もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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34 女神の神託

 軽音部の活動終了後、僕達は帰路に就いた。

 アポロと一緒に下校するつもりだったんだが、どうやら先に帰ってしまったようだ。仕方ないので3人で下校している。

 

「ううむ、納得が行きません。私っぽい演奏って何なんでしょうか……?」

「……きっとアレだ。お前の演奏が高次元過ぎて人間には表現できなかったんだろう」

「なるほど! 流石は神様です。

 女神として覚醒しているとやはり演奏にまで影響してしまうんでしょうね」

(……テキトーに言ってみたが、あいつの演奏は何か変わったのか?)

(いや、私も元の演奏なんてそんなに聞いたことないし。軽音部の皆に訊いてよ)

「どうかしましたか?」

「ううん~、何でもないよ~」

 

 攻略とは何の関係もないとりとめのない話をしながらの下校だ。

 今日は朝から夕方まで積極的に仕掛けたイベントは少なかったな。丁度いい小休止だった、としておこうか。

 

 

 家に帰ると玄関の所に誰かが立っていた。

 ハクアではない。あいつなら羽衣さんでピッキングして勝手に入るだろうから。

 誰かと思って警戒しながら近付いてみたら……そこに居たのはアポロだった。

 

「やっと帰ってきたか。待ちわびたぞよ」

「アポロ? どうしてここに?」

「ちょっと用事があってのぅ。ひとまず上がらせてはくれぬか?」

「ああ、構わん。鍵を開けるからちょっと避けてくれ」

「うむ」

 

 

 アポロをリビングに通して、かのんはお茶汲みに入り、エルシィは僕の隣に迷い無く座った。

 それで良いのかエルシィ。お前たちって姉妹だよな?

 

「で、こんな時間にどうした?」

「まずは良い報告からさせてもらうのじゃ。

 むぅん!!」

 

 アポロが気合を入れると見覚えのある純白の翼が広がった。当然のように頭上にはハイロゥも輝いている。

 

「ほぅ? その段階まで戻ったのか」

「うむ! お主と屋上で別れた後……ちょっと色々あってのぅ。無事に翼まで復活したのじゃ」

「色々……まぁ、深くは訊かんでおこう」

 

 あの時のフラグを無視したようなキスだけで翼まで復活するとは思えないから本当に何かあったんだろう。

 例えば郁美と話して家族愛を育んだとか?

 ……何か負けたような気分だな。そもそも比べるもんじゃないが。

 

「何はともあれ、良かった。おめでとう」

「おめでとうございます。お姉様」

「……おめでたいのじゃが、そこまで淡々とした反応だと釈然としないものがあるのぅ。

 まあええわ。それで、もう一つやっておきたい事が……」

「アポロさん。お茶どうぞ」

「む、丁度良い。お前も入るのじゃ」

「え? 何の話なの?」

「妾の力が戻ったからにはやることは一つじゃ。

 桂木なら当然分かっておろう?」

 

 当然のように話を振られたが、一体何だ?

 アポロの力が戻ったらやる事……ああ、そういう事か。納得したよ。

 

「神託、だな?」

「そういう事じゃ。

 今から妾はミネルヴァと協力して神託の為の占術世界を構築する」

「占術世界?」

「未来を知る為の仮初の世界の事じゃ。

 説明が難しいが……まぁ、行けば分かるはずじゃよ」

「……まあいいだろう。念のため訊いておくが、危険は無いんだな?」

「無いのじゃ。あったとしても所詮は仮初じゃ。全く問題ないぞよ」

「分かった。じゃあやってみてくれ」

「では、皆で手を繋いで輪を作るのじゃ。

 あ、ミネルヴァとは直接手を繋がせてもらうのじゃ」

「という事は……エルシィはそっち、かのんはこっちだ」

「そうなるみたいだね」

「了解です」

 

 一番近い位置で輪を作ろうとするとエルシィが丁度アポロの反対側に来てしまうので場所を入れ変えて準備完了だ。

 

「では、始めよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくと、目の前には澄んだ空が広がっていた。どうやら占術世界とやらに入ったらしい。

 ふと足元を見てみるとそこには何も無かった。地面すらも。ただ、自由落下してるような感覚は無いので透明な板のようなものが張られているのだろう。

 ……更に周囲を確認すると円形の巨大な魔方陣のようなものが浮かび上がっており、僕は……僕達はその内側に立っているようだ。

 

「よし、接続成功じゃな」

「お姉様との共同作業は300年振りですが、上手くいったようで何よりです」

「うわっ!? 落ち……ない? うぅぅ……何か怖いよ」

「下を見下ろす為の足場じゃから透明なのは我慢して欲しいのじゃ。

 安心せい。この魔方陣から出ても落ちたりはせぬし、さっきも言ったようにあくまでも仮初の世界じゃから死んでも大丈夫なのじゃ」

「仮想現実によるシミュレーションみたいなものって事か?

 ゲームみたいな空間に入るのは僕も初めてだな」

「妾の能力をゲームに例えるのは何か嫌じゃが……あながち間違いとも言いきれんのぅ」

 

 僕達の眼下に広がるのはどこかで見たような街並みだ。地図を見るとよく見かけるような感じの。

 ……やはり、舞島の街のようだな。学校とか五位堂の家とかは大きいのでよく見える。

 

「今見えておるのはこの舞島の街のイメージじゃ。

 良い運気に満たされておれば輝いて見え、逆に悪い運気に満たされておるならば……見せた方が早いのぅ。

 この世界の刻を何日か進めてみるのじゃ」

 

 アポロがそう告げてからほんの数秒後、海のある一点から何か黒い物が吹き出し、街全体を覆ってしまった。

 しばらく眺めていると、黒い靄は薄れ、更地となった街が姿を現した。

 

「あ、アポロさん……? これって……」

「更地にしたのは妾が操作したからじゃが……今のままではそのくらいの事が起こると捉えておいて欲しいのじゃ」

「……アポロ、これは何日後の未来だ?」

「申し訳ないが、そこまでは分からぬのじゃ。ただ、1週間より遠いという事は無さそうじゃな。

 下手するとその半分も怪しい」

「最長で3~4日、か」

「妾が行っておるのはあくまでも占術……占いじゃ。決して定められた未来の予言ではない。そもそも未来とは不定のものじゃからの。

 じゃから、お主の努力次第でこの結末を回避する事は可能じゃ」

「そんな事は当然分かってる。不変の未来の占いなんて存在意義が無い」

「そうかのぅ……? まあよい。

 酷なようじゃが、この世界の未来はお主の働きに懸かっておる。

 頼む。妾の残りの妹たちを、どうか見つけ出してほしい」

「……一応確認しておくが、女神を全員復活させる事がこのゲームの勝利条件なんだな?」

「断言はできぬ。じゃが、きっと何とかしてみせるのじゃ」

「……いいだろう。今までも全力でやってきたが……全力を尽くさせてもらおう」

「うむ。では最後に、妾からの神託を下すぞよ」

「さっきまでのが神託じゃないのか?」

「アレはあくまで占術じゃ。神託とはまた別ぞよ」

「ふぅん。なら聞かせてもらおうか」

「うむ、では心して聞くぞよ」

 

 

 アポロは目を瞑り、両手を組み、歌うように言葉を紡ぎ出した。

 

 

 

 

 三百年の時を経て六柱の女神は運命の地へと舞い降りる

 

 冥界より来たる互助の女神が舞い降りるは人間の神と姫の身許。其の者が存在する場所こそが運命の集結点となる

 

 『純真』の女神は十年の時を経て帰還する

 

 『思慮』の女神は邂逅を果たす

 

 『互助』の女神は地に伏せ、運命が動き出す

 

 『創造』の女神は猛りと共に顕現す

 

 『勇気』の女神は疑念の先に輝きを取り戻す

 

 『叡智』の女神は始まりの刻より神姫の傍らにて眠る

 

 六柱の女神が顕現せし時、運命の地を襲う大いなる災厄は振り払われるであろう

 

 心せよ。答えを未来に問うなかれ。答えは汝の過去にあり。汝の心の内にあり

 

 あらゆる可能性を疑い、意識の隙間を埋めよ。最後の答えはそこにある

 

 

 

 

 

 ゲームのオープニングにでも流れそうな詩だな。

 こういうのに重大なヒントや伏線が隠されていて、2周目のプレイ時に感動したりするものだが……この詩ではどうなんだろうな。

 

「……こんな感じじゃな。あ、内容についての質問はされても困るのじゃ。

 こういうのは言葉が突然降ってきて、それを妾が口にしてるだけじゃからのぅ。

 大抵はわけが分からぬから解釈が大変じゃ。面倒だったら無視しても構わぬ」

「それでも質問させてくれ。『純真』とか『思慮』ってのは?」

「それだったら答えられるのじゃ。妾たちユピテルの姉妹に付けられた称号のようなものじゃ。

 『創造』の女神ウルカヌス、

 『思慮』の女神アポロ、

 『純真』の女神ディアナ、

 『互助』の女神ミネルヴァ、

 『勇気』の女神マルス、

 『叡智』の女神メルクリウス。

 以上じゃ」

「……思慮? お前が?」

「どういう意味じゃ!!」

「そういう意味だよ」

 

 その反応が返ってくる時点で思慮っぽくない自覚はあるよな?

 まぁ、神託を下すっていうのは思慮っぽいかもしれんな。性格じゃなくて能力基準なんだろう。

 

 しっかし、神託ねぇ……

 答えを未来に問うな、過去にある。

 これは、既に女神には会っているという事だと解釈していいのか?

 一体どこまで信用して良いものやら。とりあえず後でメモしておこう。

 

「では、戻るとするかの。もう一度手を繋ぐのじゃ」

 

 アポロの指示通りに手を繋いで目を瞑る。

 少し待って目を開けた時には、僕達はいつものリビングに立っていた。







こんな感じの気取った文章を使う話はディアナ編を書いてた頃からずっとやりたいと思ってました。
まぁ、最初の想定と比べて結構色々と内容が変わってるんですけどね。最後の文なんか投稿前日に加筆してます。

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