ふてくされているアポロを置いて教室へと向かう。
仲良く一緒に移動したら歩美とか美生に目撃されて面倒な事になりかねんからな。
一緒に登校の時点でリスクはあるが……それくらいは目を瞑ろう。
「それで? 次はどうする気?」
「……アポロの攻略はまだ時間がかかりそうだ。歩美の攻略も一旦落ち着かせた状態だ。
となると、やはり美生を重点的にやるか」
「……で、具体的に何をするの?」
「そうだな……」
いつもの駆け魂攻略だと『その女子の抱える問題点を解決する』という事がメインとなる。
だからこそ、そこにある問題を解決するだけで済む。いや、『だけ』って言葉で済まされるような手間じゃないが。
しかし、今はその『問題』が存在しない。今までのような心のスキマの解消を目指した攻略ではダメだ。
問題点が無い状況で進むというのはそれはそれで攻略としてはアリだが、どうしても展開が重くなる。
自分から問題を作っていく必要があるだろうな。
あまり大事にし過ぎずに、関係ない他人に迷惑を掛けないように、なおかつ効果的な問題。
「……前にちひろやディアナ相手に見たような展開だが、それだけ安定した手法だと解釈しておくか。
中川、昼休みちょっと手伝ってくれ。ハクアも仕事ができたぞ」
「ちひろさんとディアナさん……? あ、なるほど。りょーかい」
「アンタ達は一体何をやらかす気なのよ……」
左側からはかのんの声が、右側の虚空からはハクアの声が聞こえた。
姿を消しているせいで表情は全く読み取れないが……どこか諦めたような顔をしているのだろう。そんな気がした。
教室へと入る。
歩美が居るかもしれないと少し警戒していたが、まだ教室には来ていないようだった。
そう言えば陸上部の朝練があったか? 舞校祭前のこの時期にもやっているのかは不明だが、もしやっているなら朝の
他の関係者は……ちひろは来ていない。麻美も勿論来ていない。京は……居るな。朝練じゃなかったか。
「おはよう」
「あ、おはよう! 昨日はどうしたの? 突然居なくなっちゃったけど」
「ちょっと用事があってな。
ああ、そうだ。昨日のたい焼きの代金、まだ払ってなかったな。いくらだ?」
「え? 昨日はちひろが奢ってくれてたよ?」
「……そう言えば誘われた時にそんな事言ってたな。本気だったのか」
「桂木はちひろを何だと思ってるの……いい加減な所も結構あるけど、約束はちゃんと守る子だよ」
かつてユータ君を攻略するという約束のようなものをすっぽかされた事があった気がするが……そこはノーカウントにしてやるか。
駆け魂のせいというのも大きいし、そもそも約束と呼べるようなもんでもないし。
「それもそうか。それじゃ、あいつにご馳走様と伝えて……いや、自分で伝えた方が早いな」
「そうしてあげて。きっと喜ぶからさ」
ちひろ……どういうわけか攻略とは関係なしに関わる機会が増えているんだよな。
遭遇時には駆け魂が居なかった事と、昨日の会話からも女神が居ない事はまず間違い無いだろうが、歩美の攻略にも関わってきそうだから程々に気を遣っておこう。
京との話を切り上げて自分の席に座る。
かのんもエルシィの席に着いた。そしてその数秒後に僕のPFPが鳴った。
メールを受信したようだ。相変わらず打つの速いな。
『そう言えば、昨日はちひろさんも一緒に下校したんだよね?
女神はやっぱり居なかった?』
『ああ。僕の恋愛話を完全な部外者として楽しんでいたようだった。
僕に告白した記憶があるならあの反応は無いだろう』
『桂馬くんが気を遣わないように無関心を演じていた可能性は?』
『絶対に無いとは言い切れないが、僕の感覚では違うと感じたよ』
『そっか……ありがと』
かのんはちひろを疑っているのだろうか?
そりゃそうか。かのんに女神が居るかは置いておくとして、少なくとも本人は居ないと思っているようだ。その点は飽和している今でも疑いようは無い。
となると、自身を除外した最有力候補はちひろになる。
しかし……やはりちひろに女神は居ないだろう。それだったらかのんに潜伏している可能性の方がずっと有り得る。
歩美・美生・かのん。
あと、かのんの師匠とか七香とか、居るなら後から教えてくれるだろうという方向に誘導した連中も一応候補か。恐らく居ないが。
……本当に全員居るんだろうな? 女神。
いや、居ないパターンなんて考えても仕方ないか。
居ない事の証明なんて『他の女神を全員見つけ出す』くらいでしか達成できない。
それに、もし関係ない奴を攻略してしまったとしても人間関係が悪化するだけで命の危機があるわけではない。
居る前提で、攻略を進めるだけだ。
早速準備を始めるとするか。美生攻略の為の準備を。
桂馬の提示した女神候補が原作における1・2・3番目のヒロインという謎の一致。
歩美とかのんはまだしも、美生がこの立ち位置になるとは連載開始時は全く想像してませんでしたよ。