「一体何だったんだ……?」
アポロと話していたと思ったら突然キスされて、駆け出していった。
そういう重要そうなイベントを唐突に起こされても困るんだがなぁ……
今のでせめてハイロゥくらいは復活しててくれたらありがたいが、どうだろうなぁ。
……まあいい。昼休みのイベントとしては十分こなせた。
放課後は……どいつもこいつも部活があるのか? 少し待つとするか。
……いや、軽音部に堂々と乗り込むとかもアリかもな。決して邪険にはされないだろうし、あのポンコツ女神……女神は全員ポンコツだったか。エルシィのフォローも可能だ。
あるいは、透明化してから歩美の様子を伺うとか。これが一番無難な選択肢になりそうだ。
ハクアが戻ってきてくれれば手分けして動けるから選択肢の幅が増えそうだが……無い物ねだりしてもしょうがないか。
そう言えば、あいつは今頃どうしてるんだろうなぁ……
『増員の成果は確実に上がっており、前年比では230%以上の伸びが……』
報告会というのは基本的にヒマだ。特別に報告するような事がある場合はともかく、そうでない時は上の人の無駄に長い連絡を聞くだけだ。
今の私には報告すべき事が無いわけではないけど……流石にそこは弁えてる。
あの優等生のフィオーレですら
「お~い、ハクア? 大丈夫か?」
「え? シャリィ?」
「何だか暗い顔をしていたぞ?」
「……別に。ただ、連絡を聞くだけっていうのも退屈だなって」
「あまりそういう事を言うな。上の人だってこの退屈な話を頑張って考えてるんだろうから」
「退屈である事は否定しないのね……」
さっきから事前に配布された資料に書かれている事を読み上げているだけだけど、せめて真面目に聞いている風に装っておこう。
顔だけは前に向けて、でも特に集中はせずにぼんやりと辺りを眺める。
「……にしても、人増えたわね。
前の報告会と比べて倍くらいになってるわよね?」
「極東地区の地区長がやたらと増員されてるからな」
「…………」
桂木だったらこういう時、『妙な事が重なるならそれは確実に裏で繋がっている。よく見る展開だ。ゲームで』とか言いそうね。
桂木の仮説では女神はあの地に集められていて、実際に4人見つかってる。
それを探す為の増員なのだとしたら……その命令を発した上層部は信用できない。
とは言っても、この駆け魂隊はアルマゲマキナの終戦のすぐ後から普通に存在していた。脱走した旧悪魔の魂を狩る存在として。
だから駆け魂の……旧悪魔の味方なんて有り得ない。
……なんて言ったら『絶対的な味方だと思ってたら実はラスボスとか、よくある展開じゃないか。ゲームで』って言われそうなのよね。
って、アレ? 何で私は桂木からの反論を的確に予測してるの?
『さて、事前に配った資料にも記載してあるが、諸君らは通常業務に加えて追加の任務をこなしてもらう。
ただ、あくまでも駆け魂隊の主任務は駆け魂の勾留だその点を忘れないように。
その任務とは、『天界人の捜索』だ』
天界人……要するに女神って事よね。
既に4人も見つけましたーなんて事を報告すれば出世できるかもしれないわね。当然しないけど。
しっかし、何で今なのかしら? 旧地獄の封印が維持されていた時期に捜索しないのは分かるけど、その封印が解かれたのは10年も前。
……ここ最近で駆け魂隊の上の方で何かがあったのかしら?
『連絡は以上だ。何か質問はあるか?』
「……はい!」
桂木からは大人しく目立たないようにって言われてるけど、目を付けられないように自然体に振る舞えって事よね。
意識して自然体になるのって結構難しいけど……少なくとも、普段の私ならここで質問はする。だからこれで良いハズ。
「天界人の捜索との事ですが、それはどういった姿をしているのでしょうか?
駆け魂隊に任務が下されるという事はそれらもまた人の心に隠れているのでしょうか?」
『ふむ……残念ながらその質問には答えられぬ。こちらも情報が不足していてな。
今、天界の方にも問い合わせをしている最中だ。
また、駆け魂隊に任務を下したのは唯一の人間界を行き来できる悪魔だからだ。
先ほども言ったように駆け魂隊の主任務とは外れる。あまり気にしすぎないように』
「……分かりました。ありがとうございました」
天界すらも女神の現状を把握できていない可能性は一応あるのかしらね。
って言うか天界は今一体何をしているのかしら。女神を探す気があるなら手伝ってほしいのに。
『他に質問は……無いようだな。
では、これにて報告会を終了する。各自、一層励むように』
気付けば報告会は終わっていた。
結局女神についてずっと考え込んでいただけで終わったわね。
……テキトーにお土産でも買って帰りましょうか。
想像の中の桂馬にすら勝てないという。