もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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06 神様のロジック

 そして放課後。

 案の定と言うべきか、僕達が教室を出てしばらく歩くと後ろの方から駆け足の音が聞こえてきた。

 

「ねえねえ、良かったら一緒に帰らない?」

 

 そう声を掛けてきたのは当然、吉野麻美(仮)である。

 昼休みの時に感じた性格からして向こうから声を掛けてくる事は想定していたパターンの一つだったので予定通りの返答を返す。

 

「そうだね、今日も向こうの方に用事があるからご一緒させてもらおうか」

「ん~、私は帰らせていただきますね。

 お邪魔虫は退散させてもらいます♪」

「お、お邪魔虫って、何言ってるのよエリーちゃん!」

「うふふっ、それじゃあまた明日!」

 

 おい中川、そんなアドリブ台詞をぶっこむ予定は聞いてないんだが?

 まあいいか。僕の妹としてその発言をするなら角が立つ事はまず無いし、僕の事が好きだとか言う噂も白黒付けたい。

 ……この吉野麻美(仮)にやっても意味が無いような気もするがな。ノーリスクローリターンなら問題は無い。

 

「それじゃあ行こうか」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでね、この間茶道部でね……」

 

 目の前の少女は僕と二人きりの下校中でも昼休みと同じペースで雑談を続けた。

 よくネタが尽きないな。人と話すのが好きなんだろう。

 

 ……さて、これは確定で良いな?

 昨日と環境がほぼ変わらないのにこれだけ性格が異なる。二重性格では説明できない。

 これで別人じゃなかったら二重人格くらいしか有り得ない。

 

「一つだけ、質問しても構わないかな?」

「? なあに?」

「そうだな、何て言うべきか……」

「うんうん」

 

 少しだけ間を置いて、問う。

 

()()()()?」

 

「…………へ?」

「とぼける事はない。と言うかそもそも隠す気が無いように見えるんだが?」

「ちょ、止めてよ。急に何言い出すのよ。

 私は吉野麻美だってば!」

 

 まだとぼける気なのか?

 だが証拠も無いんだよなぁ……

 ここでこのまま頑とした態度で問い詰めれば白状しそうな気もするが、目の前の彼女に悪い印象を与えるかもしれない。

 吉野麻美を攻略する上でその妹だか姉だかの協力はあった方がありがたい。

 そうだな、ではこんな手はどうだ?

 

「いや、君は間違いなく別人だよ。

 だって、もし本人なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう?」

「…………え?

 ええええええええええええっっっっ!? 振った!?!?」

「何だ、姉からは聞いてなかったのか?」

「えっと、え、えと、ええ~と……

 ……か、桂木くん、それホント?」

 

 嘘だと断定するならともかく、ここで疑問形で返すのは降伏宣言だと受け取って良いだろう。

 とりあえず楽にしてやろう。

 

「嘘だ」

「嘘かよぉぉぉおおおお!!」

「はははっ、もしお前が本人だったら自意識過剰な男になる所だったよ。

 さ、諦めて全部吐き出せ」

「うぅぅ……桂木くんコワイ。どうして分かったの?」

「あれで別人に見えなかったら相当な間抜けだと思うぞ?」

「そこまでかなぁ? 外見はお姉ちゃんと瓜二つだから別人だって発想はすぐには出てこないんじゃない?

「性格があれだけ変わってればな。学校の外と中で違うとかならまだ分かるが、何の理由もなくああなってれば誰でもおかしいと思うだろう」

「そっかぁ、ちょっと失敗したかな~」

 

 目の前の少女はちょっと恥ずかしそうに頭をかいた後、一つ咳払いをしてから再び口を開いた。

 

「それじゃあ自己紹介しておくね。

 私の名前は吉野(よしの)郁美(いくみ)。麻美お姉ちゃんの妹だよ」

 

 

 

 

 

 

 『立ち話もなんだから』という吉野郁美の提案で手近な喫茶店に2人で入る。

 僕も彼女も適当なものを店員に頼んだ所で僕から口を開いた。

 

「それじゃあ、何でこんな事してたのか説明してもらおうか。

 まぁ、大体想像はつくが」

「え~、ホントに?」

「ああ。一言で言うと姉が気にしてる男子の素行調査だろう?」

「え、う、うん。そういう事、だね」

 

 目の前の少女は分かりやすくうろたえる。

 話してた時から分かってはいたが良くも悪くも裏表の無い性格なんだな。

 

「って言うか桂木くん、お姉ちゃんがキミの事気にしてるの知ってたの!?」

「近くの席のどーしようもない女子がその事を噂してたし、昨日振り向いたらバッチリと目が合ったからな」

「お、お姉ちゃん……分かりやす過ぎるよ」

「そういう事以外での日常生活ではちゃんと演じきってるのにな」

 

 僕がそう言うと郁美は凄く驚いたようは顔をして、それから真剣な顔になって問い詰めてきた。

 

「どうして、知ってるの?

 どこまで知ってるの!?」

「どこまで、か。そうだな……

 ……今回の件だけじゃない。君のお姉さんの悩み、そしてその解決方法。

 その全てを僕は知っている」

「す、全てって、そんなのっ、神様じゃないんだから!」

「こんなのはただのロジックの積み重ねだ。正しい情報さえあれば神でなくてもできる。

 が、あえて言わせてもらおう」

 

 一呼吸置いて、言い放つ。

 

「僕は神、落とし神だ!」

 

 それを聞いた郁美はポカンとしていたが、少しの間を置いてから急に笑い出した。

 

「どうした? 僕が神を名乗るのがそこまでおかしいか?」

「あははっ、いや、そうじゃなくて」

 

 そしてひとしきり笑った後、僕の顔を真っ直ぐ見ながら口を開いた。

 

「神様じゃしょうがないね。分かったよ。

 桂木くん、力を貸してほしいの。一緒にお姉ちゃんの悩みを解決して!」


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