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結論から言うと、エルシィの偽物疑惑は数分で晴れた。
「さて、張り切って参りましょう」
ギィィィン!!!!
「ちょ、エリー! 音量大きすぎ!!」
「うわっ、す、すみません。えっと、最小にして……」
ギャィィィィィィン!!!!!!!!
「ちょ、更に大きくなってる!!」
「す、すみません!!」
~~演奏終了後~~
「~~♪ 良い調子です」
「……おい、エリー」
「どうかしましたか?」
「……どうして! 何かこう……エリーっぽくなってるんだ!!
ここ数日はまともな感じの演奏だったじゃないか!!」
「あ、あの、私っぽい演奏とは……?」
「何かこう……エリーっぽい感じだよ! なあ皆!!」
「そ、そうだね……エリーっぽい感じだったね」
「何て言って良いか分からないけど……エリーっぽい感じだった」
「エリーさんっぽい感じという表現が一番しっくり来ますね」
「何なんですか! 私っぽいって!!」
「……なぁ、中川」
「ん? なあに?」
「演奏を聞いた感覚だけで個人を特定できるものなのか?」
「耳が良い人なら余裕だよ。
ただ、普通の人でも分かるほどの演奏っていうのはそうそう無いね」
「……エルシィって、ある意味天才だよな」
「……そうだね」
とまぁそんな感じでかのんが疑われるきっかけにもなった『演奏の腕』が決め手になって本物認定されたようだ。
口調が何かおかしい事は……ひとまずスルーされたらしい。
「よっし、舞校祭まで時間も無いからな。仕上げていくぞ!」
「「「「おー!」」」」
そうだな。もうじき舞校祭なんだよな。
ギャルゲーにおいてこの手のイベントは重要イベントだ。上手く活用できれば攻略を一気に進められる。
但し、日時は固定な上に誰か1人にしか使えない。いや、2日間あるから一応2人まで使えるか。1人に絞った方が効果的だが。
現状の日程で攻略に組み込めるだろうか? 使うとしたら誰に使う?
……いっそのこと舞校祭までに女神攻略を全部片付けておけば悩まずに済みそうだな。流石に無理だと思うが。
公安に囲まれて連れてこられた先は独房のような場所だった。
これ、どう見ても完全に犯罪者扱いよね。相当ヤバい状況なのは間違いない。
連れてこられた名目は服務違反って話だけど、こんな扱いをされるような事をやらかした記憶は無い。強いて言うなら……エルシィを助ける為に持ち場を離れてた事かしら。一応、服務違反になるわね。ちょっとサボるくらいなら誰でもやってるから問題になる事はまず無いはずだけど。
しばらく考えていると外から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
扉の向こうの公安の見張りと、やってきた誰かが会話しているようだ。
『は~い。久しぶり』
『あ、ど、どうもです!』
『ども~。お父さん元気~?』
『は、はい! レオリアの方にはいつも良くして頂いてて……』
『あ~、いーのいーの。
それより、中に居るのとちょっと話せる?』
『どうぞどうぞ! ご遠慮無く!』
『素直な子は好きよ~。あ、私が来たことはナイショね』
姿を見るまでもなく分かった。扉を開けて入ってきたのはノーラだった。
「ノーラ? どうしてこんな所に」
「ちょっと待ちなさい。防音するから。
……これでおっけー。
で、何でここにって? それはこっちの台詞よ。お前一体何をやらかしたのよ」
「……服務違反……らしいけど」
「フワッとしてるわねぇ……
まぁ、アレでしょ。どうせ室長に正統悪魔社の事でも報告したんでしょ?」
「え? 違うわよ?」
「……え? 違うの? クソ真面目なお前なら室長にバカ正直に報告してそうだと思ったけど」
「……も、勿論そんな事してないわよ!」
実を言うと、しそうになった。
しかし、こっちに来る前に桂木と話したら……
『何で報告の必要がある。あいつ、下手すると僕達よりも現状を把握してるぞ。
それに、地獄なんてキナ臭い連中の本拠地だろうが。そんな所で無闇に接触するんじゃない。
むしろ反目し合ってる風にするくらいの方が室長も100倍助かると思うぞ』
って言われた。
地獄を悪く言われたのは少しムカついたけど、それ以外は筋が通ってる。流石に露骨に反目するような態度は取らなかったけど、報告は止めておいたのだ。
「お前が室長に報告してて、室長が実は正統悪魔社だったっていう筋書きなら話は分かりやすかったんだけど、これはどういう事かしらね……
本当に服務違反だけでしょっ引かれたって事は無さそうだし」
「ただの服務違反でこれだけ厳重にやってたら公安が確実にパンクするでしょうね」
「正統悪魔社の件と無関係の可能性も有り得なくはないけど、流石に楽観視し過ぎでしょうね。
ただ、そうなると公安が動いたってのが気がかりだわ。
正統悪魔社の根っこの部分は地獄の相当深い所に繋がってる事になる」
「…………」
悔しいけど、桂木の言っていた台詞が否定できなくなってきている。キナ臭い連中の本拠地っていう台詞が。
周りは敵だらけで、誰が味方かも分かりはしない。
早く、皆の所に帰らないと。
「……ノーラ、私を連れて脱出する事ってできる?」
「ハァ? 何寝言を言ってるのよ。無理に決まってるでしょ。
それに、私は正統悪魔社に付く事にしたから」
「……はぁっ!? ど、どういう事よ!?」
「だってぇ、正統悪魔社に協力した方がどう考えてもおトクじゃない。
ただのゴロツキ集団じゃなくて上層部とのコネもあるみたいだしぃ」
「だ、だからって……昨日は何か凄く怒ってたじゃないの!!」
「個人の感情で利益を蹴るほど私はバカじゃないわ。
さ~ってと、私は色々と手を回してお前たちとは無関係だったって事にするから。
ま、せいぜい頑張んなさい」
「そんなっ!! くっ、一瞬でもお前を信じた私がバカだったわ!」
「ホッホッホッ。負け犬の遠吠えね。
この後のアナタなどうなるのかしらね~。拷問紛いの尋問とかが待ってるんでしょうね。キャー怖い。
自白したらアウトなのは勿論、反抗的な態度を取るだけで反逆罪に問われるかも。そうなったらジ・エンドね。
ま、
そう言い捨ててノーラは出て行った。
あいつ、本当にムカつく! って思ったけど……何か今の会話違和感があったわね。
よく考えてみよう。言葉の裏の意味を読むのは最近慣れてきてるから。
そもそも、正統悪魔社に付く事を私に言う必要が無い。味方のフリをしてれば私から情報を引き出せてたかもしれないのに。
……私が尋問でノーラの事を吐いてしまっても大丈夫なようにしたかったのかしら? ノーラだったらいざという時に本当に裏切るくらいはしそうだ。その為の布石だろう。
その後の会話では『次は拷問紛いの尋問が待ってる』とか『反抗的な態度を取るだけで反逆罪』とか『反逆罪に問われたらジ・エンド』とか言っていた。
私の考えすぎかもしれないけど、これは遠回しなアドバイスなの?
『尋問があるから覚悟を決めておけ』『揚げ足を取られるような事だけで反逆罪になる』『反逆罪に問われたらジ・エンドだけど、逆に言えばそれさえ凌げば大丈夫』
……考えすぎかもしれないけど、そう解釈しておこう。今の私にはそれに縋る事しかできないから。
……え? 何で言葉の裏の意味を読むのに慣れてるかって?
だって、桂木と中川の会話って主語とかその他諸々が毎回省略されてるのよ! そりゃあ深読みの技術が身につくわよ!!
って言うかあいつらアレでただの協力者だって言い張るのよ!? あんなに通じ合ってるただの協力者が居てたまるもんですか!!
もういっその事結婚でもしなさいって話よ!!
……少し取り乱した。落ち着きましょう。
今は……オリジナルのログを可能な範囲で消去しときましょうか。羽衣は没収されてないからそれくらいはできる。
復元の手間をちょっと増やすくらいしかできないかもしれないけど、なるべく頑張ってみよう。
うちのハクアさんは室長に報告などという無駄な事はしませんでした。原作と状況が違いますからね。
原作において、ハクアが捕まった一番の原因は何なんでしょうね?
ドクロウがハクアを犯罪者に仕立て上げて自由に動かせる手駒を作りたかった可能性もそこそこありそうな気もしますが……それをやるくらいなら普通に人間界に返しても問題は無さそうです。むしろ手間が増えるだけ。
となると、やっぱりシャリィの密告が決め手だったんでしょうね。
ハクアを地区長から引きずり降ろしてリューネさんをねじ込むだけのはずだったのに余罪がザクザク出てきてヴィンテージも驚いてたかも……?
何故か強化されてる深読み技術!
ハクアを助ける気があればノーラさんならこれくらいは言ってくれそうな気がします。