もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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32 拘束

「ハクア、何を買ってるんだ?」

「うちの協力者(バディー)へのおみやげ」

 

 桂木は晩ご飯の時に甘い物が苦手って言ってたから……この辺でいいか。

 エルシィの好みは昔と変わってないならこれで良さそう。女神になっても味覚は変わってなかったっぽいから多分大丈夫。

 あとは……一応世話になってるから私の協力者にも買っておきましょう。好みなんてさっぱり分からないから適当に勘で。

 

 選択を終えてレジに並ぼうとすると集団が入って来た。先頭に立っていたのはノーラだ。他はいつもの取り巻きみたいね。

 

「あ、ノー……」

「シケてるわねぇ。お前たち、他の店行くわよ」

 

 私と目を合わせたと思ったら挨拶する間もなく去って行った。

 ……よく考えたら女神関係の話は極秘なんだから挨拶すらも避けた方が良かったわね。

 ノーラは意識して無視したんだろうな。そういう意味では少し悔しいけど凄く有能なのよね。

 

「毎度ヤな奴だなあいつ。

 角付きの連中なんて駆け魂の仲間みたいなもんじゃないか!」

「ちょっ、シャリィ? 言いすぎじゃないの?」

「角付き悪魔に力があったのなんて昔の話だ。

 今はもう平等のはずじゃないか」

「……平等、そうね……」

 

 そう言えば、あの子……フィオも角付きだ。

 あの子はどう思ってたのかしらね? 学生時代は仲良くやってたとは思うけど、心の中では鬱屈した気持ちを抱えていたのかもしれない。

 この新地獄は今まで平和だと思ってたけど、一皮剥けば黒い大きな影が蠢いている。

 これからどうなっていくのかしら。この世界は。

 

「どうした?」

「……ううん、何でもない。

 まったくもー。本当にシャクよね。ノーラの奴はー」

「ハハハッ、そうだな」

 

 この地獄がもうどうにもならないなら女神にでも縋るしか無い。

 って、そこまで思いつめてるわけじゃないけど、女神の捜索と復活は最優先で行うべきだ。

 サッサと帰りましょう。何か人数過多な節があるけど、私にしかできない事だってきっとあるはずだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 入国手続きに比べたら出国の手続きはかなり簡素だ。

 名前と出国目的を告げて、あとちょっとした手荷物検査があるくらいだ。

 

 

 

 たったそれだけ……のはずだったんだけど……

 

 

 

 私が受付で名乗ると同時に顔を隠した3人の悪魔に囲まれていた。

 

「っ!? な、何!?」

「ハクア・ド・ロット・ヘルミニウム殿。公安部です」

「なっ、公安!? どういう事!?」

「あなたに公務法30条違反の告発がありました。ご同行をお願いいたします」

「30条……服務違反!? どうして!? 私は何も……」

「これは逮捕ではありません。事実確認が目的なのでご安心を」

 

 はい、安心します……ってなるわけないでしょうが!!

 ここで逃げ出すと……この浮島が封鎖されるだけでしょうね。そもそもこんな音も無く囲んでくるような相手3人から逃げられる気がしない。

 ……ここは、大人しくしておきましょうか。

 

「……分かりました。どうぞ調べてください」

 

 無視して進む事ができないなら、この場面での理想の結果は可能な限り早く釈放される事。

 色々と気になる事はあるけど、全部考えてたらキリが無いからまずはそれを目標にする。桂木に情報を投げておけば後は勝手に答えを出してくれるでしょう。

 

 

 ……ただ、無事に脱出するには問題がある。

 前に桂木にちょっと話した事だけど、『他人の羽衣の深い機能は使えない』

 そして、本人すらも簡単にはアクセスできない機能がある。

 その機能とは、ログの収集。

 特に座標データはかなり厳重に管理されている。そこを調べられるとここ数日間の私の居場所がバレる。

 どうにか破壊したとしても頑張れば大体は復元できるらしい。

 一応、入出国の時にはダミーログを提出してるけど……オリジナルのログを渡せと言われたら厳しいかもしれない。

 ああもう、こういうのは桂木かノーラの得意分野でしょう!

 ……何とかしないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、僕は透明化してから歩美の様子を伺う事に決めた。

 僕は歩美が好きだという設定だからな。正面から乗り込むと歩美が萎縮するだろう。

 というわけで、放課後だ。

 

「なんだか懐かしいね。こうやって隠れるのも」

「……そうか、お前と2人だけで隠れるのって何気に初めてじゃないか?」

「あれ? ……確かにそうかも」

 

 今回エルシィはエルシィとして軽音部に参加するから部屋の隅で隠れているのは僕とかのんだけだ。

 羽衣さんが居ないと透明化もままならないので、『僕とかのんとエルシィが揃っていてなおかつエルシィだけが隠れない』という条件を満たさないと2人で隠れる事にはならない。

 そもそも学校でかのんとエルシィが揃うのがレアだからなぁ……。

 

 

 

「よーし! 今日もやるぞぉ!!」

「はい、精一杯頑張らせて頂きます」

「……あれ? 結? エリーの声真似した?」

「い、いえ……わざわざそんな事しませんよ」

「……え、エリー。もう一回行くぞ。

 今日もやるぞ!!」

「え? はい。精一杯頑張らせて頂きます」

「エリーが壊れた!! 誰か、衛生兵!!」

「あ、あの……どうしてそこまで大騒ぎされるのでしょうか?」

「お前の口調が明らかにおかしいからだよ!!

 どうしたの!? 何か悪い物でも食べた!? それともあのアホ兄貴に何かされたの!?」

 

 誰がアホだ。そして僕はそいつには何もしてないぞ。

 

「何を仰っているのかよく分かりませんが……舞校祭まで時間があまり無いんですよね? 頑張りましょう」

「待って待って! うちらの知ってるエリーはもっとポワポワしたドジっ娘だったはずだ!! お前絶対偽物だろ!!」

 

 

 ……案の定騒ぎになってるな。

 

「……私、今からでも出ていこうか?」

「いや、別にいいだろ。どうせすぐにメッキが剥がれるし」

「ミネルヴァさんは果たしてメッキって呼んで良いのかなぁ……」

「……さぁな」







 羽衣さんに記録されるログデータの種類はイマイチはっきりしませんが、単なる位置座標のデータなら音声データや視覚データと比較してかなり軽そうなので確実に入ってそう。サボリ防止の為のデータとしても結構有効そうですし。
 音声データや視覚データの記録は地獄の技術力なら普通に収集できそうですが……どうなんでしょうね? 技術的な問題だけじゃなくてプライバシーの問題もありそうです。

 原作におけるリューネさんの行動を見る限りでは『女神の宿主は誰か』という所までは突き止められていなかったようなので、音声・視覚の入手はできていなかった模様。そもそも収集していなかったのか、復元に失敗したのかは不明ですけどね。

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