もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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38 勇気の女神

 タイムリミットは残り少ないらしい。可能な限り早く歩美を(多分マルスを)攻略して、メルクリウスの攻略に備えるとしよう。

 何、心配する事は無いさ。歩美の好感度は十分足りている。あとはきっかけさえ与えてやれば攻略は完了したも同然だ。

 昨日は少々のんびり過ごした分、積極的に進めていくとしよう。

 

「……ホントに大丈夫かな? そうやって自信満々に言われると何か不安になってくるんだけど」

「どういう理屈だ」

「神託を信じるのであれば、最低でも一つか二つは波乱がありそうなんだよ。

 だけど、桂馬くんの計画に障害が無いのであれば……何だか凄く重大な見落としをしてるんじゃないかなと」

「……意外と筋が通ってて少し驚いた」

「意外ってどういう事かな。私はエルシィさんじゃないんだけど?」

「あの、姫様? どういう事ですか?」

 

 単に言い方が漠然としてたから根拠の無い直感のようなものだと判断しただけだ。

 まぁ、神託も似たようなものなのかもしれんが。

 

「とりあえずやってみれば分かるだろう。

 失敗したら……その時に何とか立てなおすさ」

「……そうだね。失敗するにしても何が原因かをちゃんと突き止めてからだね」

「あの~……」

 

 

 そんな感じの会話をしながら、僕達は学校へと向かった。

 

 

 

 

 

 いつもの教室の会話まで飛ばそうかと思ったが、今日は教室に辿り着く前にイベントが発生した。

 校門を通ってしばらく歩いた所で、横から声が掛けられた。

 

「か、桂木……」

「ん?」

 

 その声の方へと向くと、制服姿の歩美が居た。

 朝練もせずにこんな所に居るのは珍しいな。

 

「どうしたんだい?」

「……ちょっと、2人だけで話がある。一緒に来て」

 

 もうしばらくしたら朝のHRが始まる時間だが……そんな無粋な事を言う必要は無いだろう。

 あんなのはどうせ二階堂がどうでもいい話をするだけの時間だ。サボった所で問題はあるまい。

 

「…………分かった。エルシィ、先に教室に行っててくれ」

「……了解しました。では、また後で」

 

 かのんの奴、今日は女神モードの演技なんだな。

 よくもまぁあんな一瞬で切り替えられるもんだ。

 

「で、どこで話そうか」

「えっと……人が居ない所。どこか無い?」

「……まぁ、屋上かなぁ。先客が居る可能性もゼロではないが、今の時間なら多分居ないだろう」

「じゃあそこで」

 

 しっかし、これはどういうイベントだ?

 このタイミングで話しかけられるのは予想していないんだが……

 ……僕の見えてない所で何かあったのか?

 

 

 

 

 

 

 屋上へ移動する。

 

 この時、屋上への道は僕が案内していたので歩美よりも数歩先を歩いているのは自然な流れだ。歩きながら会話って空気でも無かったしな。

 で、僕が先に屋上に入って、少し進んでから後ろに居る歩美の方を振り返る。これも自然な事だろう。

 

 だが……その振り向いた瞬間に刃が喉元に突きつけられているのは決して自然な事ではないだろう。

 

 これは……どういう状況だ?

 そんな僕の困惑を他所に歩美は……いや、歩美ではない誰かが口を開く。

 

「答えろ。貴様は何者だ?」

 

 ……一旦状況を整理しようか。

 目の前に居るのは歩美ではなく女神、恐らくは勇気の女神ことマルスだろう。

 髪色とか目の色とか明らかに変わってるし、歩美は武器を突きつけるような性格ではない。誰かに危害を加えようとするならその自慢の足を使うだろう。

 そんな女神の手元にあるのは半透明の剣。その切っ先は僕の喉元の数ミリ手前に突きつけられている。

 ……整理しても全く分からない。分かるのは、かなり想定外の自体に陥っているという事くらいだ。

 こういう時こそ落ち着こう。情報の整理で何も分からないなら情報の取得だ。

 

「何者と言われてもな……名前を名乗れって意味ではないよな?」

「……ユピテルの姉妹を探しているのだろう? 何が目的だ」

「…………」

 

 何故その事を歩美と女神が知っているんだ?

 女神は居ないと判断した場所にはその名を出してサクサク潰してきたが、少々雑過ぎたか。

 そのいずれかから……恐らくはちひろ辺りから漏れたようだ。

 

 まぁ、そういう事であれば言い訳くらいは用意してある。してなかったとしてもでっち上げるのは容易だ。

 

「僕が都市伝説について調べていた事に何か問題でもあるのか?」

「……は? ど、どういう意味だ?」

「だから、『ユピテルの姉妹』だろ?

 この舞島の街に居るらしい神様の名前らしい。

 ……噂レベルの存在だがな」

 

 こんな感じで『女神を調査していた』わけではなく『胡散臭い都市伝説を調べていた』という体に持ち込んでおく。

 きっとアレだ。そのユピテルの姉妹は恋愛の神様で、6箇所くらいある祠を巡ると恋愛成就のご利益があるんだろう。きっと。

 

「あの小阪ですら知らないほどのドマイナーな神のようだ。何か知ってるなら是非とも教えてほしいくらいだよ」

「そ、そうか……そうだったのか……」

 

 そう呟いた女神の手からはいつのまにか剣が消え去り、本人(と言うか本神)はがっくりと肩を落としていた。

 無事に欺けたようだ。女神は。







 歩美さんだったら色々と悩みそうだけど、マルスさんだったら何も考えずに突撃するかなと。
 マルスさん固有の能力みたいなのは原作では多分出てきてない(せいぜい身体能力の強化?)ので、とりあえず武器を顕現させる能力でもくっつけてみました。『固有能力:何か強そう(しかもリューネさんに瞬殺される)』ではあまりにも不憫なので。
 剣が半透明なのは復活が不完全なので能力も不完全だから。それでも鉄筋コンクリートくらいならバターのように切り裂けます。多分。

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