もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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『創造』の女神は猛りと共に顕現す
19 登校


  ……女神攻略 3日目……

 

 学校は、イベントの宝庫だ。

 今回の女神候補がどいつもこいつも同級生で、しかも同じクラスな奴が一応3名ほど居る。学校でのイベントを極めて起こしやすい環境だ。

 まぁ、かのんに関しては女神が居ようが居まいがそこは全く関係ないんだけどな。別の名目でずっと一緒に居るんで。

 

 それはさておき……

 

 話を根本から否定するような事を言うが、だからと言って学校でのイベントにこだわるゲーマーは二流以下だ。環境はあくまでも有効に使えるなら活用するだけで、必要な時に必要な量のイベントを発生させるのが一流というものだ。

 だからこそ、今日の僕が行動を起こしたのは学校に行く前の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「行ってきます」

「いってらっしゃい、おねーちゃん!」

 

 妹の郁美に見送られて今日も学校に向かう。

 郁美は違う学校に通ってるからいつも私よりも少し遅く出発しているのだ。

 

 もうすぐ舞校祭だ。茶道部の方も少しずつ忙しくなってきている。

 桂馬君の為にも、エルシィさんの為にも、頑張って時間を作ってはいるけど……そろそろ厳しいかもしれない。

 今日もまた何かやるのかな?

 

『……麻美よ、お主、あの男の事を考えてなかったか?』

「え? うん、まぁ……」

『あやつは一体いつになったら諦めるのかのぅ。

 妾が人間如きに恋するなど有り得んのに』

「でも、昨日は楽しそうにしてたよね。郁美からの追求でも結構ドキドキしてたよね?」

『気のせいじゃ! と言うか、何であの時は助けてくれなかったのじゃ!!』

「う~ん……楽しかったから?」

『どういう意味じゃ……』

 

 何だか手のかかる妹が初恋を前にしてあたふたしているのを見ている気分だ。

 郁美はしっかりしてるし、私なんかよりもずっと社交性が高いからそういうのが一切無いんだよね。

 ……いつかは郁美も恋をするのかな? その時はどんな反応をするんだろう。

 

『ま、まあ、きっとあやつもこれで懲りたじゃろう!

 万が一また来るにしても放課後じゃろう。女神としてどっしり構えておくとしようかのう!』

「……アポロ、そういうのって、『フラグ』って言うらしいよ」

『む? 旗? どういう意味じゃ?』

「何て言えば良いのか、えっと……」

 

 

「やぁ、奇遇だね」

 

 

 本当にフラグだったみたいだ。まさかタイミングを伺っていた……わけではないか。

 

『なっ!? ど、どどどどうしてお主がここに居るのじゃ!?』

「いやぁ、適当に歩いてたらたまたまね。凄い偶然もあったものだね」

『どう考えても嘘じゃろ! どうやったら偶然ここまで来れるのじゃ!

 お主の家と麻美の家は正反対じゃよな!?』

「だから、偶然だよ偶然。ハッハッハッ」

 

 明らかに、嘘だろう。

 昨日は一緒に下校したから、今日は一緒に登校する。そういう事だろうか?

 なら、私は奥に引っ込んでおくとしよう。

 

「む? 麻美? どうしてこんな時に入れ替わるのじゃ?」

『……せっかくだから楽しんだら? デート』

「でぇとでは無いわい!! うぅぅ……妾の味方は居らんのか!!」

「いやいや、どう考えても麻美も僕も味方じゃないか。

 つまり、味方しか居ないじゃないか!!」

「お主とは今一度『味方』という言葉の意味をじっくりと話し合っておく必要がありそうじゃのう……」

「臨むところだ。歩きながらでいいか? 学校に遅刻する」

「良かろう! 徹底的に叩きのめしてやるのじゃ!!」

 

 流れるように登校デートの言質を取った……という事は言わないでおこう。アポロが反発するから。

 

 

 

 

 

 

「……つまりだ。何でもかんでも助けるのが『味方』ではない。

 困難にさしかかった時にはあえて突き放してやる事がその人の為になる事もある。

 その助けるか突き放すかの最適な比率を見極めるのは極めて難しいし、そもそも人間は勿論神にすら判断が付くかも分からんが……思考停止で助ける事が絶対的な善だと思っているような奴は論外だな」

「なるほどのぅ。そういう考え方もあるのじゃな。

 一方的に施しを与えるのでは人は成長せぬのじゃな」

「各地の神話にも通じるものはあるな。どれだけ正確かは知らんが」

「うぅむ、為になる話じゃった」

 

 何か真面目な話をしているうちに学校に付いた。

 これってデートだったのかな……?

 いや、昨日郁美も言っていた。その2人がデートだと思えばデートになるって!

 昨日の郁美みたいに、私も頑張ってみよう。

 

『アポロ。デートは楽しかった?』

「なぬっ!? で、でぇとではないわい! ただ話し合ってただけじゃ!!」

『いや、どう見てもデートだったよ。ねぇ桂馬君』

「僕はそのつもりだったが……そうか、アポロはこの程度では満足しないか。

 では次はもっと凄い事を……」

「す、凄い事? 一体何じゃ……?」

「聞きたいか? 本当に聞きたいのか? 後悔しないか?」

「わ、分かった。でぇとじゃったという事にしておこう!

 じゃから妙な考えは止しておくのじゃ!」

 

 明らかに脅迫だったけど私は何も聞かなかった。

 ……桂馬君は一体何をしようとしたのだろうか?

 謎の脅迫に怯えてるアポロも一応進展してるのかな。どうでもいい相手だったらそもそも怯えたりなんてしなさそうだし。

 

「それじゃ、またな」

「……フン」

 

 ……やっぱり、反抗期の妹にしか見えないなぁ。


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