とか?」

「……疑ってゴメン、ハクアさん。エルシィさんの料理にロクな思い出が無いからさ……」

「……何て答えたのよ、あの子は」

 

 エルシィだったら鶏の卵を殻ごとぶち込むのか? いや、その程度では済まないか。

 何にせよ、ハクアはまともそうで良かった。







 リニューアルしたはずのたい焼き屋が繁盛してなくて大丈夫かとか突っ込んではいけない。
 実は最初は女子高生らしくクレープ屋に行くつもりだったんですが、それだとただでさえ出番の少ない京さんの見せ場がカットされてしまうので変更したという事情があったり。

京 「あ、このクレープ冷たいね。もう一枚紙を巻いてあげるよ」
桂馬「ドライアイスでも包んでるのか……?」


 とりあえず連続更新はここまでです。
 次回の投稿分でウルカヌス様かマルスさんのどっちかが出てくる……ハズ。
 通常攻略よりは手間は少ないので、そこまで時間はかからないハズですが……最近忙しいので断言はできません。気長にお待ちください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。