桂馬くんと美生さん(&女神さま)が向き合う。
私への注目は今は外れているようだ。今のうちに巻き込まれた一般人のフォローに入っておこう。
「つき……九条さん、大丈夫?」
「え、ええ。大丈夫だけど……あれは一体何なの?」
「う~ん……あえて一言で言うなら、魔法かな」
「……非科学的なのですね」
月夜さんから現実的なコメントを頂いた。
人形と会話するような人であっても本物の魔法が突然現れたらこうなるようだ。
そう言えば、月夜さん自身が小さくなった時も最初は取り乱してたって話を桂馬くんから聞いた気がする。お伽話の世界の住人みたいなイメージだったけど、意外と現実に生きてるみたいだ。
「ところで、あなたは一体……?」
「あ~、う~ん、えぇ~っと……と、とりあえず私の名前は西原まろんだよ。
西原でもまろんでも好きなように呼んで」
「……では、西原さん。今一体何が起こっているの?」
「悪いけど、その質問の答えは後にさせてもらうよ。
とても一言じゃ説明できない状態だから」
美生さんに女神が居て、その女神が念動力っぽい力でルナを操ってるなんてとても一言では……あれ? 説明できてる。
いやいや、女神の宿主でも何でもない月夜さんには天界とか女神とかから説明しないといけない。やっぱり説明できないね。
警戒しながら周囲の様子を確認する。
相変わらず向かい合っている桂馬くんと美生さん(&ルナ)
少し離れて私が居て、その後ろに月夜さん。
桂馬くんの選ぶルート次第では女神さまがブチ切れて暴走する可能性も有り得る。
さっきみたいに物が飛んでくる事を警戒して、いつでもスタンロッドを振り抜けるようにしておく。
月夜さんがエルシィさんに次ぐ第二の犠牲者に……って事にはならない……と信じたいけど……
またあんな思いをするのはゴメンだ。絶対に怪我なんてさせないよ。
何も言わずともかのんは月夜のフォローに入ってくれたようだ。
これなら多少の無茶をしてもかのんならどうにかしてくるだろう。正真正銘無視して進めさせてもらおう。
美生をなだめるという選択肢を使わないならその逆の選択肢、煽る方向に進むぞ。
「何を怒っているのかさっぱり分からないが、まぁまずは深呼吸をして落ち着……」
ズドォォン!!
……台詞の最中にベンチが飛んできて僕のす目の前に突き刺さった。
タイルみたいな軽いものだけじゃないんだな。へー……。
『お前、バカにシているノか?
脳味噌をすり潰しテやろうカ?』
この女神、本当に脳味噌をすり潰すくらいはやりそうだな。
命懸けの攻略になるな……いや、今までも命懸けだったが、ここまで分かりやすい命の危険は初めてだ。
だが、こんなチャンスで退くわけにはいかん。この落とし神が
「……そうかい。美生、これが君の答えかい?
僕なんか信用できない。あの世にでも行ってしまえ……と」
「えっ? いや、そこまでは……」
『ソの通りダ! お前のヨうなノータリンはギッタギタにスり潰シてカマボコにしテ三途の川ノ底に沈めてヤル!!』
随分と口汚い女神だな。月夜の人形を操ってるくせに。
しっかし……女神と宿主の意識の違いってのはどこもかしこも結構な問題になってるようだな。
今回の攻略対象はあくまでも女神ではなく美生だ。完全無視というわけにはいかないだろうが、対応は控えめにしておこう。
「美生。もし君が僕の事を信じたいと思っていてくれているなら僕にチャンスをくれないか?」
「チャンス……? 一体何をする気なのよ」
「そうだな……今から君にキスをする」
「…………は?」
「キスこそ、愛の証だ! キスをする事で君への愛を証明してゴフッ!」
台詞を言い切る前に美生に思いっきり助走を付けて蹴り飛ばされた。
おかしいな。こういう物理攻撃は歩美の十八番だと思っていたんだが……
「な、ななな何言ってるのよこの変態!!
そそそんなことするわけないでしょう!!」
『ソの通りダ! 畜生以下ノ単細胞ガ!
次にオかしな事を言っタら地獄の業火デ魂すラも焼キ尽くし、遺灰ハ犬にデも食わせテやロう!!』
美生の好感度は問題ないと思う。強引にキスするくらいなら許してくれそうだ。
だが、その前に女神にすり潰されそうだ。
二重人格キャラや双子キャラくらいならゲームでもちょくちょく出てくるが、それに人外属性まで足して更に殺意をマックスに振り切ったようなキャラを攻略した経験は流石の僕も皆無だ。
……迷っている場合ではない。保身に走っていては信用なんて取れる訳が無い。本当に殺される事は無いと信じて突き進むしか無い!
「そんな脅しでは止まらな……」
「いい加減にするのですね!!」
おかしいな。最近台詞を言い切れない事が多い気がする。進行時の下準備が不足しているのだろうか? 要反省だな。
それはさておき、僕の台詞を遮りながら駆け寄ってきたのは月夜だ。ついさっきまでかのんの後ろに居たはずだが、自分から飛び出していくのはかのんも予想外だったようだ。驚いた表情で片手を上げ、そのまま固まっている。
『何用ダ娘ヨ。今我々は大事ナ話を……』
「黙れ偽物! ルナは……ルナはそんな言葉遣いはしない!!」
『エ? いや、そノ……』
「魔法だか何だか知らないけど、私のルナを返して!!」
月夜はその場にへたり込んでわんわんと泣き叫んでいた。
これは……無理だな。月夜の行動は場の雰囲気をガラリと塗り替えた。このまま進行をするのは不可能だ。
「……美生。それとそこの……そこのあんた。
一旦場所を変えて仕切り直そう。異論は無いな?」
「……そうね。そうしましょうか」
『…………』
女神は無言で人形を月夜の前まで移動させた。
『……すマなかっタ』
そして一言だけ謝ってから、元の物言わぬ人形へと戻った。。
ウルカヌス様が関わると最初はどうやってもバイオレンスな方向になりそうです。
なお、本作では命の危険を感じていますが、実際には脅すだけでそこまでするつもりは無かった模様。
原作では桂馬が身を挺して殺意までは無い事を見抜いていましたが……改めて考えるとスゴい事やってますね。
原作でも桂馬に言葉遣いが美しくないと言われていたウルカヌス様。そんな彼女がルナを強引に奪って依代として使ったら月夜が爆発するんじゃないかな~と。
しかしまぁ、筆者には宿主じゃないヒロインを活躍させる癖でもあるのだろうか?