もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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04 心のスキマはどこにある?

 僕が家に戻ってから数時間後、中川も帰ってきた。

 

「ただいま桂馬くん。調子はどう?」

「攻略が順調かという意味なら少々難航している」

「あれ? 桂馬くんがそんな事言うなんて珍しいね」

「……かもな」

 

 僕の攻略はギャルゲーの理論に則っている。

 故に、攻略対象の属性の決定がほぼ必須となる。

 それが今回は全く掴めていない。

 ……難航してるって言葉じゃ足りないかもな。

 

「私に手伝える事はある?」

「そうだな……とりあえずは無いな」

「分かった。何かできる事があったらいつでも呼んでね」

「ああ。羽衣の分を除いたらエルシィよりもお前の方が有能そうだしな」

「それは……確かにそうかもね」

 

 羽衣を取ってしまえば結界術くらいしか取り柄が無いんじゃないだろうなあいつ?

 そう言えば、前にアイツは駆け魂隊はエリートみたいな事を言ってた気がするが……どうしてあんなのがなれたんだ?

 

 

 

『二人とも! ご飯できたわよ!』

 

 リビングの方から母さんの呼ぶ声が聞こえた。

 もうそんな時間だったか。

 

「あ、はーい! 今行きます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ……翌日、朝……

 

「おはようございます、神様!」

「……よし、まずは説明してくれ」

「あ、うん」

 

 朝起きて朝食を食べにリビングに降りると中川()()が座っていた。

 

「えっと……まず麻里さんはゴミ捨てに行ってるだけだよ。数分で戻ってくると思う」

「そっちは予想はついてた。問題はもう一つだ」

「……エルシィさんはなんかまたアイドルしたいとかなんとか……」

「…………いやまぁ、羽衣を除けばお前の方が有能そうだと昨日確かに言ったし、お前がエルシィの代わりに手伝ってくれるなら僕は別に構わないんだが、お前はそれで良かったのか?」

「学校はなかなか行けないから私は楽しいよ?」

「あのアホが何かやらかさないかが心配なんだが……お前が大丈夫なら構わん」

「よかった。それじゃあ朝食食べましょ、に~さま♪」

 

 それで良いのかアイドルよ……

 

 

 

「あ、そう言えば……」

「どうしたの?」

「駆け魂が悪魔だって話、エルシィから聞いたか?」

「え? うん。

 そこから魔力を搾り取ってたから簡単に魔法が使えたって所まではエルシィさんから聞いたよ」

「じゃあ今はどうなんだ? 大変じゃないのか?」

「大丈夫だよ。

 えっと……これ見てもらった方が早いかな?」

 

 そう言って中川が差し出したのは一枚の封筒だ。

 ……見覚えがあると思ったら、前にドクロウから送られてきた封筒と全く同じもののようだな。

 

「妙な呪いとかはかかってないから大丈夫だよ」

「そういう妙な所は覚えてるんだな。どれどれ?」

 

 封筒からはまた1枚の手紙が。

 そう言えばこの手紙は日本語で書かれてるが、地獄でも日本語が標準なんだろうか?

 いや、それは無いか? 単純にドクロウがこっちに合わせているだけだろう。

 

[前略

 君の中に駆け魂が居た時は魔力量に余裕があったので問題は発生しないと踏んでいたが、今後はそうも行かないだろう。

 そこで、ペンダントには実は君の生体データを収集して定期的に最適化するようにプログラムが組んである。

 そろそろ君のデータも揃ってきたので以前よりも格段に高効率な魔法行使ができるだろう。

 自動調整では間に合わない大幅な修正が必要な場合はエルシィの羽衣に信号を送るようになっている。その時は連絡してほしい。

 草々]

 

「……都合が良いと言うか何というか……

 無理はするなよ?」

「うん。分かってるよ」

 

 

 

 

 

 

 登校しながら中川と昨日の事を話す。

 

「さっき難航してるって言ってたけど、どういう事なの?」

「ヒロインの属性やら攻略ルートやらの話は覚えてるか?」

「えっと……多分」

「ふむ……じゃあ細かい説明は省くぞ。

 簡潔に言うと、今回のターゲットである吉野麻美の属性が掴めなくてルートが確定できない。以上だ」

「簡潔にまとめたね……結局あの後も全く分からないの?」

「ああ。適当に会話しても返ってくる反応はことごとく普通、おまけに住んでる家まで普通の一戸建てだったよ」

「あの、家って関係あるの?」

「あるに決まってるだろう!」

「そ、そう」

 

 一見地味な娘でも家とか家族とかが一癖も二癖もあるというのはギャルゲーでは定番……とまでは言わずともそこそこある。

 なので割と期待していたんだがな。

 

「属性、属性かぁ……

 あ、そう言えば茶道部に居た時の吉野さんの態度なんだけどさ。

 言葉に表すなら『演じてる』が一番近い気がしたんだけどどう思う?」

「そうだな……確かにそんな感じだよな。

 僕達が見た場面の全てで平均的な人間を演じているとするなら説明は付くか」

「これって何か手がかりになるかな?」

「とりあえず考えてみる価値はあるな」

 

 今の態度が全て演技によるものなら、その演技を取っ払ってしまえば本音を見る事も可能になる。

 演技をする理由に心のスキマが関わってる可能性もあるな。

 取っ払う手段を考えるためにも理由は把握できた方が良いだろう。

 

「演技だと仮定して、何であいつはわざわざそんな事をしてるんだろうな?」

「う~ん……目立ちたくないから、とか?」

「よし、その線で行ってみよう。

 目立ちたくないという事は……他人と関わりたくない、というのはどうだろうか?」

「良い意見だとは思うんだけど……そんな人が茶道部に入るかな?

 他人と関わるのが嫌なら他の部活とか、最悪帰宅部でも良いんじゃないかな?」

「確かにそうだな。そうなるとこの説は苦しい……

 ……いや、そうでもないぞ」

「?」

「少し話は変わるが、お前がアイドルになろうとした理由って何だ?」

「うぇっ!? え、えっと……笑わないでね?」

「内容による」

「そこは『うん』って言ってほしかったよ」

「安心しろ。大体想像は付く。

 おおかた、『引っ込み思案で友達も居ない自分を変える為』とかだろ?」

「えっ!? 何で分かったの!?」

 

 中川の心のスキマからそれっぽい理由を適当に考えただけなんだけどな。

 本人には言わないでおこう。

 

「で、話は戻るが……」

「戻すの!?」

「……あいつも同じだったんじゃないのか?

 『他人と関わりたくないと思っている自分を変える為』

 その為に茶道部に入った」

「あっ、なるほど」

「これが正しいなら、『他人と関わりたくない』と言うより『他人と関わるのが嫌い』と言うべきか? 『嫌い』ではなく『苦手』かもしれんが。

 いや、これもまだ正確ではない。自分を変えようとしているのであれば『他人と関わるのが嫌いな自分が嫌い』という事になるな」

「自分が嫌い……これって十分に心のスキマになるよね?」

「ああ。間違いなくなるだろう。合ってるなら」

「……合ってるのかなぁ?」

「合ってる気がするぞ。この説が正しいなら謎が一つ解明される」

「謎?」

「ほら、『吉野麻美は僕の事が好きだ』とかいう眉唾物の噂の事だ」

「…………あ、確かに。納得できるね」

 

 エルシィが相手だと1から10まで説明する必要があるが、中川だと1を聞いただけで大体理解してくれるからありがたいな。

 

「これで攻略のとっかかりができた。ありがとな中川」

「わ、私は何もしてないよ」

「そんな事は無いさ。やっぱりお前エルシィよりずっと有能だな」

「アハハ……」




入れ替わりの辺りの話で若干ご都合主義が入ってる気がしないでもないですが、こうでもしてかのんちゃんを物語に参加させないと本作の基本設定の意義が半分くらい消し飛ぶのでどうか寛大な心で見逃して下さい。





さて、
お気に入り数100件超えましたね~。
まさかこんなに早く到達するとは……
前作では70話くらいかかったから本作ではもっとかかるんじゃないかと連載前は思ってましたよ。
それじゃあ……また企画でもやりましょうかね。
ちなみに難易度は極悪です。本当にヒマな方だけどうぞ。

企画:女神当て大会 1
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=128547&uid=39849

では、次回もお楽しみに!

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