いや、目が合ったくらいでその結論に至るのは早計か。
確か今日は茶道部の活動も無かったはずだから、放課後に少し仕掛けてみるか。
「どーしました神様? お弁当食べましょうよ!」
「ああ」
今朝、母さんが持たせてくれた弁当箱を取り出して蓋を開ける。
……何か見慣れないメニューだな。気のせいか?
そもそも弁当を持たせてくれる事がほぼ無いんだがな。
適当に箸でつまんで口に入れる。
「神様、美味しいですか?」
「ん? ん~、まあ、普通に美味しいな」
「ふふっ実はそのお弁当、姫様が作ったんですよ!!」
「何? あいつが?」
「直接協力できないから、せめてものサポートだって言ってましたよ」
「……そうか」
そういう事なら、ありがたく頂いておくか。
って言うかあいつ、料理もできたんだな。
そして放課後。
吉野麻美と接触して情報を得る事を試みる。
そうだな……校門を出てしばらくした辺りで適当にバッタリと遭遇するか。
それよりも近いと人が多すぎるだろう。別に居ちゃいけないわけじゃないが、居ない方がやりやすそうだ。
「そんなテキトーな計画で大丈夫なんですか?」
「フッ、僕は落とし神だぞ? 下校イベントの導入など何千パターンも把握している!」
「はぁ……」
「さ、出発だ。透明化と飛行魔法を使ってターゲットを追おう」
「りょーかいです!」
一人っきりで帰る麻美を数分間ほど尾行する。
周囲の人が減ってきたのを見計らってエルシィに指示を出す。
「……頃合いだな。エルシィ、あそこに降りてくれ」
「了解です!」
エルシィに指示したのは麻美の進行方向にある見通しの悪い交差点。
死角になる所に降りてから姿を現せば下校中の偶然の遭遇になるだろう。
ゆるやかに着地した後、透明化の膜から抜け出して自然体で歩く。
適当に姿を現して反応があるなら良い。無いなら何らかのアクションを……
……起こそうとするまえに向こうから声をかけてくれた。
「え? あれ? 桂木君?」
「ん? ああ。君は……吉野だったか」
用意しておいた適当な返事を口にする。
「うん。桂木君もこっちの方向だっけ?」
「こっちの……? ああいや、家なら別の方向だよ。
ただ、今日はこっちに用事があってね」
「そうなんだ」
う~ん……何か妙だな。
『僕の事が好きである』という情報が仮に正しいならもうちょい何か別の反応があって然るべき……
……いや、そもそも何の感情も読み取れない。
強いて言うのであれば、ひたすらに『普通』の反応。
まるで推敲した文章を読み上げているかのようだ。
やはり、もっと調べる必要がありそうだな。
「良かったら、途中まで一緒に行って良いかい?」
僕がそう言うと彼女は少しだけ考えてから、
「いいよ」
と返事した。
その時、少し笑っていたような気もしたが、やはり感情を読み取る事はできなかった。
下校中の会話を全て書いていたらキリがないのでサクッと結論だけ言わせてもらおう。
麻美からは何の情報も得る事ができなかった。
「…………エルシィ、居るか?」
「はいっ! どうなさいましたか?」
「……帰るぞ」
「あ、はい」
僕が適当に話題を振ったり、何か質問したり、時には煽ったりしても普通の反応しか返ってこない。
設定が雑なAI系女子と話してるような気分だった。
……まさかあいつロボットじゃないだろうな? いや、流石にそれは無いとは思うが。