もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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48 曇りなき真実の言葉

 女神は今までは鏡越しに会話をしていた。だけど、今私たちの目の前にいる女神は少々異なるようだ。

 

「あなたが、メルクリウスさん?」

『そう言ったじゃないか。何度も同じ事を言わせないでくれ』

「え? ご、ごめんなさい」

 

 怒られてしまった。結構面倒なヒトもとい女神かもしれない。

 

「いつもの女神は鏡越しに会話していたが、お前は何で外に出てるんだ?」

『簡単な分体を創造しただけだ。と言っても、さっきできるようになったばっかりだがな』

「……何でわざわざそんな事を?」

『だって、私は女神だぞ? 男の身体って何か嫌じゃないか』

「……理屈は分からんでもないな」

 

 そう言えば桂馬くんも女の子の身体に入った事があったね。懐かしいなぁ……

 

『しかし、このボヤけた状態を維持するのもそれはそれで面倒だな。ん~……よし』

 

 メルクリウスさんは何か呟いた後、光の人影が形を変えた。

 光が集まっていき輪郭が見えなくなる。

 その後、徐々に光が薄れていき、現れたのは……私の顔だった。

 

「まぁ、こんなものか」

「……あの、メルクリウスさん?」

「何か?」

「……どうして、私の姿なの?」

「我が宿主の一番身近な女子だからだ。姉様方の宿主でもないしな。

 ふむ、仮初とはいえ肉体があるとやはり違うな」

 

 メルクリウスさんは手を握ったり開いたりして体の調子を確かめているようだ。

 その姿をよく見ると向こう側の景色が微妙に透けて見える。霊体みたいな感じなのかもしれない。

 

「……どんな姿だろうと自由に変えられるなら本人の好きにすればいいと思うが……訊きたい事がある」

「何だ? 手短に頼む」

「ずっと居たなら何で出てこなかったんだ? 何か理由でもあるのか?」

「お前たちの様子をずっと観察していた。人間同士の恋愛を間近で見る経験など無かったからな。

 おまえ自身の恋愛なら、なおさらだ」

「……まぁ、理解できんこともないか」

「それに、男の身体で出てくるのが何か嫌だったからだ」

「おいおい……それが主な理由に含まれるのかよ」

 

 女神というのはどうしてこうもマイペースな人が多いんだろう?

 結果的に助かったから良いんだけどさ。

 

「あ、そうだ。どのくらいまで復活してるの?」

「つい先ほど、所謂『翼持ち』くらいまでは復活した」

「……ついでに訊くけど、その前はどれくらいまで復活してたの?」

「ハイロゥが出る程度だ。

 うちの宿主のゲームに対する愛情は無尽蔵だが……女神には相性が悪かったのか、それとも何か別の要因があるのか、その程度しか復活できなかったようだ」

 

 少し前のディアナさんまでは普通に復活してたんだね。それもかなり早い段階で。

 当然ながら意識もあったんだろうし、ずっと私たちの事を見てたんだろうなぁ。

 

「質問は終わりか?」

「そうだな……何かあるか?」

「今は大丈夫だよ。エルシィさんは?」

「あれ? 居たのかお前」

「居ましたよ! 最初からずっと!!」

「ああ、そう言えば姉様も居たな」

「メル、あなたまでボケないで下さい!」

「ボケたつもりは無いが」

「えっ」

 

 姉妹の中でもミネルヴァさんの扱いはあまり変わらないらしい。

 メルクリウスさんって確か末っ子のはずだけど、エルシィさんが相手だからなぁ……

 

「姉様の事はずっと見ていた。相変わらずのようで何よりだ」

「そこはかとなく馬鹿にされている気がするのは気のせいでしょうか……?」

「気のせいだろう」

「そうでしたか。良かったです」

 

 サラッと信じたな。エルシィさん。

 昔からこんな感じだったのかな……

 

「長々と話してたら疲れた。しばらく寝るから起こさないでくれ」

 

 そう言って、メルクリウスさんは再び光へと姿を変え、桂馬くんの中へと戻って行った。

 ……もしかすると、面倒な人じゃなくて面倒臭がりな人なだけかもしれない。

 そう言えばエルシィさんも寝ぼすけとか言ってたような。

 

「……メルも相変わらずのようですね」

「そこはかとなくバカにしている……わけでは無さそうだな」

「何を言ってるんですか。当たり前でしょう」

「……何はともあれ、ようやく6人の女神が揃ったか。

 そうだ、かのん……ありがとな」

「えっ? どうしたの突然」

「メルクリウスを自力で見つけるのは僕には不可能だった。

 お前が居てくれたおかげだ」

「……桂馬くんがお礼を言った……?」

「僕だって礼くらい言うぞ。僕を一体何だと思ってるんだ!」

「うそうそ、冗談だよ。

 そう言えば、ずっと言いたくて言えなかった事があるんだ。聞いてもらえるかな?」

「どうした改まって」

「私はつい最近まで『恋愛の記憶を失ってた』っていう設定だったから言えなかった。

 でも、今なら気兼ねなく言える」

 

 たった1つの嘘を投げ捨てて、ありのままの私の想いを伝えよう。

 言うまでもない事だろう。けど、言うべき事だから。

 

 

「桂馬くん。大好きだよ」

 

 

 ついさっき、メルクリウスさんは『信頼』が『恋愛』に並び立ったと言っていた。

 つまり、桂馬くんが私に向ける感情は『信頼』であって『恋愛』ではないのだろう。

 それに対して桂馬くんの事が好きな人は大勢居る。

 この告白で、ようやく私はスタートラインに立てる。まだまだ気は抜けないな。

 

 桂馬くんは誰にも渡さないよ。

 だって私は、桂馬くんの許嫁(パートナー)だから。







 分体創造の元ネタは原作ミネルヴァさんのアレです。
 専門外のくせに完全上位互換な気がするのはきっと気のせい。
 桂馬の姿を借りた女神を出すのもなんだかなぁ……という気がしたのでこんな感じの設定にしてみました。

 実は初期にはメルクリウスの姿の案で『原作通りの歩美の姿』という案もあり、割と合理的なこじつけを考えていたのですが……それをやると説明が恐ろしく面倒になる上に本作の続編を書く必要性に迫られるので没になりました。
 どうすっかなぁ……続編。そこまで続ける気力があるのかどうか……

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